認知症と睡眠~深部体温低下法でもの忘れ予防~たけしのみんなの家庭の医学より

年齢を重ねると、どうしても頻発してしまう「もの忘れ」。
「顔は出てくるんだけど名前が出てこない…」「あれ、何を取りに来たんだっけ…」ということが最近増えた、という方も多いかもしれません。
脳が老化し、記憶力が低下してゆく状態をそのままにしておくと、認知症の発症リスクを高めてしまいますから、「歳のせいだからしょうが無い」と気に留めないでいるのは危険です。
近年、もの忘れに関する研究が進むなかで、もの忘れと「睡眠」に関する習慣には深い関係があることがわかってきたそうです。不適切な睡眠の取り方は記憶力を低下させ、もの忘れを悪化させるという可能性が指摘されているというのです。
そこで今回は、もの忘れと睡眠の関係から、健康的な睡眠を確保する具体的な方法まで紹介していた『たけしのみんなの家庭の医学』をまとめておきたいと思います。

 

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睡眠をとると記憶力がよくなる

番組では40代の女性6名を被験者として、「50個の単語を15分間で記憶し、5時間後にいくつ思い出せるか」という実験を行っていました。被験者たちを3名ずつ「5時間眠るグループ」と「まったく眠らないグループ」に分けることで、睡眠と記憶力の関係を見る実験です。
実験の結果、睡眠をとっていないグループが記憶していた単語数は平均27.7個だったのに対し、5時間睡眠をとったグループは34.7個も記憶できていました。

この実験からもわかるように、睡眠には記憶力を高める効果があるのです。
獨協医科大学病院副院長で日本睡眠学会理事事務局長の平田幸一氏によれば、「睡眠中は、脳の記憶関連部分が整理整頓されてゆく。必要な情報は残して、必要ないものは消去していく。そうして、明日の大事な記憶の蓄積のためにスペースを残しておく」という作業が、脳内で行われているそうです。
人間は、見たり聞いたりしたものごとを脳の海馬という場所に蓄積し、記憶しておきます。そして、必要なものと不必要なものとにわける作業を、睡眠中に行うのです。
つまり、睡眠が不十分な人の頭のなかは、整理整頓されていない状態で、どこに何があるかわからない状態、ということになります。たとえて言えば、思い出したい人の名前などを“どこの引き出しにしまったかわからない”状態なのです。

睡眠を十分に取れば、記憶が整理されてもの忘れの改善が期待できるわけですが、平田氏によればやみくもに睡眠時間を増やせばいいというわけでもないそうです。
平田氏は「良質な睡眠をとることが重要」と語り、そのポイントとして「深部体温を下げる」ことを指摘していました。

 

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深部体温が下がらないとよく眠れない

「深部体温」とは身体の内部の体温のことです。脇の下などで測ることができる表面の体温よりも少し高い37.5℃が正常と言われているそうです。
私たち人間は、体内のリズムによって深部体温が約1度低下すると、質の良い睡眠を取ることができます。「メラトニン」という睡眠を促す物質が夜に分泌されると深部体温が低下し、脳をしっかりと休ませることができるので、睡眠は質の良いものとなるのです。

深部体温に関連する睡眠の質と、記憶力との関係について見るために、番組では、もの忘れがひどいというふたりの方の睡眠時の深部体温を測定していました。

Iさん(55歳・主婦)は、冷蔵庫のドアを開けたときに「いま何を取りに来たんだっけ?」というようなことが「毎日必ずある」と話していました。Sさん(53歳男性・郵便局員)は、「妻が作ってくれた弁当を持たずに家を出てしまい、駅に着いたときに気づく」というようなもの忘れがあるといいます。
50代になってからもの忘れがひどくなったというこのおふたりに、深部体温を測る器具を取り付けて、睡眠を観察しました。

下の画像は、健康な人の夜間の深部体温の変化を表したグラフです。

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たけしのみんなの家庭の医学より

寝る前(グラフ左端の21時頃)に深部体温が下がり始め、入眠してからも下がり続けています。体温を低下させることで眠気を起こすという、深い睡眠を得るために起きる生理現象です。
平田氏は「寝る前から体温が下がらないと眠りが浅くなり、夜中や朝早くに目覚めてしまう。そうすると睡眠時間も短くなり、より質の悪い睡眠になる。」と説明していました。ちなみに「寝る前に手が暖かくなるのは、深部体温を下げるために熱を放散しているために起きる現象」だそうです。
入眠後しばらく経ってからのグラフに目をやると、4時頃に最低体温に至ってその後急上昇しているのがわかります。これは、脳や臓器を活動モードに切り替えていると考えられています。
これが理想的な深部体温の変化です。

