先日の『主治医が見つかる診療所』は「ガーデニング健康法」をテーマにしていました。ガーデニングが脳の病気や生活習慣病の予防や改善につながることが医学的にも認められているそうです。また、ガーデニングをすると知らず知らずのうちに運動量が増えることから、ダイエット効果もあるとのことです。
番組では、樫林哲雄先生(兵庫県立西播磨総合リハビリテーションセンター、リハビリテーション西播磨病院 認知症疾患医療センター長/もの忘れ外来)と森岡尚夫先生(金沢クリニック 院長/心療内科・内科)が、それぞれの病院とクリニックで取り入れている園芸療法の実例と効果を紹介していました。そして、浅野房世農学博士(東京農業大学大学院教授)が、ガーデニングの健康効果と庭やベランダがなくても簡単にできるガーデニング健康法を紹介していました。
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ガーデニングを医療現場で活用する園芸療法
浅野房世博士によると、ガーデニングは認知症、脳梗塞、うつ病などの脳の病気や糖尿病や骨祖しょう症などの生活習慣病にも効果があると医学的に認められているそうです。ガーデニングを病気の治療として行うことは、園芸(ガーデニング)療法と呼ばれています。園芸療法は北欧が発祥でその後アメリカやイギリスに広まったとのことです。1950年代には、戦争から帰還した軍人のリハビリや心の傷を回復させるために園芸療法が行われていました。日本では、2002年に阪神・淡路大震災の被災者のケアなどのために兵庫県で園芸療法課程が開講されたのが園芸療法の始まりだと番組で紹介されていました。浅野先生が理事長を務める日本園芸療法協会は2008年に創設され、現在では全国の病院や福祉施設で園芸療法が実践されているそうです。
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ガーデニングと脳の機能の関係についての研究結果
浅野博士が金沢大学医学部教授と共同でガーデニングと健康に関する実験を行ったところ、脳梗塞などで脳の一部にダメージのある人が園芸療法で花を見たり、花の匂いを嗅いだりすることによって、機能の落ちていた脳細胞が活性化(賦活)したそうです。
上の脳の画像で赤い部分が脳細胞の活性化した場所です。園芸療法を行った後には赤い部分が増えているのがわかります。
また、園芸療法によって脳のダメージを受けた場所の働きを補うために、別の場所の脳細胞が活性化することも浅野先生たちの実験で明らかになったそうです。
上の画像は、脳の左側に脳梗塞を発症した患者が、園芸療法を行ったことで脳の右側の脳細胞が活性化したこと表したものです。
ガーデニング療法の脳梗塞や認知症の予防・改善効果
兵庫県立西播磨総合リハビリテーションセンターでは、脳梗塞などの脳の病気のリハビリや認知症の予防と改善にガーデニング療法を取り入れているそうです。番組では、脳の病気のリハビリをしているHさん(74歳、男性)と認知症のTさん(80歳、女性)がガーデニング療法に取り組む姿を取材し、ガーデニングがどのように脳梗塞や認知症の予防と改善につながっているのかを紹介していました。
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ガーデニング療法と脳梗塞
西播磨総合リハビリテーションセンターでは、脳梗塞などの脳の病気のリハビリに運動療法などに加えて、ガーデニング療法を取り入れています。同センターのガーデニング療法では、患者の入院期間によって栽培する作物を決め、短期入院の患者でも収穫まで世話ができるようにしているとのことです。樫林先生によると、歩行訓練などの通常のリハビリは辛くて長続きしない人も、楽しみながらできるガーデニング療法は長く続けることができるとのことです。脳の血管の障害のリハビリのために番組が取材をした3ヶ月前から入院中のHさんは、通常のリハビリに加えて1日30分のガーデニング療法を受けていました。その結果、入院したときには人の支えがないと歩けなかったのが、杖を使って自分で歩けるまでに回復しました。Hさんは番組のインタビューに園芸(ガーデニング)をしている間は病気のことを忘れられると答えていました。また、薬を飲むよりもガーデニングをしているほうが、早く病気が治るような気がするとも話していました。
ガーデニング療法と認知症
西播磨総合リハビリテーションセンターの認知症の予防と改善のためのガーデニング療法のプログラムの1つに草花の匂いを感じ取るというものがあります。草花の匂いで臭覚を刺激すると認知症によって失われてしまうだろう記憶をつなぎとめる効果があるとのことです。臭覚を刺激することが、記憶を留めておく効果があるのは、脳の中の匂いを感じる部分と記憶に関係する部分が隣り合っていて、匂いと記憶には強い関係性があるからだそうです。
