多くの人を悩ませる「肩こり」。
なかなか解消することができない厄介な存在ではありますが、重大な症状だと思うことは少ない疾患でもあります。
ところが、しつこい肩こりは、命にかかわる危険な病気のサインかもしれないというのです。
たとえば…
主治医が見つかる診療所より
心筋梗塞やがんなど、命にかかわる重篤な病気がずらりと並んでいますね。
これらの病気のサインとして現れる肩こりは、病気によってこりが現れる場所が変わるといいます。
今回は、大病のサインである肩こりの特徴や仕組みについてくわしく解説し、早期発見のコツを紹介していた『主治医が見つかる診療所』をまとめておきたいと思います。
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ただの肩こりと思いきや…
Kさん(72歳男性)は、48歳の時に心筋梗塞と診断されました。
その診断の半年ほど前から、Kさんは今までに経験したことのないような、ズキンズキンと痛む左側の肩こりに悩まされていたそうです。
当時そば屋を経営していたKさんは、「自転車で担いで出前していたから、その重みでこったのかな…」と思っていたそうですが、マッサージを受けても治るどころかかえって痛みを感じたため「神経の方から来ているのかな?」などと考えて、半年ほど放置してしまったといいます。
結果、半年後の真夏の暑い日に、のどが詰まるほどの苦しさに襲われてしまいました。帰宅して横になっても、どんな格好をしてみても苦しみがとれず、寝ていられなかったため「普通じゃない」と判断し、病院を受診。そこで心筋梗塞と診断されました。
心筋梗塞は、心臓に血液を送る血管がつまり、心臓の細胞が死んでしまう病気で、最悪の場合は突然死することもあります。
心筋梗塞を含めた心疾患で亡くなる方は、日本で年間19万7千万人ほどもおり、男女ともに死因の第二位となっています。
医者に「よくもったね」といわれるほど病状が進んでいたKさんは、すぐにその場でシャツ破られ、手術を受けることになりました。血管の詰まりかけた部分を網状の筒(ステント)で広げて血流を回復させる「冠動脈カテーテル治療」で、一命をとりとめました。Kさんは、「家族に誰も心臓病の人がいないので、予想もしなかった」と振り返っていました。
Kさんはその16年後と、さらにその4年後にも心筋梗塞を再発・再々発しましたが、その度に同じような肩の激痛が生じたそうです。
Kさんはこの経験から、「揉んでも治らなくて、なんでもないのにズキンズキンする肩こりは、気をつけたほうがいい」とアドバイスしていました。
番組に登場した秋津嘉男医師は長い臨床経験の中で、肩こりが急激にひどくなったという患者の心電図を撮ったら心筋梗塞であることがわかった、ということがあったそうです。上山博康医師も同じような症状を訴える患者から「肺尖部にある肺がんを見つけたことがある」と証言していました。
ではどうして、心臓や肺の異変で肩こりが生じるのでしょうか?
その理由を、具体例とともに見ていきましょう。
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左肩がこる理由
Tさん(54歳男性)は30代の半ば頃、営業マンとして忙しい毎日を送るなかで、左側の肩の、特に肩甲骨まわりに張りを感じるようになりました。キツくつままれたような、足がつるような感じの症状が月1回ほど現れていたそうですが、「疲れたのかな」と考えて放置してしまいました。
それから約4年後、痛みは上半身の左側全体に広がり、本人によると「骨折したときの痛みに近い」というほどの激しい痛みに変わったといいます。頻度も週1回ほどになり、歯まで痛みが広がりました。その痛みは「歯が全部抜けるのでは」というほどのもので、しまいには「目玉が前に出てしまうくらい」の頭痛にも襲われたといいます。
さらに6年ほど経ったころ、朝起きると上半身の左側にとても我慢できない痛みが現れ、息も出来なくなってしまったため、救急車で病院に搬送されました。
そこでTさんは「狭心症」と診断されたといいます。
狭心症は、心臓に血液を送る血管が何らかの理由で狭くなることで胸の痛みや圧迫感などが生じる病気です。進行すると、最悪の場合は血管が完全に詰まって心筋梗塞になり、突然死することもある危険な病気です。
その後、投薬治療で危険を脱したTさんでしたが、もっと早く気付けていればここまで病状を悪くすることはありませんでした。
狭心症で左肩がこる理由
心臓で起きている狭心症で肩がこるのは、身体が痛みを感じる仕組みに原因があります。
わたしたちの身体には頭の先から足の先まで神経が張り巡らされており、身体のどこかに異常があると“痛み”として脳に伝わります。
末端では細いバラバラの神経も、脳に近づくにつれてまとまった太い束になっていきます。そのため脳は、異常がある場所から来る痛みの信号を、同じ神経の束につながっている別の場所に異常が生じていると勘違いすることがあるのだそうです。
