近年、「逆流性食道炎」が増えていることをご存知でしょうか?
ガッテン!より
患者数が40年でおよそ9倍に増えています。
逆流性食道炎は胃酸の逆流が原因で起こるもので、胃もたれや胸焼けなどを引き起こします。近年では、体のあちらこちらに症状が現れる新型の胸焼けも出ています。
しかも、発症するのは高齢者だけでなく若い人にまでその影響が広まっているそうですから、幅広い年代で対策が必要になってきます。
今回は、胃酸の逆流によって引き起こされる様々な症状について解説していた『ガッテン』を中心に、情報をまとめていきたいと思います。
スポンサーリンク
なぜ胸焼けが起こるか
なぜ胃酸が逆流すると、胸焼けが起こるのでしょうか?
食べ物をたくさん食べたとき、胃酸もその分多く分泌されます。この際に、胃の中の胃液が、胃の入り口である「噴門」という部分を何らかの理由で通り抜けて、食道のほうに逆流してくることがあります。
胃の内側には粘膜があるため胃液でダメージを受ける事はありませんが、食道には粘膜がないため傷つき、胸焼けが引き起こされるのです。
胃酸が引き起こす様々な症状
胃酸が引き起こすのは、逆流性食道炎だけではありません。
せき
企業研修の会社を経営するTさん(43歳男性)は、4年前に突然、一度始まると止まらない咳が始まったそうです。
健康には自信があったといいますが、「とにかく咳が止まらなくて、空咳のような、むせるような咳が続いた」と話していました。特にひどいのは人と話しているときや食事のあと、夜寝ているときなどだったそうで、市販の薬を使ってもなかなか止まらなかったそうです。次第に喉に異物感が出るようになり、のどのあたりに何かが潜んでいるような違和感でとにかく気持ち悪かったそうです。
原因がわからないまま病院をいくつもまわり、ようやく胃酸の逆流が原因だとわかったそうです。
しかし、Tさんには胸やけや胃もたれ等の症状は一切なかったといいます。
歯がなくなる
Kさん(51歳男性)は運送会社に勤めていた6年前、胃酸が原因で上側の前歯を全て失ってしまったそうです。
もともと、歯にはほとんど問題がなかったそうですが、6年前のある日、食事中に違和感を覚えました。最初は「歯の噛み合わせが悪くなり、違和感があった」程度でしたが、次第に症状が悪化していき、前歯3本が一気に痛くなったそうです。
下の図は、Kさんと同じ症状の患者さんの歯の写真です。
ガッテン!より
歯の裏側の変色は、胃酸によるダメージの典型的な症状だそうです。
Kさんは結局、前歯だけ入れ歯にしなければならなくなりました。
耳に胃酸が
ときに、胃酸は医師も驚くような症状を引き起こすことがあるそうです。
ある日、名古屋大学の曾根三千彦教授(耳鼻科医)のもとを訪れた高齢の女性は、「耳が詰まった」と訴えたそうで、曽根氏がその患者さんの耳を見てみると、鼓膜の中に液が溜まっていたそうです。この液を除去すると症状は良くなったのですが、しばらくするとまた溜まってきたため、来院したそうです。これを繰り返し、この女性は難治性の中耳炎になってしまったそうです。
曽根氏が耳に溜まったこの液体の成分を分析したところ、高濃度のペプシノーゲンが溜まっていることがわかりました。ペプシノーゲンは胃液の代表的な成分です。耳がペプシノーゲンの発生源になる事はありえないので、曽根氏はとてもびっくりしたそうです。
以上の3ケースのように、普通に考えると胃酸によると思われないような症状も、胃酸は引き起こします。
特に、耳にまで胃酸が逆流していくことはなかなか想像できませんが、口から耳にかけてつながっているので、ごく稀に耳まで胃酸が流れていき、中耳炎を引き起こすこともあるそうです。
この他にも、胃液が引き起こす症状には以下のようなものがあります。
ガッテン!より
胃酸が逆流していれば気がつきそうなものですが、食道の感覚には個人差があるため逆流しても気づきにくい人もいるそうで、そういう人はこういう症状になりやすいといいます。
胃酸が分泌する仕組み