同センターでは、お湯が入った洗面器に患者が病院で栽培しているハーブや花をちぎり入れて、その中に手を入れる手浴(しゅよく)も行っています。手浴で臭覚に加え、手や指先の感覚を刺激することが脳の活性化につながるとのことです。
同センターのガーデニング療法のプログラムには、院内で行う作業の他にも、患者が外に出て病院の花壇でラベンダーなどの花やハーブを積む作業も取り入れられています。
77歳のときにアルツハイマー型の認知症と診断されたTさんは、認知症が徐々に悪化して消極的になり人と話さなくなってしまったそうです。ところが、約1年前から同センターの指導で週に1度ガーデニングを始めたところ、誰とでも積極的に会話ができるようになったとのことです。他のリハビリには興味を持てなかったTさんが、ガーデニングには興味を示したそうです。
樫林先生によると、以前は自宅にひきこもりがちだったTさんがガーデニングによって積極的になり、認知症の症状(意欲や興味)が改善したとのことです。また、コミュニケーションが取れるようになったことで、介護をするご主人の負担も軽くなったそうです。Tさんのご主人は番組のインタビューに、Tさんはガーデニングを始めてから若返って、活発になったと答えていました。
さらに多くの園芸療法の体験談や効果に興味のある方には、「園芸療法のこころ―ひとりひとりの物語から」がお勧めです。
園芸療法のこころ―ひとりひとりの物語から
グロッセ 世津子
園芸療法の効果を高めるための庭造り
浅野博士が園芸療法を実践する神奈川県横浜市にある老人ホーム「コンフォートガーデンあざみ野」では、浅野博士の教え子たちでガーデニング、医療、介護の知識を持ったスペシャリストの園芸療法士(日本園芸療法学会などが認定する資格)がたくさんの草花が植えられた庭を整備しています。
この老人ホームの庭では、園芸療法の効果を高めるために様々な工夫がされているそうです。例えば、花壇の花は、顔の高さに植えられています。花を低い位置に植えると、わざわざ屈まないと花に触ったり、匂いをかんだりすることができませんが、顔の高さに花を植えることによって入居者の目に留まりやすくなり、自然に花と触れ合えるようになるとのことです。
また、視覚を刺激するために草花の色彩を考えて、それぞれの草花を植える位置が決められています。
例えば、白いので他の植物とのコントラストがつけやすいハンゲショウは、ピンクの花の隣に植えられていました。
さらに、浅野博士は庭を流れる小川のスピードにも注意を払っていました。水の流れが速すぎると、水の音が心地良くないとのことです。
入居者が草花に興味を持ちやすい庭を造ることで、入居者が自然に庭に出て歩くようになり、運動量が増えて健康が改善するという効果があると番組では説明していました。
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園芸療法で生活習慣病の予防・改善とダイエット効果
森岡尚夫先生が院長を務める石川県の金沢クリニックと金沢大学医薬保健学の柴田克之教授らが5年前に行った共同研究によって、園芸療法が血液(血糖、中性脂肪、コレステロール)の改善に効果があることが証明されたそうです。
実験では、平均年齢64歳の糖尿病患者7人(男性1人・女性6人)が園芸療法を約1時間半とウォーキングを約15分間、これらを2週間に1回、6か月で12回行ないました。その結果、参加者の空腹時血糖値が改善、コレステロールのLH比の減少と中性脂肪の減少という結果が得られたと森岡先生が説明していました。
また、参加者7名中5名の体重が減少して、おなか周りのサイズも改善したことから、園芸療法にはダイエット効果があることもわかったそうです。
6か月間で参加者の体重は平均1.1kg、腹囲は平均4.1cm減少したとのことでした。
園芸療法にダイエット効果があるのは、ガーデニングの運動量によるものだそうです。国立健康・栄養研究所が発行する身体活動のメッツ(METs)表(運動時の肺活量とエネルギー消費量を表す数値)によるとガーデニング全般と健康体操(軽めの腕立て伏せや腹筋運動)のメッツは3.8です。これは、10分間楽しく草花をいじるガーデニングと10分間の(腹筋などの)トレーニングの運動量は同じだということを意味しているそうです。
番組に出演していた循環器内科医の秋津壽男先生(秋津医院院長)によると高血圧の薬以外の治療の三本柱は運動、減量、減塩でガーデニングをすることはその全てにおいて良い効果が得られるとのことです。ガーデニングを楽しみながら運動量を増やすと体重が減って血圧が下がるそうです。また、自分で栽培した野菜は味をつけて食べるのがもったいなく、そのまま食べるようになるので、減塩にもつながると秋津先生は説明していました。
秋津先生は、健康に長生きするための情報をまとめた本を執筆しています。
長生きするのはどっち?