心臓の神経と、左肩や左腕の神経は同じ経路にあるため、脳が錯覚して肩や腕の痛みとして感じてしまうのです。
こういった現象を「放散痛」というそうです。
Tさんは今でも月に1回ほど、左肩にこりを感じるそうで、狭心症の発作を抑える薬をつねに持ち歩いているそうです。
秋津嘉男医師は人間の神経や感覚について、
「人間の感覚で本当に鋭いのは舌の先と指の先だけ。舌は細い骨でもわかるし、指先では点字が読める。しかし、他の部分は結構適当なセンサーしか無い」
と説明していました。
心臓のスペシャリストである細川丈志医師は、
「(心臓の病気の放散痛としては)歯から顎にかけての痛みも多くあらわれる。特に奥歯。前歯や上の歯が痛いという人はほとんどいない」
と話していました。また、「多くの心筋梗塞の患者が、最初に肩がこって…と話す」とも指摘していました。
つぎは、放散痛と普通の肩こりの違いを、正確に見極めるためのポイントを見ていきましょう。
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危険な肩こり「放散痛」を見極めるポイント
放散痛の見極め方について、番組に出演する医師たちが順にポイントを挙げていました。
細川医師が挙げたポイント…「身体を動かしたとき」
放散痛は、動いた時に肩がこるという特徴があります。「階段を登ったあとなど、運動した時に肩がこる」という症状があると、心臓に原因がある放散痛である可能性があるそうです。
秋津医師が挙げたポイント…「肩こりの範囲」
放散痛は痛みの生じる範囲がとても曖昧です。ここが痛い、と明確にわかるときは放散痛ではありません。
“この辺りにある、肩こりのような、不快感のような…”という変な感じがあると放散痛である可能性が高いそうです。
中山久徳医師が挙げたポイント…「痛みの違い」
通常の肩こりは、血流障害が生じて肩が硬直した状態なので、押すと“イタ気持ちいい”はずです。しかし放散痛の肩こりは、揉んだ時に痛みが強くなるという特徴があるといいます。
丁宗鐵医師が挙げたポイント…「ツボ」
左肩に「肩井」というツボがあります。
主治医が見つかる診療所より
ここを押してみて違和感があるときには、心臓病を疑うべきだそうです。
これらのポイントで当てはまるものがある場合は、循環器の専門医に見てもらうといいそうです。
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右肩がこる危険な病気
右肩にも放散痛がでることがあります。
Uさん(73歳女性)は、43歳のときに会社で事務の仕事を始めた頃から、身体に異変を感じるようになりました。「右肩のやや下辺りがすごく重い」と感じるようになったそうです。総務部長に昇進するなど忙しく過ごすなかで、10年ほどかけて右肩の凝りは徐々に悪化していき、動けなくなるほど痛くなったこともあったそうです。
こりを感じ始めて14年経った56歳のときに受けた健康診断で、Uさんの身体にC型肝炎が見つかりました。
C型肝炎は、C型肝炎ウイルスの感染によって肝臓に炎症が起き、肝臓の機能が低下してしまう病気です。自覚症状がほとんど現れないまま進行していき、最終的には肝硬変や肝臓がんに進行することもあります。
じつはUさんの右肩の痛みは、肝臓に起きた異変の放散痛であり、C型肝炎を知らせるサインだったのです。
肝臓のすぐ上には横隔膜があり、横隔膜は肩の周りの筋肉とつながっています。体の右側にある肝臓に炎症が起きれば横隔膜が刺激され、右肩に痛みが生じるというわけです。
Uさんは右肩に違和感を感じるようになってから、指圧に通っていました。指圧代だけで年間約20万円もかけていましたが、いろんな場所を押してもらっても「そこじゃない」というような感じだったといいます。右肩の違和感についてUさんは「肩の辺りに膜が張ったみたいに痛いという感じ」と表現していました。
そんなUさんでしたが、2年前に新しい薬を試したところC型肝炎が改善し、ほぼ同時に肩の痛みもなくなったといいます。
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放散痛を見極めるポイントその2
消化器内科の森一博医師は「姿勢を変えても揉んでも改善しない」ことをポイントとして挙げ、さらに上山博康医師が「背中のあたりに違和感のある痛みを伴うと危険」と指摘していました。
姫野友美医師は実体験を交え、「片側だけが痛いこりは、内臓疾患を疑うべき」と指摘していました。
「糖尿病の患者さんで肩こり持ちの人がおり、その人は整形外科に通っていた。糖尿病ということで膵臓を見ておこうと思い、検査してみたら、すい臓がんが見つかったことがある。片方どちらかの肩だけが痛いというときは内臓の疾患を疑って、エコー検査などを受けるといい。」と話していました。