胃酸が分泌する仕組みを知るために、番組では島根大学医学部の角昇平医師のもとを訪れていました。
角氏は、食後に産生される胃酸が胃の中でどのように分布しているかを見ることができるカテーテルを取り出しました。このカテーテルには、胃酸の強さの分布を調べるセンサーが4つ付いているため、場所と濃度を計ることができるのです。これを被験者の鼻から胃の中まで入れたあと、食事をしてもらいます。
その結果…
ガッテン!より
赤い部分は酸が強いところ、青や緑は弱いところを示しています。緑色で示されている食べ物の部分の上に、赤い胃酸の層ができていることがわかります。
角氏によると「食べ物の1番上にものすごく強い酸の層が出来てそれが逆流することが、逆流性食道炎の重要なメカニズムの1つと考えられている」といいます。
胃酸を分泌する細胞は胃の上のほうに集中しており、食べ物が入ってくると胃の上部から胃酸が出るため、どうしても食べ物の上に胃酸が溜まりやすいのです。
このため、食後すぐに逆流が起きると、濃度が濃い胃液が食道に流れていくことになるのです。
しかも、最近の研究によって、日本人の胃酸がより逆流しやすい状況になっていることがわかってきたそうです。
胃の研究の歴史
1800年代、カナダのアレクシス・サンマルタンという人が事故に遭い、胴体に穴が空いて胃と体の外がつながってしまいました。医師がこの穴から食べ物を入れているうちに、食べ物の種類やその時の気分で胃液の出方が変わることが発見されました。
現代のオーストラリアの研究者バリー・ジェームズ・マーシャルは、ピロリ菌が人体にどのような影響を及ぼしているかが知られていなかった当時、自らピロリ菌を飲むことでその影響について知ろうとしました。(10日後、胃炎が起きたことからピロリ菌が胃炎を引き起こすことがわかったそうです。)
そして現在、岡山県にある川崎医科大学附属病院の春間賢教授は、40年にわたって臨床と研究を行っています。
春間氏が医師になりたての頃、胃炎や胃潰瘍は重症化しやすく、亡くなる人もいる深刻な病だったため、原因を究明しようと細胞を採取して研究を続けたのです。胃がんや胃潰瘍など10万人以上の患者を見てきた中で、患者の胃にある胃酸を出す細胞を採取し、数千人分を標本として大切に保存するなど地道な研究を続けた結果、日本人の胃に変化が起きていることがわかりました。
なんと、日本人の胃酸を分泌する細胞が増えているというのです。
その数は約40年前に比べて1.35倍になっているそうで、その結果胃液の分泌量も増えていると考えられます。たくさん食べる時にたくさんの胃液が出るのは普通のことですが、そんなに食べ物を胃に入れていないときでも胃酸が必要以上に出てしまうということです。
細胞が増えた原因は、生活習慣、特に食生活の変化であると考えられます。
昔の日本人は魚や炭水化物の摂取が多かったですが、だんだんと肉や脂肪の摂取量が増え、それらの摂取量は戦後3倍にもなりました。その結果、今では1日2〜3リットルの胃液が分泌されているそうです。
さらに、ピロリ菌も胃酸の増加に関わっています。
ピロリ菌に感染した胃は、炎症が起きて胃酸が出にくくなります。昔は多くの人がピロリ菌に感染していたため胃酸が少なかったと考えられますが、衛生環境の改善や治療の結果、現在ではピロリ菌感染者は6.6%の人しかいません。(ピロリ菌除去は胃潰瘍や胃がんのリスクを下げるので勧められていますが、胃酸が出やすくなると言う事は知っておく必要があるでしょう。)
このため、2〜30代の若い人で逆流性食道炎が増えています。
全世代で見ても、逆流性食道炎の患者は40年で9倍になっています。
さらに、日本人の30%がなっているという「肥満」も、胃酸逆流の原因になります。
肥満になると胃が圧迫されて上のほうに上がってくるためで、同じような理由で猫背も逆流の原因になります。
他にも、大食やストレス、飲酒、食べてすぐ横になる習慣など、1つでも当てはまれば逆流に注意が必要です。