今回、深部体温を測定した際のIさんの睡眠時間は6時間、Sさんは7時間半でした。
Iさんの深部体温の変化を見てみると…

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(赤色の線が健康な人、黄色の線がIさんの深部体温)

たけしのみんなの家庭の医学より

眠りに入る前から下がり始めているのは良いのですが、睡眠中の深夜1時頃に急に体温が上昇し始めてしまっています。
体温が最低体温まで落ちきらないところで上昇に転じてしまっているので、脳を休めることができません。
Sさんの深部体温を見てみると…

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たけしのみんなの家庭の医学より

Iさんと同じで、眠りに入る前から体温が低下してはいますが、同じく1時頃に上昇に転じてしまっています。(これらの不具合は、体温変化のリズムを司る「視交叉上核」という部分の機能が加齢によって低下したためと考えられているそうです。)

この測定結果から、おふたり共に深部体温が下がりきらないことが原因で睡眠の質が悪くなり、記憶力に影響が出ている可能性が高まりましたから、まずは深部体温をしっかりと低下させる必要があります。
それでは、具体的な深部体温の改善方法を見ていきましょう。

 

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深部体温を低下させる2つの方法

・朝に20分以上散歩する
朝に散歩をすることで、睡眠を促す「メラトニン」というホルモンをコントロールすることができます。メラトニンは、体内時計によって分泌のタイミングが決められています。
体内時計は太陽の光を浴びるとリセットされ、15〜16時間後にメラトニンを分泌する仕組みになっています。ですから、朝8時に太陽の光を浴びれば夜の11時頃にメラトニンが分泌され、深部体温が下がって眠くなり、良質な催眠が得られるのです。
太陽の光は電灯などと比べて格段に強い明るさであり、その光を目の中に入れることが体内時計をリセットすることにつながるため、家の中などの屋内を歩くだけでは効果があまりないそうです。
体内時計をリセットする効果以外にも、運動をすることで「ウリジン」などの睡眠物質がたまっていくという効果もあるので、その目的でも、20分以上の散歩をする必要があるそうです。

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ウリジンのはたらき

ウリジンは,脳内で最大の抑制性のニューロン群であるガンマアミノ酪酸作動性ニューロンの神経伝達活動をシナプスレベルで促進する。
(中略)
ウリジンはニューロン活動機能の回復ないし新生や,新規情報の消去に貢献しているらしい。
(中略)
こうして,睡眠は脳細胞の修復や解毒の過程であるらしいことがわかり,睡眠という行動レベルの現象が,分子レベルでは脳内のニューロンを保全する役割を担っていると推理できる。

日本睡眠学会HP内「睡眠科学の基礎」より

・寝る2時間前にお風呂にしっかりと浸かる
入浴すると深部体温が急上昇し、お風呂から出ると外気の影響で深部体温が急降下します。
この急降下のタイミングで眠りにつくのが質の良い睡眠を得るポイントだそうです。入眠後もスムーズに深部体温が下がり続けるため、Iさんたちのような不自然な体温上昇を防ぐ効果が期待できます。
深部体温はすぐには下がらないため、眠りにつく約2時間前に入浴するのがベストタイミングです。
約40℃のお湯で、約10分間浸かるようにしましょう。

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入浴後には、水分補給にも注意!

体液の循環や体温調節に詳しい京都府立医科大学の森本武利名誉教授は「入浴方法や湯の温度にもよるが、短時間の入浴でも100mlぐらい、42°Cの湯に15分間つかれば800mlぐらいの汗が出て体内の水分が失われる」という。汗は入浴後も出続けるので、実際にはもう少し多いと考えられる。
また森本名誉教授は「入浴によって胸が水圧を受けると、それが『血液量が増えた』という信号として受け取られ、血中の水分が膀胱(ぼうこう)に集まり、尿として排出されやすくなる」と説明する。つまり、入浴の前後には汗と尿を合わせ相当量の水分が失われるということだ。
(中略)
入浴前後には十分な水分補給を! 目標は入浴前に500ml、入浴後に500mlの補給だ。

