大人の人見知り~社会不安障害の症状と対策~あさイチ!より

春は出会いの季節です。
初対面の人との挨拶や宴会でのスピーチなど、緊張を要する機会が増えますから、「人前で緊張してしまう…」という人や「人の輪に入りたくても入れない…」という人にとっては憂鬱な季節でもありますね。
憂鬱なだけなら問題ありませんが、なかには激しい苦痛を感じてしまう人もいるそうで、家から出られなくなってしまうような人も増えているといいます。
そこで今回は「社交不安障害」と呼ばれる症状について詳しく解説していたNHK『あさイチ!』をまとめておきたいと思います。

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思春期の頃から…

番組に登場したYさんは二人の子供を育てる母親です。
長い間極度の人見知りに悩んできたというYさんは、「自分の発言を相手がどう思うかを気にしてしまって落ち着いて話せない」そうで、「自意識過剰とはわかりつつも、嫌われるのが怖い」と感じてしまうそうです。

そのように感じるようになってしまったきっかけは中学2年の国語の授業にありました。
朗読に自信がなかったYさんは緊張して声が出なくなり、なんとか絞り出した声は震えてしまったそうです。その姿を周りに見られている事自体にも恐怖を感じました。
このとき以来、人前に出ることを極端に恐れるようになり、親しい友人や家族の前でだけ明るい普段の自分でいられる状態になってしまいました。
「経験を積めば治るのでは…」と考えて接客のアルバイトなどにも挑戦しましたが、やはり客前では緊張してしまい、長く続けることができませんでした。

結婚し、二人の子宝に恵まれたYさんでしたが、息子さんが保育園に上がったことをきっかけに、再び心理的につらい状況に直面することになってしまいました。
息子さんの同級生の母親、いわゆる“ママ友”たちと交流する必要が出てきたのです。
Yさんはママ友から声をかけられただけで身体が固くなり、動悸が激しくなってしまいました。目元が痙攣し、口元は震え、とても相手の顔を見て話すことができません。
Yさんにとっては保育園の役員会も過酷で、発言を求められても否定されるのが怖いため、自分の意見が言えなかったそうです。

あまりのつらさに精神科を受診したところ、「社交不安障害(SAD)」と診断されました。

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あさイチ!より

社交不安障害とは、日常生活に支障が出るほど人前に出ることに対して強い不安や恐怖を感じる病気で、10〜30代の多くの人が罹患しています。

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この苦しみは性格?病気?

人見知りな性格という自覚がある人はたくさんいますから、「自分のこの不安は性格なのか、それとも“病気”といえるレベルなのか」と気になる方も多いはずです。
そんな方のために、番組ではその判断をする際に基準となる4つの質問が提示されていました。

・人前で発言するなど注目される状況が怖い
・他の人がすでに座っている場所(宴会・会議室)に行くのが怖い
・他人から否定的に評価されることが怖い
・生活が妨げられるほど、日々耐え忍んでひどく辛い…という状態が6ヶ月以上続いている

以上の4項目すべて(特に最後の質問の「6ヶ月以上続いている」)に当てはまると「社交不安障害(SAD)」である可能性が高いそうです。

人見知りな性格と社交不安障害という病気の違いについて、番組に登場した精神科医の清水栄司氏は、「不安は誰にでもあるが、大きく、長く続くようだと普通ではない。」と指摘していました。
社交不安障害を患うと、学生なら不登校になったり、社会人なら人前で電話をかけることができなくなったりしてしまうなど、生活に重大な支障が生じるようになってしまいます。

アメリカの調査によれば人口の約10%の人は生涯のうちに罹患するほど多くの人が悩まされる病気である一方で、社交不安障害であることを他人に気づかれることはほとんどないのだそうです。
というのも、本人は表情をつくったりマスクをしたり、手の震えを隠すような努力したりすることで必死に隠そうとするためで、他人が病気に気づいてあげるのが難しいという特徴をもつ病気でもあるのです。

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どうして人を怖がるのか

脳のメカニズムを研究している千葉大学の平野好幸氏は、社交不安障害の人の脳内で何が起こっているかを、実験により観察しました。

その実験は、他人の表情を見るときに脳のどの部分が反応しているかを観察するもので、被験者はMRIで脳を観察されながら、「普通」「怒り」「恐れ」「笑顔」の4種類の表情をしたさまざまな人の顔の画像を8分間見続けます。
その結果、健康な人の脳は「怒り」の表情を見たときだけ「扁桃体」という危険を察知して不安や恐怖心を引き起こす組織が反応するのですが、社交不安障害の人はすべての表情で扁桃体が強く反応してしまうことがわかりました。

扁桃体

扁桃体は、不安や恐怖などの感情を感じた時に活動することが知られています。過度な不安や恐怖が症状であるうつ病、不安障害やPTSDといった精神疾患においては、扁桃体の活動が過剰であること知られています。反対に統合失調症や自閉症に認められる感情や対人コミュニケーションの障害が扁桃体の活動の低下と関連していることも知られています。
国立研究開発法人 放射線医学総合研究所HPより

