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先日の「チョイス」では、子供の食物アレルギーについての特集をしていました。番組では、国立成育医療研究センター・アレルギー科医長の大矢幸弘先生が食物アレルギーの仕組み、最新の検査法や治療法を紹介していました。
こどものアレルギー (国立成育医療研究センターBookシリーズ)
五十嵐 隆
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食物アレルギーの仕組み
子供の食物アレルギーは、この10年で急激に増加しているそうです。現在、乳児の10人に1人が、何らかの食物アレルギーを持っているそうです。
食物アレルギーは、2段階に分かれています。第1段階では、免疫が体内に入ってきた特定の食品の成分に過剰に反応して臨戦態勢になります。そして、第2段階では、同じ成分が体内に入ってきたときに、免疫がその成分をすぐに敵だと認識し、排除するために攻撃をします。そのときに、自分の体も傷つけるのでアレルギーが起こるそうです。
乳幼児にとって、アレルギーの原因となることが多い食品は小麦、卵、乳製品です。その他にアレルギーの原因となる食品として、ピーナッツ、果物、エビ・カニ、魚卵が紹介されていました。エビとカニは大人の食物アレルギーの原因第1位とのことです。
チョイス@病気になったときより
食物アレルギーを持つ子どもの生活
番組では、食物アレルギーを持つRくん(5歳)とRくんのお母さんに取材をしていました。
Rくんは1歳半のときに食物アレルギー(小麦、卵、乳製品)と診断されました。生活も、これらの食品を完全に除去する生活に変わったそうです。
子どもが大好きなカレーやワッフルなどをRくんは食べる事ができません。全ての原材料や食品表示を確認していても、家以外の場所で食事をするのは怖いとRくんのお母さんは語っていました。
食物アレルギーの子供にとって一番怖いのは、誤飲と誤食だそうです。Rくんが一番危険な状態に陥ったのは、3歳のときに近所のレストランで開かれた友達との食事会に参加したときでした。Rくんは注文した白いご飯に、持参したアレルギー対応のレトルトカレーをかけて食べていました。けれども、突然Rくんの唇は腫れ上がって、じんましんが出たそうです。
帰宅後、症状は悪化して、じんましんは全身に広がり、Rくんは酷くせきこみました。お母さんは、急いでRくんを病院へ連れて行ったそうです。
大矢先生によると、Rくんの症状は、アナフラキシーショックの一歩手前だったそうです。
Rくんにアレルギーの症状が出た原因は、他のお客さんがサラダにかけた粉チーズがRくんのカレーに飛んでしまったからだったとの説明がありました。本当に些細なことですがアレルギーのある人にとっては一大事なのです。
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アナフィラキシーへ対応
アナフィラキシーは、2つ以上の臓器(例えば、皮膚と消化器、皮膚と呼吸器)で起こる全身のアレルギー症状(じんましん、呼吸困難など)だそうです。アナフィラキシーの重篤な状態をアナフィラシキーショックといい、血圧が低下したり、気を失ったりするなど、死につながる危険性もあります。
子供がアナフィラキシーを起こした場合は、エピペン(アドレナリン自己注射薬)が処方されていれば、すぐにエピペンを打って、救急車を呼べば良いそうです。エピペンは重度のアレルギー患者に処方される薬で、子供もいざというときに対処できるように、自分で注射を打つ練習をしているそうです。けれども、エピペンを打つ前に気を失ってしまった場合などは、周囲の大人がエピペンを打ってあげる必要があると大矢先生から説明がありました。
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エピペンの打ち方
番組では、大矢先生がエピペンの打ち方を説明していました。
下の画像のオレンジの部分から針が出てきます。
チョイス@病気になったときより
針を出すための安全弁(下の画像の青い部分)を外します。
チョイス@病気になったときより
下の画像のようにエピペンを持って、針を太ももの外側に数秒押し当てます。
チョイス@病気になったときより
緊急に対応しなくてはいけないので、エピペンは服の上から打っても良いそうです。また、間違って打っても害はないので、アナフィラキシーを疑ったら、迷わずに使用するべきだそうです。
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食物アレルギーの最新検査法「食物負荷試験」
大矢先生によると、食物アレルギーが一生治らないというのは誤解だそうです。
これまでは、血液検査で陽性が出た食品は完全除去をしていました。けれども、最新の検査法「食物負荷試験」では、どれくらいの量までならアレルギーがある食品を摂取することができるかを調べられるようになったそうです。
番組では、Rくんの食物負荷試験(牛乳)を取材していました。