日経ウーマンオンラインより

以上2つの方法を実行すると、どれほど睡眠の質が改善されてもの忘れが少なくなるのかを、Iさんが1週間かけて実験していました。

 

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深部体温を下げた効果

まずはIさんの現状を詳しく見るために、Iさんの自宅にカメラを設置し、生活の様子を観察していました。

Iさんは朝6時半にパン作りをするのが日課だそうです。
カメラに映るIさんを見ていると、パン作りの最中に何かを思い出し、ベランダの方へ移動していきました。パンにのせるローズマリーを、ベランダの鉢植えから事前に採っておくのを忘れていたようでした。

こういうちょっとしたもの忘れは、その後も続きました。

夜7時、ご主人と夕食を食べている最中、鉄板に肉をのせたところで部屋を換気するために席を立ちました。
窓を開け、すぐに席に戻ると思いきや、その場でごそごそとゴミ袋を整理し始めて、それを捨てるためにベランダの方へ歩いていってしまいました。
鉄板の上に置きっぱなしにされた肉に気づいたご主人が肉をひっくり返して事なきを得たかに見えましたが、Iさんはさらにベランダで、取り込むのを忘れていた布団を発見。あわてて屋内に取り込んでいました。
この1日の観察から、Iさんは目先のことに気を取られると今やっていることを忘れてしまう状態になってしまっていることがわかりました。

そこでIさんには、医療現場でも行われている「認知機能テスト」を受けていただき、記憶力が正常レベルと比べてどの程度下がってしまっているかを確認していました。
このテストは、16個の単語を記憶した直後に計算問題を1分間行い、それから先ほど記憶した16個の単語を1分間でいくつ答えられるか、で記憶力をはかるというものです。
50代だと8個以上答えられれば正常とされており、それ以下なら認知機能が衰えていると考えられるそうです。
Iさんはテストを受けた結果、4つの単語しか思い出せていませんでした。

そこでIさんは、「朝に20分以上散歩する」「寝る2時間前にお風呂にしっかりと浸かる」の2つの方法を実行することに。

初日を終えてのIさんの感想は「あっという間に眠りに入った気がする。起床後もモヤッとした感じがなく、すぐに行動できる感じ」というものでした。
初日の深部体温の推移を、実験前のものと比べると…

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(黄色い線が実験後)

たけしのみんなの家庭の医学より

以前は午前1時に深部体温が急上昇していましたが、今回はしっかりと低下し続けています。
初日からこれだけ効果が出たので、本人が実感する熟睡感も上がっていたのです。

2日目以降も散歩と入浴をしっかりと続行した結果、1週間にも関わらず十分に深部体温が低下するようになったそうです。
さらに、あらためて認知機能テストを受けたところ9個も回答することができ、正常レベルとされる8個を見事クリアしていました。

以上のように、たった1日〜1週間でも睡眠の質は上がるので、それによって記憶力を格段にアップさせることができ、認知症のリスクを下げていくことができるのです。

 

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質の悪い睡眠のその他の弊害

質の悪い睡眠によって引き起こされるのは、記憶力の低下だけではありません。
以下の2つのような症状も懸念されるといいます。

・肥満
睡眠時間が短い人ほど肥満の人が多いというデータがでているそうです。
睡眠不足になると食欲を促すホルモンの分泌が増えて、食欲を抑えるホルモンの分泌が減ります。すると当然、食べ過ぎになりやすくなりますから、肥満につながってしまうのです。

・高血圧
眠りが浅くなると夜中に目が覚めてしまいます。すると、そこでいったん脳が覚醒してしまうので、交感神経が上昇し、日中と同じ高い血圧になってしまうのです。
夜にこの状態が引き起こされると、翌日の日中も高血圧が続くというデータもあるそうです。

睡眠は、私たちの認知能力や健康状態を左右するとても重要な営みなのです。

 

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まとめ

以上、認知症と睡眠の深い関係についてまとめてまいりました。
もの忘れにお悩みの方でも「歳だから…」と諦める必要がないことを、Iさんの実験が証明しています。
個人差はあるでしょうが、Iさんの場合は初日から睡眠の質の向上が実感され、1週間で記憶力が正常レベルにまで上がっていました。
今回ご紹介した方法を生活に取り入れて、より豊かな生活と健康な身体を手に入れてください。


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