この実験からも、他人と接しているときは常に恐怖や不安を感じるという大変つらい状態であることがわかります。

このようになってしまうきっかけについて、先に登場した清水氏は「一度大きな失敗をしたことをきっかけにして人の表情を読み過ぎるようになってしまい、“また失敗したらどうしよう”などの悪い考え方のパターンにはまって発症してしまう」と解説していました。
人間は小学校の高学年辺りから他人とのコミュニケーションの際に不安が出やすくなるため中高生あたりで社交不安障害の症状が出はじめるそうです。一方で、引っ越しなどの生活環境の変化をきっかけにして、20〜40代で症状が強く出る場合もあるそうです。

そんな社交不安障害ですが、「認知行動療法」をおこなえば患者の4人に3人は症状を改善させることができるそうです。

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社交不安障害の治療

社交不安障害の治療としては薬を用いた治療が一般的ですが、「認知行動療法」と呼ばれる治療法も存在します。
認知行動療法とは、考え方と行動を変えることで不安を解消することを目指す治療法で、病気とまではいえない人見知りの性格の改善にも効果があるといいます。

番組に登場したSさん(20代女性)は5年前、社交不安障害と診断されました。
大学3年の就職活動をきっかけに「自分自身はどんなに頑張っても受け入れられない」という意識をもつようになり、それ以来ひとに会うのもつらくなってしまったそうです。さらに「この状態が続くと先もない」と考えるようになり、その症状を自覚しているからこその不安にも悩まされるようになってしまったといいます。
そこで、母親と一緒に清水氏の病院を受診しました。

清水氏の診察では、抱えている不安を聞き出すことから始めます。清水氏によれば「モヤモヤして、(自分自身の心が)はっきりしないからこそ、不安になる面もある。言葉にして、“自分はこういう風に考えているんだ”と捉えることで、自分をコントロールできるようになっていく」のだそうです。

その診察の中でSさんは「メガネ屋さんに行くのが怖い。」と話していました。
「古くなって傷ついてしまったメガネを店員さんに見られる時に引け目を感じてしまう」など、不安を具体的な言葉にしていくことで、Sさんの考え方のクセを明らかにしていきます。
Sさんの場合は、「他人から劣った人だと思われる」という強い思い込みがあることが明らかになりました。

次に行ったのが「ビデオフィードバック」です。自分の姿をカメラで映し、客観的に観直す方法です。
Sさんの場合は、清水氏が店員役となってメガネの購入シーンを実演し、その様子をカメラで撮影していました。
映像を観る前に、自分がどう映っているかの予想をSさんに尋ねると、「店員さんの顔を見るようにしているが、うまく見れてないかもしれない。」と話していましたが、実際に映像を観てみると、「そんなに明るくはないけど、そんなに気にならない。(この程度の人なら)いるのかな、こういう人も。」と感じたそうです。
このように客観的に自己を見つめることで、“劣っている”という思い込みに根拠がないことを明らかにするのです。

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意識の方向を変える

さらに、誰でもカンタンに行うことができる方法で、人見知り改善にも有効な方法が紹介されていました。
まず、二人が椅子に向き合うように座り、見つめ合います。この際に相手に見られている自分を意識して緊張してしまう人は、意識が自分の方に向いてしまっているため、緊張してしまうのです。

このようにして“意識の方向”を自覚した上で、その意識の方向を相手に向けるトレーニングを行います。
緊張している人に対して、第三者が「相手の人の髪型はどうですか?」などと質問してみると、緊張している人の意識は自然とそちらへと向かい、緊張がほぐれます。その変化を本人に感じさせることで、意識の方向は動かせるということを教えるのです。
清水氏によれば「このような練習をして自由自在に意識の方向を動かせるようになると、人前での不安が楽になっていく」そうです。
いきなり人と向き合うのはつらい…という方は、カメラ目線で撮影された人物の顔写真と向き合って、同じようにトレーニングすることから始めてもいいそうです。

応用編として、「電車に乗るのが怖い」という方は、他の乗客の方へ意識の方向を動かして観察してみると、「みんなはスマホをいじったりしていて、実際は自分のことを注目していないんだ」ということがわかって、不安が和らいだりするそうです。

このトレーニングを行ったSさんはメガネ屋さんに行き、店員さんに希望を伝えるなどのコミュニケーションをとることができるようになっていました。

周囲の人がとるべき配慮

社交不安障害の人には視線を恐れる人が多いので、斜め前の席に座ってあげるなどの配慮が有効です。人の多いところが苦手な人も多いので、空いている時間に待ち合わせ時間をずらしてあげる工夫も有効だそうです。
NGワードは「もうちょっと頑張れたんじゃないの」や「甘えてる」、「みんなしんどいんだから」などの否定的な発言です。これを言われるとプレッシャーとなり、症状が重くなってしまいますので、否定的な発言はしないようにしてください。
基本的には、共感的に接することが大切だそうです。

まとめ

社交不安障害は、誰にでもありがちな悩みだからこそ相談することを「恥ずかしいこと」と捉えがちで隠してしまい、悩みが深くなってしまうという特徴があります。
この障害を抱えていない人でも、自分の発した何気ない一言によって社交不安障害の人を深く傷つけてしまい、病気を重くしてしまう可能性があることを知っておく必要がありそうです。


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