唾液はとても大切な役割を果たしています。食事ができるのも会話ができるのも、唾液が絶えず口の中を潤しているからです。
通常、唾液は1日におよそ1〜1.5リットル分泌されているのですが、それが減少して体の不調が起きる人が増えているそうです。
唾液が減少すると口内炎や虫歯などになりやすくなりますし、料理の味付けが物足りなく感じたり、口臭が気になったり、風邪やインフルエンザなどにもなりやすくなるそうです。
今回は、唾液の分泌量が減るメカニズムや、最新の治療法まで紹介していた『ガッテン』を中心に、情報をまとめていきたいと思います。
唾液について
唾液には、歯を修復する力があります。
下の図は、人工的に作った歯の断面図です。
ガッテン!より
黒い部分はスカスカになっていることを示しており、この人工歯は歯の内側が溶けて虫歯になる直前の状態を再現しています。
2人の男女にお願いして、この歯を1日4時間以上口に入れて舐め続けることを2週間続けてもらう実験をしました。
2週間後、特殊な装置で見てみると…
ガッテン!より
白くなっていることがわかります。スカスカが改善しているということです。
これは唾液が促した歯の再石灰化によるもので、初期の虫歯程度なら唾液の効果で充分に修復することができことを示しています
口の渇き
大事な会議におけるプレゼンの直前や就職面接のときなど、「緊張した時に口の中が乾く」という経験をしたことが誰にでもあると思います。
この現象を説明するために、東京医科歯科大学の杉本久美子氏はある実験を見せてくれました。
「単純な計算式が書かれた画面を被験者に見せて、その答えが合っているかどうかを5秒以内に◯☓で示す」という行為を、10分間休みなく続けます。このストレスによって唾液の分泌量がどう変化するかを、実験の途中と終了直後に計測することで見ていく実験です。
その結果は…
ガッテン!より
ストレスを受け続けることで唾液の分泌量はどんどん減っていき、最終的には半分以下にまで減ってしまいました。
このような現象が起きるのは、唾液の水分量を減らしつつ唾液の成分濃度を濃くするためと考えられています。
自然界では、肉食獣に襲われたあとに逃げ延びた草食動物などが、仲間に傷の箇所を舐めてもらう光景を見ることがあります。唾液は動物にとって天然の傷薬としても機能しているため、傷の回復を早めるためにそのような行為に及んでいるのです。こういうときに唾液の成分が濃い方が傷を治すのに適しているため、天敵に出会うなどのストレスを受けたときには、唾液の成分を一時的に濃くして傷に備えていると考えられます。
上記の実験でも、唾液の量が減った一方で、殺菌効果を持つ免疫物質の濃度は1.4倍に上がっていたそうです。
ストレスが加わると、唾液を分泌する唾液腺に脳から「成分を濃くし、水分を減らすように」という指令が下るため唾液が減少します。そして、緊張やストレスがなくなれば元の分泌量に戻ります。先述の実験でも、テストが終わった9分後には唾液の量が回復していました。
しかし、ストレスなどから解放されたあとも唾液の量が戻らないままになってしまう人が増えています。いわゆる「ドライマウス」です。その数は日本国内で推定800万人とも言われており、引き起こされる様々な身体的トラブルに悩んでいます。
ドライマウスになった3人の体験談
ドライマウスは唾液の減少により引き起こされる口腔乾燥症のことです。
Kさん(24歳女性)は、就職活動などで苦労していた1年ほど前から口が乾燥するようになりましたが、就職が決まって働き始めた現在でも症状が続いているそうです。
「緊張しているときの口が乾く感じや、喉が渇く感じとは違う。舌が水分に覆われていない感覚」だそうで、外出する時は水のペットボトルや飴などが手放せないそうです。しかし、それらの対処は一時的なもので、数10分〜数時間するとまた口内が乾いてくるそうです。
Oさん(78歳女性)は友人と旅行に行って宿泊先の夕食を食べている時に味を感じなくなり、以後、何を食べてもおいしいと感じられなくなってしまったそうです。また、口内炎ができやすくなってしまいました。 頻度は1週間に1つ新しい口内炎ができるほどで、ヒリヒリとした痛みが1日中続くそうです。
3年前にドライマウスを発症したKさん(71歳女性)は、食べ物を飲み込みづらくなってしまいました。「食べ物が入っていかないので水分と一緒に流し込んでいく感じ」だそうで、食べることが嫌になり、痩せてしまいました。
さらに、それまではなかった口臭も強く感じるようになり、人と会うのが嫌になって家にこもりがちになってしまったそうです。
ドライマウスの原因
ストレスから解放されたら戻るはずの唾液の分泌が、戻らなくなるのはなぜでしょうか。
東京医科歯科大学の豊福明教授は今から8年ほど前に、口の渇きを訴えて病院を受診する人が増えていることに気が付きました。
口の中を調べても異常は見当たらないため、口ではなく脳に何か変化が起きていると考え、特殊な装置で患者の脳の血流量を調べてみることにしました。