食物負荷試験は、アレルギー科の専門医が監督し、看護師の付き添いのもと実施されるそうです。また、親の立会いも必須とのことです。
Rくんの食物負荷試験は、0.5mlの牛乳から始まりました。
1杯目の牛乳を飲んだ後、皮膚に赤みや湿疹が出ていないか、呼吸や胸の音に異常はないかを主治医が検査します。また、血圧も常にモニタリングしています。
Rくんは、1杯目の後にアレルギー症状が出なかったので、1杯目を飲んでから40分後に2杯目(1ml)の牛乳を飲みました。
そして、2杯目を飲んだ後も問題がなかったので、40分後に3杯目(2.0ml)を飲みました。
3杯目を飲んだ2時間後に医師がRくんにアレルギー反応が出ていないことを確認して、約5時間の検査が終わりました。
この食物負荷試験の結果、Rくんは牛乳が全く飲めないわけではないということがわかりました。Rくんが飲むことができたのは微量の牛乳ですが、小学校では、みんなと一緒に給食を食べたいと願っているRくんにとっての大切な一歩となったとお母さんは話していました。
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食物負荷試験の注意点
食物負荷試験を実施する際は、子供達の安全を最優先しなくてはいけません。
例えば、牛乳を注射器で吸い上げたあとで、コンマ単位まで厳密に量を計っていました。主治医が決めた量を厳密に守って、事故が起きないようにしているとのことです。
今回、Rくんの食物負荷試験では、アレルギー反応はでませんでしたが、やはり検査中にアレルギー反応が出る場合もあります。小麦アレルギーのある男の子が食物負荷試験中にうどん30gを食べたあとで、アレルギー反応が出て激しく咳き込んでしまいました。すぐに適切な治療(吸入薬治療)が施されたので大事には至りませんでした。
食物負荷試験は、万が一に備えて、病院で専門医の監督のもとで実施されなくてはいけません。ですから、家庭では絶対に真似をしないようにと番組では繰り返していました。
食物負荷試験は、食物アレルギー研究会のホームページ(http://www.foodallergy.jp)で調べられるそうです。検査にかかる費用は、約2万円(保険3割負担、日帰り入院)ですが、多くの自治体で子ども医療費助成制度(家庭の収入や子どもの年齢によって金額が異なる)が適用されるのでほぼ負担なしに受けれるケースもあります。詳細は各自治体に問い合わせてくださいとのことです。
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食物負荷試験で生活が変わった例
番組では、食物負荷試験を受ける前後で生活が180度変化したNくん(2歳)とNくんのお母さんに取材をしていました。
Nくんは、生後1ヶ月のときに小児科で乳児湿疹と診断されて薬を処方されましたが、全く良くならなかったそうです。そして、生後3ヶ月のときにアレルギー科を受診して、アトピー性皮膚炎と診断されました。お母さんは、アトピー性皮膚炎と診断された後で食物アレルギーの可能性も考えて、Nくんに血液検査を受けさせました。Nくんは、その検査で牛乳、卵、小麦が陽性だったそうです。
チョイス@病気になったときより
医師からは、Nくんの検査で陽性だった食品を完全除去するようにと指示があったとのことです。それで、Nくんのお母さんは、離乳食を作るときは、牛乳、卵、小麦を使わず、米粉でパンを焼くなど、様々な工夫をしたと番組のインタビューに答えていました。
けれども、Nくんの湿疹が治らないので、いくつもの病院を転々としたそうです。そして、Nくんが1歳になったころに、新聞で子供のアレルギーの専門医がいる国立成育医療研究センターを見つけて、食物負荷試験を受けました。その結果、Nくんは、卵、乳製品、小麦を普通の子どもと同じぐらい食べていいという結果が出ました。その後、Nくんは医師の適切な治療を受けて、皮膚の状態も改善したそうです。
大矢先生によると、血液検査で陽性反応が出たからといって、その食品を完全除去しなくてはいけないケースは、かなり少ないとのことです。反対に、その食品を長期間食べないでいると、本当に食べられなくなってしまうことがあるそうです。
間違った食物アレルギーの知識
番組では、食物アレルギーの人は、その食品を決して食べることができないということ以外にも、多くの人が持っている子供の食物アレルギーに対する誤った常識を2つ紹介していました。
妊娠中や授乳中の食事に対する誤解
母親の妊娠中や授乳中の食生活が子供の食物アレルギーに関係すると考えている人が多いようですが、大矢先生によると、この認識は間違っているそうです。
母親が妊娠中にアレルギーを引き起こす食べ物を除去していた場合と制限なく食べていた場合で、子どもが1歳半のときに食物アレルギーがあるかどうかに違いはないという研究結果があるとのことです。
離乳食の開始時期に対する誤解
また、一般的に離乳食を遅く始めたほうが、食物アレルギーになりにくいと考えられているようですが、実際は、幼いうちから少しずつアレルギーになりやすい食品を食べている子供のほうがアレルギーになる可能性が低いそうです。
