年齢を重ねると、聞き間違えや耳鳴りなど、聴力にまつわる衰えや異常を感じることが増えてきます。
「歳だから耳が遠くなるのも仕方ない…」と諦めてしまう方も多いようですが、ちょっとした工夫をするだけで聴力を維持できたり、耳鳴りを抑えたりすることが出来るといいます。
そこで今回は、聴力アップの方法や耳鳴りの改善について解説していた『健康カプセル!ゲンキの時間』をまとめておきたいと思います。
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老人性難聴
加齢によって聴覚に異常が生じる理由を知るためには、そもそも私たちがどのように「音」というものを認識しているかを知っておく必要があります。
音が耳に入ってくると、その振動は鼓膜で増幅され、さらに奥にある蝸牛という場所で電気信号に変換されて脳へと伝わり、音として認識されます。
健康カプセル!ゲンキの時間より
蝸牛の中には有毛細胞という毛のような形をした細胞があり、それらが伸縮することによって音の振動が電気信号に変換されるのですが、歳をとるとこの有毛細胞が壊れていってしまいます。高い音を感知する有毛細胞ほど耳の外側の方にあってそちら側から壊れていくので、高齢者には高い音が聞こえづらくなるのだそうです。
番組に登場した東京大学の山岨達也教授によれば、「有毛細胞を再生させる方法はない」そうです。
街で行われたインタビューでは、
「聴力が戻らないというのはわかっている」
「話ができないというほどじゃないから、わざわざ病院へは行かない」
などの答えが返ってきていました。
皆さん比較的軽く見ている様子ですが、老人性難聴は高齢者の孤立を引き起こす原因としても問題視されているのです。
耳が遠くなるとコミュニケーションでトラブルが生じ、孤立や引きこもりにつながるといいます。
さらに、アメリカの調査によれば聴力がわるい人ほど認知症のリスクが高まることがわかったそうです。標準的な聴力の人に比べて軽度の難聴の人は2倍、中度の人は3倍、重度の人になると5倍もリスクが高まるそうです。
健康カプセル!ゲンキの時間より
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「聴覚ネットワーク」を鍛えておく
番組では、「有毛細胞が壊れても諦める必要はない」ということを証明するような方を取材していました。
ピアノの調律や聴覚検査に使われる音叉を作り続けて59年という本田泰さんは、83歳になった今でも、音叉の音を最終確認・調整する仕事を続けています。
音叉の音は440ヘルツの「ラ」の音が世界基準として定められており、工場でつくられる音叉はその音が出るように作られているのですが、どうしても1ヘルツほどの誤差が生じてしまうそうで、最終的には人の耳で確認・調節する必要があるそうです。
正しい音を出す音叉と出来たての音叉を同時に鳴らしてわずかな響きの違いを感じ取るのですが、83歳の本田さんは今でも0.05ヘルツのズレを聞き分ける事ができるといいます。
しかし、聴力テストを行ってみると、本田さんの聴力は平均的な80歳の聴力にまで低下していました。この結果は意外に思えますが、山岨教授によれば
「誰でも聞こえは悪くなる。ただ、本田さんの場合、長い間音の高さを聞き分けているので聴覚のネットワークが鍛えられており、音の違いを聞き分けられると考えられる」
とのことでした。
聴覚のネットワークとは脳内の神経ネットワークのことを表現した言葉です。
私たちは本来、脳内で雑音をシャットアウトして必要な情報(音)のみを選択しているのですが、歳を取るとその選択ができなくなってしまいます。しかし本田さんは長年同じ作業を続けているためそのネットワークが衰えていないと考えられるというのです。
老人性難聴では音がこもったように聞こえるという特徴もあります。
先述の通り高い音から聞こえづらくなるので、低音である母音(あいうえお)は比較的聞き取りやすいのですが、高音である子音(カ行サ行タ行ハ行パ行など)は感知できず、結果としてこもったように聞こえてしまうといいます。
私たちが会話を理解する上で重要なのは、相手の発した言葉を予想出来るかどうかです。山岨氏によれば「私たちはすべての言葉を聞き取っているわけではない。類推が聴覚ネットワークの大事な働きだ」といいます。前後の流れなどから「こう言っているのだろうな」と、脳が自然と類推して聞き取っているのです。
それでは、聴覚のネットワークを強くするにはどうしたらいいのでしょうか。
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聴覚のネットワークを鍛える「聴覚筋トレ」
大事なのは類推する聞き取り能力を鍛えることです。
「一、七、吉」
など響きが似た言葉を紙に書いて、お年寄りの背後に立ちます。これは口の動きで言葉を推測できないようにするためです。
そしてそれらの言葉をランダムに読み上げます。聞いた方はそれを復唱します。間違えたら正解を示し、発音して、また聞き取りに戻る、ということを繰り返します。
このトレーニングで大切なのは音に集中することだそうです。
耳が元気なうちにやっておくことで難聴の予防に役立つと考えられているそうです。
お年寄りに話しかけるときの注意点
山岨氏は「耳元から大声で話しかけると耳を痛めてしまう。言葉を推測しやすいよう、口の動きが見える位置で話すとよい。また、脳内で情報を処理する能力も落ちるのでゆっくりと喋ることもポイント」と話していました。
たとえば、七時(「しちじ」)を「ななじ」にするなど、聞き間違えやすい言葉は言い換えるようにするといいそうです。
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耳鳴り
現在、耳鳴りに悩む人は全国で約1000万人もいるといわれています。
耳鳴りは、実際に鳴っている音ではなくて頭の中で感じる音だそうで、難聴の人ほど感じやすいそうです。
というのも、音を聞き取りづらくなると脳はその音域を感じ取ろうとして興奮状態になるそうで、脳内のよけいな電気信号まで音として感知してしまうため、耳鳴りを感じてしまうそうです。
ひどくなると睡眠障害になったりうつになったりすることもある耳鳴り。
かつては治療法がありませんでしたが、難聴が原因で聞こえる耳鳴りには補聴器が有効であることがわかってきました。音の聞こえが良くなると脳の異常な興奮がおさまって、結果的に耳鳴りも止むというわけです。
最近では補聴器も進化しており、まわりの雑音を下げる効果を持つ補聴器や、その人の聞こえない音域だけを聞こえるようにする補聴器なども販売されています。
補聴器を購入する際は、全国に約4千人いる「補聴器相談医」がいる病院をこちらのサイト(http://www.jibika.or.jp/members/nintei/hochouki/hochouki.html)で見つけて診てもらえば、認定補聴器専門店を紹介してもらえるそうです。
突発性難聴
ある日突然片耳だけが聞こえなくなるような難聴は「突発性難聴」と呼ばれ、耳の脳梗塞とも言えるような病気です。
耳の細胞が死んでしまう前に治療することが重要なので、すぐに病院に行くようにしましょう。1週間以内に受診しないと治りづらくなるそうです。
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まとめ
私たちが「聞く」という行為を円滑に行うには「聴覚のネットワーク」がカギになっていることがよくわかりました。
ネットワークの“筋トレ”は遊び感覚でできるものですから、ご家族で日課として行ってみてはいかがでしょうか。