下の図は、正常な人の脳の血流量を示した図です。
ガッテン!より
赤い部分ほど血流が多いことを示しているのですが、ほぼ左右対象であることがわかります。
しかし、ドライマウス患者の脳は…
ガッテン!より
血流がなぜか右側に偏っていました。検査したドライマウス患者35人のほぼ全てに右寄りの傾向が見られたといいます。
これに関連する実験があります。
脳神経の専門家である日本大学の酒谷薫教授は、被験者に脳の血流を測る装置を取り付けた上で「3562から73を連続で引いていく」という少々難しい暗算問題で脳にストレスをかけ、血流の変化を見る実験を行いました。
その結果、ストレスを感じた際の脳の反応には「血流が左に偏るタイプ」と「右に偏るタイプ」の2つのタイプがあることがわかってきたそうです。
被験者の手で測っていた心拍数を併せて見ると、左に偏るタイプの人のテストを行っている間の1分間あたりの心拍数は平常時に比べて4回増えただけでしたが、 右に偏るタイプの人は平均14回も増加していました。
血流が右に偏るタイプの人の方が、ストレスに対して敏感になっていると考えられるのです。
この結果から、「ストレスに敏感な人はストレスの長期化によって口の乾燥自体にもストレスを感じるようになり、唾液の分泌量が戻らなくなってしまい、ドライマウスになる」という結論が導き出されました。
※ドライマウスの原因には、降圧剤などの薬の副作用や口呼吸、唾液腺自体の機能が衰えるシェーグレン症候群などもあります。
ドライマウスの改善法
鶴見大学の齋藤一郎教授によると、「因果関係は今後の研究課題だが、症状が継続的に続く理由は精神的なもの、神経的なものが関わっていることが明らかになってきた」といいます。
齋藤氏が診たある患者は、「横断歩道の白線だけを歩く」ことや「オカリナを演奏する」ことで症状が改善したそうです。白線を踏むことやオカリナの演奏に意識を集中することで、口の中の痛みや渇きへの意識を外すことが目的です。
ストレスに敏感な人が毎日病気のことばかり考えていると、負の連鎖で不安が増大していきます。その意識を逸らしてあげることで症状を改善させるのです。
この観点で見ると、口臭が気になるからといってずっと家にいることは逆効果であることがわかります。
人によっては窓ガラスを拭いたりお風呂のタイルの目地を掃除したりすることで改善した人もいたそうですから、なにか自分の没頭できることを見つけてそれを習慣化するとよいでしょう。
ドライマウスのセルフチェック
ガッテン!より
一時的に乾燥することは誰にでもあるので、それが継続した場合は懸念する必要があります。
鼻の中の湿度は口の湿り気によって保たれるそうですから、鼻の乾燥が気になる人はドライマウスが疑われます。
セルフチェックをしてドライマウスが疑われる場合は、専門医に診てもらうようにしましょう。
「ドライマウス研究会」のホームページ(http://drymouth-society.jp/)では、全国4500人の会員(歯科、口腔外科、耳鼻咽喉科)が紹介されているそうです。受診の際には参考にしてみてください。
改善・対処法
最近は、ジェルタイプの保湿剤が販売されています。指で口内に塗り、唾液不足を補います。スプレータイプも販売されています。
・唾液腺を刺激する口まわりの運動
口を、前歯が見えるように「い」の形にして、口のまわりの筋肉に力を入れます。
ガッテン!より
次に、口を「う」の形にして唇を前に突出させ、口の筋肉を緩めます。
ガッテン!より
口の渇きを感じた時にこの緊張と緩和の動きを10回程度繰り返します。
筋肉の緊張と弛緩を繰り返す運動は自律神経のバランスを整えて、ストレスの解消を促す効果も期待できます。
唾液には2種類あります。
・漿液性唾液(サラサラ)
主に副交感神経系の刺激(リラックスした状態)で分泌するサラサラの唾液。食べ物を飲み込みやすくしたり、口の中を中性に保ったりする目的で分泌される唾液です。成分は水やイオン、デンプンを分解する唾液アミラーゼがメインで、主に耳下腺から分泌されます。
・粘液性唾液(ネバネバ)
主に交感神経系がはたらくことで分泌するネバネバの唾液。細菌を絡め取って体内に侵入するのを防いだり、口内の粘膜を守って保湿したりする目的で分泌されます。主に舌下腺や小唾液腺から分泌されます。
両者をバランスよく分泌させるために、それぞれの唾液腺をマッサージすることが重要です。
方法についてはこちら(http://kenkouiji.info/?p=7365)の記事をご覧ください。
まとめ
健康ならほとんど意識することがない唾液ですが、とても多くの大切な役割を果たしていることが、今回の特集からおわかりいただけたと思います。
分泌量が落ちる原因がストレスであるということから一種の“現代病”とも言えるドライマウスは、なってしまうと生活の質が大きく落ちてしまうようです。
ご紹介した改善法を試してみても改善が見られない場合は、専門医に診てもらい、適切な治療を受けるようにしましょう。