認知症が予防できる歩き方とMCI〜NHKスペシャル認知症革明より

超高齢化社会の中で、いよいよ存在感を増している「認知症」。
患者数は世界中で増加傾向にあり、2050年には1000万人を超えると推計されています。

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NHKスペシャルより

このような中で研究も徐々に進んできており、

認知症の“前兆”を察知
発症を抑える薬を開発

といった成果が出てきているそうです。

そこで今回は、認知症の前段階である「MCI」という症状の紹介を中心に、認知症の予防に焦点を当てて構成されていた『NHKスペシャル・認知症革命』をまとめておきたいと思います。

 

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認知症の一歩手前

雑誌記者歴30年を超えるYさんは、61歳を過ぎた頃から物忘れが気になり始めたといいます。

友人の名前が出てこなくなったり、
頻繁に物をなくすようになったりしたそうです。

Yさんは「歳のせいかな」とあまり深刻にとらえずに過ごしていましたが、あるとき、とても大事な取材の約束を忘れてダブル・ブッキングをしてしまいました。長い記者生活で初めての事だったそうです。
大変ショックを受けたYさんは2年前に専門病院を受診。記憶力や空間認識能力などを試すテストを受けた結果、

MCI(軽度認知障害)

と診断されました。

通常、歳をとるに連れて認知機能は徐々に衰えていきますが、この衰えが急速に進めば認知症ということになります。

MCIは、正常な状態と認知症の境目にある、いわば“認知症予備軍”といえる状態

のことを言うそうです。

「このままだといずれ認知症になる」と指摘され絶望を感じていたYさんでしたが、しだいに希望へと変わっていったといいます。
というのも、

MCIの段階で適切に対処すれば認知症を予防できる

ことが徐々にわかってきたからです。

例えば、アメリカの研究グループがMCI患者600人を追跡調査したところ、その後5年で約5割の患者は認知症になってしまいましたが、4割の人はMCIの状態を維持し、残り1割は正常の状態に回復していったといいます。

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MCIの段階であれば約半数が現状維持もしくは正常に回復可能

NHKスペシャルより

この調査結果から、MCIになってしまっても生活に何らかの変化を取り入れれば回復可能であることがわかったのです。

 

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MCIとは

番組に登場した鳥取大学教授で日本認知症予防学会理事長の浦上克哉氏は、MCIと普通のもの忘れとの違いを
「もの忘れが以前より明らかに増えること」
と説明していました。MCIは年相応以上の記憶障害のことをいい、認知症は生活に支障が出るほどの記憶障害のことを言うそうです。

Yさんは、仕事で取材対象にインタビューしながらメモをとる際に簡単な漢字が書けなくなったり、人の名前が出てこなくなったりという症状がどんどん加速した、と語っていました。
現在MCI患者は400万人いるといわれていますが、加齢によるもの忘れとの判断がつきにくいために病院を受診する人はまだまだ少ないそうです。
また、受診したとしても専門医が診ないとMCIと診断することは難しいそうで、MCIを知らない医師だと「正常範囲だ」と診断を下してしまう可能性もあるそうです。

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浦上克哉氏は認知症に関する著書をたくさん出されています。


これらの書籍の他に、医師向けの認知症診察に関する書籍などもあります。平易な文章で医師でなくとも理解できると評判です。

MCI患者の脳で何が起きているか

診断が難しいというMCIですが、脳の状態はどうなっているのでしょうか。
まずはアルツハイマー型認知症の人の脳(右側)を正常の人の脳(左側)と見比べてみると……

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NHKスペシャルより

脳の萎縮が進んで、黒い隙間が多く見られます。
特に、記憶を司る部分の萎縮が激しいのが特徴です。

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NHKスペシャルより

次に、MCIの人の脳と通常の人の脳を比べて見てみると……

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NHKスペシャルより

ほとんど萎縮していないのがわかります。
外見では異常が見つかりにくいため、診断ミスが起こりやすいのですね。

ではMCIの人の脳のどこが正常と異なっているかというと、それが「脳内ネットワーク」だというのです。

脳は常に様々な場所がめまぐるしく活動しています。ある行動をする際には脳内の複数の場所が同時に活動することでその行動が可能になることがわかっており、このつながりを「脳内ネットワーク」と呼ぶそうです。
例えば計算をする時は……