南雲吉則医師が挙げたポイントは「全身の不調」でした。
「肝炎を起こしていると体の具合が悪くなる。炎症による苦しさや解毒できない苦しさで、全身がだるかったり熱っぽかったりする場合は、危険な病気が潜んでいる可能性を考えるべき。」と指摘していました。
胆石からも発生する放散痛
番組では、出演するタレントKさん(45歳男性)が現在かかえている肩の違和感の原因と対策を紹介していました。
Kさんは、4年ほど前から突然、右肩にこりを感じるようになったそうです。
その感覚は「重たい荷物をずっと持ってからそれを下ろしたときの疲労感のよう」だそうで、首が回せなくなることもあるそうです。
そんなKさんですが、肩こりが出始めたのと同じ時期に、人間ドックで「胆石」が見つかっていたといいます。
胆石は、正式には「胆のう結石」といいます。胆のうは肝臓と十二指腸との間にある洋なしのような形をした10センチほどの臓器で、食べ物を消化するために肝臓が分泌した胆汁を一時的に貯めておく保管場所の役割を果たしています。胆のうに一時保管されている胆汁が、何らかの原因で石のように固まってしまったものが胆石なのです。
日本人の約12人に1人の割合で存在し、人によって色や大きさ、数もバラバラです。
主治医が見つかる診療所より
胆石の原因は、加齢や肥満、過度の飲酒、運動不足、コレステロールの摂り過ぎなどと言われています。過激なダイエットが胆石のリスクを上げるということもあってか、患者の男女比は1:3となっています。
胆石があるだけではなんとも無いのですが、これが胆のうの出入り口などにつまると胆石発作を発症し、炎症を起こすと胆のう炎になってしまいます。胆のう炎は、「胃に穴があくこと」と「すい臓炎」に並んで『腹痛の3大激痛』と言われるほどの痛みが伴うそうです。
しかも胆のう炎を繰り返していると「胆のうがん」のリスクが高まってしまいます。胆のうがんは自覚症状が出にくく早期発見が難しいため、死亡率が高いがんのひとつです。
Kさん自身は、胆石と肩こりに関係があるとは思ってもみなかったという様子でしたが、森一博医師は「可能性は十分にある」と指摘していました。
胆石が胆のうの出口に引っかかったままだと、胆のうが痙攣して痛みが生じます。それがポロッと中に戻れば痛みは治まるのですが、詰まったり戻ったりを繰り返しているうちに肩に痛みが波及するという可能性は十分にあるということでした。
そこで番組では、現在のKさんの胆石の状態を、エコー検査で再検査していました。
4年前は直径8.8ミリとパチンコ玉程度の大きさだったKさんの胆石が、今回の検査では11ミリにまで成長していました。
主治医が見つかる診療所より
側面は19ミリあるので、楕円形をしていることも明らかになりました。
検査を担当した秋津医師によると「大きさとしては問題にならない」そうですが、「表面がでこぼこ、ザラザラしていて、新しい胆石の芽ができつつある」ことを指摘して、その危険性を解説していました。
胆石の表面に突起のように存在している胆石の芽がボロボロこぼれて、いろんな場所に詰まる恐れがあるというのです。小さなものであれば大きな痛みはないのですが、肩などに違和感が生じる可能性はあるそうです。
重度の胆のう炎になってしまうと胆のうを摘出する必要も出てきますから、油断はできない状況と言えます。
胆石が4年で成長してしまった理由はどこにあるのでしょうか?
秋津医師は、Kさんの行っているダイエットに理由があるのではと指摘していました。
「ダイエットでは食事を抜いたり量を減らしたりする。胆のうは油ものを消化するための胆汁をキープしておく場所なので、食事を抜くとたまった胆汁の使いみちがなくなり、その場に留まってしまう。そこに胆石があると胆石の周りに胆汁がくっつき、石が徐々に大きくなってしまうと考えられる。胆汁は本来、少しずつ使って循環していったほうがいいので、極端な(食事を抜いてしまうような)ダイエットはよくない」
と説明していました。
20年くらい前までは、胆石は胆のうがんの元だと言われていたため見つかり次第手術していましたが、石があるからといってがんになるわけではないことがわかったため、現在では胆石がみつかっても急を要しなければ、そのままにしておくように医療の方針が変わったそうです。
摘出する必要のない石は「サイレントストーン」と呼ばれ、秋津医師の解説にあったように規則正しく食事をとって胆汁を循環させ、石の成長を緩やかにするなどして上手に付き合っていくのがよいそうです。
まとめ
今回紹介されていた事例は心臓、肝臓、胆のうの3箇所からくる「放散痛」でしたが、さまざまな内蔵疾患を原因とした放散痛が肩に現れることがあるようです。
「片方だけに現れる」や「痛みの範囲があいまい」など、番組内で医師たちが解説していた見極めポイントにひとつでも当てはまるものがある場合は、詳しい検査を受けるようにしてくださいね。