イギリスの研究で、ピーナッツバターを0歳から食べさせたグループと5歳から食べさせたグループでは、0歳から食べていた子供の方がアレルギーは少ないという結果があると大矢先生が紹介していました。
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子どもの食物アレルギーの原因
子どもの食物アレルギーの本当の原因は荒れた皮膚だそうです。
チョイス@病気になったときより
健康な皮膚にはバリアがありますが、アトピー性皮膚炎などで皮膚が荒れているとバリアが壊れて、食物抗原が皮膚から体内に入ってしまいます。そして、免疫細胞がその食物抗原に反応して、アレルギーを起こす準備をすると大矢先生から説明がありました。
生後1ヶ月から3ヶ月ぐらいの乳児湿疹が出ている時期は、肌のバリアが低下しているので、赤ちゃんの肌が食物抗原に触れないように気をつけなくてはいけないとのことです。食物抗原は、ほこりの中に混ざっていることもあるそうです。
また、赤ちゃんのときにピーナッツオイルを使ってマッサージを受けていた子供の9割以上にピーナッツアレルギーがあるというイギリスの研究結果を大矢先生が紹介していました。
食物アレルギーを予防するには、
赤ちゃんのときから皮膚を健康に保つことと
食べ物(食物由来の製品なども含む)を皮膚に塗らないこと
が大切だそうです。
食物アレルギーの最新治療法「経口免疫療法」
国立成育医療研究センターでは、子供の食物アレルギーの研究が日々続けられていて、新しい治療法が確立されようとしているとのことです。番組では、研究中の治療法「経口免疫療法」を受けて小麦のアレルギーを克服したYちゃん(3歳)が紹介されました。
Yちゃんは1歳の時に初めて小麦の食物負荷試験を受けました。そのときに、Yちゃんは7.5gのそうめんを食べて、全身にじんましんが出て、呼吸が困難になる重篤なアナフィラキシーが起こってしまいました。
チョイス@病気になったときより
Yちゃんがずっと小麦に怯えながら過ごすのはかわいそうだと、お母さんはアレルギーを克服する方法を探していました。そして、研究段階の経口免疫療法を受けることにしたそうです。
アレルギーのある食品を食物負荷試験の結果をもとに症状の出ない量を毎日食べて、少しずつ食べる量を増やしていく治療法
Yちゃんは、1日5mm(0.005g)のそうめんを食べることから始まりました。
チョイス@病気になったときより
お母さんはYちゃんが寝ている間に、そうめんを医師に指示された長さに切りました。Yちゃんが起きている時間に作業をして、誤ってYちゃんの口にそうめんが入っては大変だからです。
“食べる量”と”量を増やすタイミング”は、医師の綿密な計算で決められているそうです。経口免疫療法の結果、Yちゃんは、治療開始から1年半後に小麦は完全解除(好きなだけ食べても良い)になりました。
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経口免疫療法の流れ
番組では、大矢先生が経口免疫療法の流れを解説していました。
まず、食物負荷試験を受けて、アレルギー反応の出る食品の食べられる量を調べます。毎日、医師が決めた量を食べていると、食べられる量が増えてくるので、少しずつ1回の摂取量を増やしていくそうです。
チョイス@病気になったときより
画像の中の図の赤い線は食べられる量のボーダーラインです。赤い線を越えると症状が出てしまいます。食べる量を増やしていくと、赤い線が押し上がるとのことです。
チョイス@病気になったときより
経口免疫療法中は、何度も食物負荷試験を繰り返して、食べる量を調整するそうです。図の中の赤い線がなくなると完全解除となり、アレルギーを克服したということになるそうです。
チョイス@病気になったときより
経口免疫療法も自己判断では行わず、必ず専門家の指導を受けてくださいと番組では繰り返していました。
少しぐらいアレルギーの症状であれば、その食品を食べさせれば治るだろうという考え方は、非常に危険だそうです。
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経口免疫療法の有効性
経口免疫療法は多くの子どもに有効で、どの食物アレルギーの治療にも使うことができると大矢先生は説明していました。
ただ、経口免疫療法は大変なので、軽度の食物アレルギーで完全除去をしていれば自然に治ってしまう場合には、受けなくても良いと大矢先生は考えていました。けれども、重症の場合は、完全除去をしていると大人になってもその食品を食べられないことがあるので、国立成育医療研究センターでは、積極的に治療をするようにしているとのことでした。治りにくい子供の場合は、医師と親が話し合いながら治療法を1つ1つ組み立てるそうです。
まとめ
食物アレルギーの陽性反応が出た場合に、その食物を完全除去するというのが間違いだっただけではなく、完全除去することが食物アレルギーを克服する可能性を潰していることに驚きました。研究が進んで1人でも多くの子供の食物アレルギーが完治して、楽しく食事ができるようになると良いですね。