●胃液の構成成分
胃液は主に以下の3成分で構成されています。
・粘液
・塩酸(強い酸性で外来の細菌を殺す)
・ペプシノーゲン(蛋白消化酵素ペプシンのもとになる物質。塩酸によりペプシンとなる。)
「粘液」は胃壁を保護し、消化をスムーズにしています。
「塩酸」はご存知の通り強い酸性で、口から入ってきた細菌などを殺す役割を果たしています。
「ペプシノーゲン」は塩酸と結合すると、タンパク質の消化酵素であるペプシンになります。
このように、胃液はタンパク質の分解に重要な役割を果たしているため、分泌量が増えているのです。
●タンパク質はどのように消化・吸収されるか
タンパク質はアミノ酸の玉がネックレス状につながり、それがらせん状や折り畳まれた形の立体構造をしています。
これに胃酸が混ざると、立体構造が崩れます。さらにペプシンの働きで「ペプトン」という、さまざまな大きさのペプチド(※)が結合した、タンパク質とアミノ酸の中間的な物質に分解されます。
ペプトンが小腸に運ばれると、膵液などに含まれる「ペプチダーゼ」によって加水分解され、ようやくアミノ酸の形になります。
アミノ酸が吸収されて血液にのり、肝臓に運ばれると、アミノ酸をもとにして、肝細胞1個につき1分間に60~100万個のタンパク質を生産し、体内で様々な用途に活用されるのです。
※ペプチド
アミノ酸に分解される手前の、いくつかのアミノ酸がつながった状態。アミノ酸が2個つながっていればジペプチド、アミノ酸が3個つながっていればトリペプチド、10個前後つながっているものはオリゴペプチド、100個以上つながるとポリペプチドと呼ばれ、5,000以上のポリペプチドがたんぱく質と呼ばれる。
胸焼けの対策
現在400種類以上の胃薬が市販されています。
胃酸を抑えるタイプや、胃の粘膜を保護して胃の動きをよくするタイプ、胃酸を出やすくするタイプなど様々ですが、医師によると、これらはあくまで一時的な応急処置と考えた方が良いそうです。
これらの薬を飲んでも長期にわたって症状がとれない場合は重篤な病気が隠れている場合があるので、医療機関で検査を受けるべきです。
対策としてもっとも有効なのは食事内容の改善です。
胃酸分泌量増加の原因とはいえ、肉は大切なエネルギー源で、特に高齢者には重要ですから、「肉は食べない」とするのではなく、量をとりすぎずにバランス良く食べることを心がけましょう。
胃の粘膜は大体一ヶ月で入れ替わるので、食生活を改善すれば一ヶ月程度で効果が現れ始めます。
食べ過ぎたときの対処法
食べすぎた場合は、少しだけ枕を高くして寝るようにしましょう。
おおよそ10度角度をつけるだけでもだいぶ変わるそうです。ガッテン!より
ガッテン!より
専用の枕がない場合は、枕の下にたたんだ毛布を敷いて角度を作りましょう。
厚手の毛布3〜4枚重ねくらいがちょうどいいそうです。
ただしこれはあくまで食べすぎたときの話で、基本的には最低でも食後30分は横にならないようにしましょう。医師によると「できれば2時間、本当は3時間起きているといい」そうです。
逆流チェック法
自分の体調不良は胃液の逆流によるものかどうかを判別する簡単な方法が紹介されていました。
酸っぱいものが頻繁に喉や口にこみ上げたてきたり、ゲップが多かったりする場合は胃酸が逆流している可能性があります。特に食後1〜2時間の間にこうした症状がよく出る場合は可能性が高いそうです。
逆流性食道炎で多い症状は胸やけですが、胃もたれが起きる人もいるので、心当たりのある方は食後に少し、自分の体の反応に注意してみましょう。
まとめ
今回は逆流性食道炎について特集いたしました。
胃酸の量が増えた原因は生活が豊かになったためですから、それを劇的に変えることはできません。
しかし、生活習慣を改善すれば出にくい症状ですから、今回お読みになって気になる症状や、思い当たる悪い生活習慣があるようでしたら、改善法を取り入れて、発症のリスクを下げるようにしてみましょう。