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NHKスペシャルより

このように複数の赤い部分が同時に活動し、ネットワークを形成することで計算することができるようになります。

MCIは、この脳内ネットワークに異変が起こる状態のことをいうのです。

ワシントン大学の研究グループは、脳内ネットワークの結びつきの“強さ”に注目し、MCIから認知症へと進んでいく時にネットワークの結びつきの強さがどう変化するかを調べました。

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NHKスペシャルより

その結果、認知症に近づくに連れてネットワークの結びつきが弱まっていることがわかりました。

 

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MCIの発見方法

この脳内ネットワークの弱まりをいち早く見つけられればMCIを早期発見できるはず、ということで研究を進めていたアメリカのアルバート・アインシュタイン医科大学の研究チームは、その方法を発見しました。

その方法が「歩行」です。

MCIの人は、足腰に障害があるわけではないのに、正常な人の歩くスピードに比べて極端に遅くなっているといいます。
さらに、足の運び方を測定すると

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NHKスペシャルより

正常な人より歩幅が狭くなっていて、足裏にかかる圧力が一定でなく、ふらつきやすいこともわかりました。

私たちは歩いているとき、視覚や空間認識に関わるネットワークが働いて状況を瞬時に判断しています。同時に身体のバランスをとるために感覚や運動に関わる脳内ネットワークも働いています。
このように複数の脳内ネットワークが働くことで「歩く」という単純な動作ができているのですが、MCIの人は脳内ネットワークが弱まっているために、歩くのが遅くなったりバランスが不安定になったりしてしまうのです。

17カ国2万7千人の歩行データと認知症発症リスクの関係を調べると、

歩くスピードが秒速80cm(時速2.9キロ)より遅いと認知症になる割合が1.5倍も高くなり、

さらに

記憶力が低下したという自覚のある人だと認知症リスクは2倍

にもなることがわかりました。

秒速80cmと言われてもあまりピンときませんが、横断歩道の歩行者用の信号は秒速100cmで渡りきれるようにつくってあるところが多いそうなので、

横断歩道を渡り切る前に信号が点滅することが多い方は要注意

だそうです。
MCIと診断されたYさんも、以前は自宅から駅まで約12分のところが、いつの間にか15分ほどかかるようになっていたといいます。

他にも、歩行のリズムが悪くなるなど、MCIの人に見られる変化は様々あります。

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〇外出が面倒
〇外出時の服装に気を使わなくなった
〇同じことを何回も話すようになった
〇小銭の計算が面倒でお札で支払うようになった
〇手の込んだ料理を作らなくなった
〇味付けが変わったと言われる
〇車をこすることが多くなった

脳内ネットワークの乱れがこれらを引き起こすそうです。
3項目以上当てはまる方は、病院の「もの忘れ外来」を受診すべきとのことでした。

認知症の予防法

脳内ネットワークを結びつけているのは、情報を電気信号で伝える「神経細胞」です。まわりの血管から栄養と酸素をもらって活動しています。
この神経細胞や周囲の血管に生じる異常が、脳内ネットワークの衰えの原因となります。たとえば微小出血と呼ばれる、細い血管がもろくなって起こる僅かな出血です。微小出血が起こると周辺の神経細胞が死んでネットワークが傷ついてしまいます。
MCIから認知症へと進行するに連れて、微小出血の発見割合が増えることがわかっています。

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NHKスペシャルより

このような調査から、血管の状態をよくすれば認知症を予防できるはずと考えたイリノイ大学のアート・クレイマー教授は、衰えた脳内ネットワークを回復する方法を見つけました。

