京都大学の山中伸弥教授がノーベル賞を受賞し、一躍有名になった「iPS細胞」。
再生医療を可能にする画期的な存在であることは知られていますが、治療現場での実用化にどこまで近づいているかはあまり知られていません。
今回は、iPS細胞治療の最前線について解説していたNHK『くらし解説』をまとめておきたいと思います。
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他人の細胞からつくられたiPS細胞を移植する
今月、理化学研究所と神戸市立医療センター中央市民病院、京都大学iPS細胞研究所、大阪大学などが共同で新しい臨床研究を行うことが発表されました。加齢黄斑変性症という、眼の網膜が損傷する病気の患者を対象にしたものだそうです。
加齢黄斑変性症とは、視野の中心部分がゆがんで見えたり、暗くなってしまったりする病気です。
この病気をiPS細胞で治療する臨床研究が一昨年おこなわれましたが、そのときは患者自身の細胞からiPS細胞をつくった臨床研究でした。
今回は、他人の細胞からつくられたiPS細胞を用いて網膜の細胞をつくり、移植する臨床研究です。
他人の細胞からつくることのメリットは、すぐに手術を受けられることです。
くらし解説より
患者自身の細胞からiPS細胞をつくり、網膜の細胞をつくろうとすると11ヶ月ほどかかってしまい、その間に病気が進行してしまうリスクがあります。
しかし、他人の細胞からあらかじめiPS細胞をストックしておけば、最短1ヶ月で手術をうけることが出来ると考えられているそうです。
また、費用を抑えられるというメリットもあります。
事前にiPS細胞をストックしておくことで多くの人に使うことができるため、一人あたりの費用が抑えられるのです。
山中伸弥教授も、いつでも使える状態にしておくことをiPS細胞治療の柱に位置づけているそうです。
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他人の細胞を移植しても大丈夫?
他人の細胞からつくったiPS細胞をもとにした細胞を移植すると、身体がそれを異物とみなして拒絶反応を起こすことが懸念されますから、それへの対策も必要になります。
たとえば、血に「血液型」があるように、細胞にも“型”があるそうです。他の人に移植しても拒絶反応がでない特別な型の細胞を持っている人がいるので、その人の細胞からiPS細胞をつくれば、患者のうち17%は拒絶反応がなく移植することができるそうです。
さらに、他にも拒絶反応を起こしにくい型があるそうで、その75種類の型を集めることができれば、なんと80%の患者に拒絶反応なく移植することが可能になるといわれているそうです。
しかし、特別な型なので、保有者を見つけるには6万人以上の人を調べる必要があるとされています。骨髄バンクなどと連携して、本人の承諾をもらって調べるなどの方法が考えられているそうです。
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安全性の課題
iPS細胞を治療に用いる場合は、移植する細胞にがん化する細胞がないことを確認する必要があります。遺伝情報の読み取りなど多くの手間をかけて、ウイルスの感染がないかどうかまで調べなければなりません。
ただし、これは臨床への応用の入り口段階だからこそ、慎重に行っているという面もあるようです。
遺伝情報を読み取る方法が進歩したり、実際に多くの人に使われるようになったりすれば、その確実性は上がり、労力や費用は下がると考えられているそうです。
他の病気の治療への応用
今回は加齢黄斑変性症で臨床研究が行われていますが、それは網膜の細胞にはがんになりにくい性質があって臨床に使いやすいからであって、他の病気への応用ももちろん考えられています。
例えば…
くらし解説より
この中にある「脊髄損傷」の治療は、損傷後の早い時期に細胞を移植しないと効果がないことが知られていますが、iPS細胞をストックしておけるようになれば、交通事故などで傷ついた脊髄の神経を早期につないで治療することが可能になると考えられています。
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まとめ
iPS細胞の実用化が着実に進歩していることがよくわかる特集でした。
安全性を確保した治療で、これまでは治すことができなかった病気の治癒が実現することを期待しましょう。
参考
京都大学iPS細胞研究所