息がはずむ程度の早歩きを1回1時間で週3回

これだけで、脳の血管や神経細胞の状態が改善されるというのです。

早歩きをすると血液中にVEGF(血管内皮増殖因子)という物質がたくさん放出され、傷ついた血管の代わりに新しい血管を作るよう促します。さらにBDNF(神経栄養因子)という脳内で新たな神経細胞を増やすように促す物質も放出されるので、脳内ネットワークのつながりが強くなると考えられているそうです。

実際に、早歩きを1年間続けると

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NHKスペシャルより

脳内の状態が大きく改善しました。

この他にも、フィンランドではMCIの疑いがある1260人が参加した「フィンガー研究」という予防研究が行われました。

この研究では被験者に以下の様な行動を習慣づけてもらったといいます。

【フィンガー研究】

・ 週3回・1日30分程度の有酸素運動(早歩きなど)
・ 軽い筋力トレーニング
・ 食事内容から動物性脂肪や塩分を減らし、抗酸化物質の多い野菜や魚を増やす
・ 神経衰弱などの記憶力を使うゲームを週3回10分程度行う
・ 高血圧を防いで微小出血を予防するために、血圧管理を徹底する

こういった生活を2年間続けた結果、取り組みをしなかった人に比べて認知機能が25%も向上したそうです。ふつうは加齢によって低下していくはずの認知機能が、現状維持どころか向上してしまったのです。

以上のような研究によって、認知症は予防できるということが証明されたのです。

これらを参考に運動を日常生活に取り入れる際は、運動の強さに目を向けるべきだそうで、脈拍が1分間に120程度に上がる運動(実感としては少しドキドキする程度の運動)を約10分間、1日に3回以上行うようにするといいそうです。
ただし、持病がある人は主治医に相談してからにしましょう。

 

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認知症予防薬の開発

薬による認知症予防も現実的になってきたそうです。
例えば、てんかんの治療薬として用いられているレベチラセタムに脳内ネットワークを改善する働きがあることがわかりました。

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NHKスペシャルより

2016年から最終の臨床試験が開始され、2019年にはアメリカでMCIの人向けに実用化される見込みだそうです。

日本でも別の予防薬の研究が進んでいます。
脳梗塞の再発予防薬として用いられているシロスタゾールに、脳の血管からの出血を防ぐ効果が見込まれているそうで、2021年には認知症予防の目的でも実用化される見込みだそうです。

地域ぐるみでのMCI早期発見への取り組み

 

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愛知県高浜市と国立長寿医療研究センターは、市民1万人を対象に認知症のリスク検診を実施しました。専門家が地域に出て、認知症リスクの高い人をいち早く見つけ出す取り組みです。
この取り組みは検診だけでは終わらず、検診の参加者全員に歩数や歩く速さなどを計測できる「活動量計」をプレゼントして、予防に効果的な早歩きを促しています。
さらに、社交ダンスや囲碁などを行うスポットを市内78ヶ所につくって、家に閉じこもりがちなお年寄りに外出する目的まで提供しています。
それらのスポットに設置された専用の端末にプレゼントされた活動量計をかざすと1日の平均歩行速度などが記された紙がプリントアウトされ、自分の運動が認知症予防に必要な基準に達しているかを知ることができるそうです。

このように、様々なアプローチから認知症を予防しようという動きが広がっているのです。

まとめ

専門家の間でも「認知症は治らない病気」と思われていたために予防の観点はなかったそうですが、その常識が覆された現在、われわれ一般人も意識を変える必要がありそうです。
認知症予防のための運動は、日常生活の中で“必ずとる動き”にプラスアルファするやり方が導入しやすく、継続しやすいでしょう。
例えば大股を意識していつもより歩幅を5センチほど広げるだけでも負荷はグッと上がるそうですから、おすすめです。


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