秋津 壽男
秋津先生、長生きするには何を食べたらいいですか?
秋津 壽男
人間ドックの検査入院でガーデニング
金沢クリニックでは、8年前から人間ドックで検査入院をした患者で希望をした人に園芸療法の指導を行っているそうです。検査入院時に習ったガーデニングを自宅でも取り入れて生活習慣病の予防につなげてほしいとの思いから始めたと森岡先生は説明をしていました。金沢クリニックでは、8,000㎡の畑を園芸療法用に借りています。
参加者は、作業療法士の指導のもと土づくりや種まきを体験します。また、自分で畑から摘んだ花で生け花をします。参加者が、心惹かれる花を選ぶために迷っている間に歩数が増えるのでとても良い運動になります。また、花を目で見て、手で触って、頭で考えながら草花と接するということがストレスの軽減にもつながるそうです。
金沢クリニックの園芸療法を含む人間ドックのプログラムは2泊3日で3万7000円(税込)とのことです。(プログラムによって料金は変わります。)
ただし、7月と8月は熱中症の予防のため園芸療法は実施しないそうです。
◆金沢クリニックの人間ドックのプログラムの例
1日目:自宅でもできる運動法や食事法の指導
2日目:(午前)人間ドックの検査 (午後)園芸療法などの指導
3日目:検査結果を受けての医師による問診
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ガーデニング健康法の5つのポイント
番組では浅野博士が自宅で簡単に効果的にできるガーデニング健康法のポイントを5つ紹介していたのでまとめておきます。
1.植物は種から育てる。
植物を種から育てると、芽が出たとき、花が咲いたときなど、その成長の過程で喜びを感じ、愛情をそそぐようになるそうです。そうすることによって、幸せホルモンのオキシトシンが分泌されて、免疫力を高める効果が期待できるとのことです。
ガーデニングは、室内で行っても良いそうです。育てる喜びを知ると、もっと育ててみたいという気持ちになり、自然と長続きすると浅野先生は説明していました。また、座りながら作業をしても効果が得られるので膝や腰に負担のある人でも始められます。
2.両手をしっかりと使う
浅野先生によると握力を維持することが認知症の予防につながるので、両手をしっかり使うことを意識してガーデニングを行うと良いとのことです。それは、手を握る運動が脳を活性化させるからだそうです。握力の強い人は、認知症や脳卒中になりにくいとの説明もありました。
ガーデニング中にしっかり両手を使うための工夫として、水やりをするときにジョーロを持つ手を時々変えるなどがあります。さらに、道具を使うことが脳細胞の活性化につながるので、手で簡単に取れる枯れた葉っぱも手で取らずに、あえてはさみを使うなど手先を動かす道具を使うと認知症の予防効果が上がるとのことです。
3.作業は朝に行う
浅野先生によると、ガーデニングは朝行うのが重要だそうです。朝しっかり太陽を浴びると睡眠の質が向上します。また、体内時計を整えるのにも役立ち、体調が安定するとのことです。
4.植物をいつでも見られる場所に置く
自分が育てている植物を自然に目に入る場所に置いておくことも、ガーデニングを長続きさせるためには重要だそうです。植物が目に入る場所にあることで、その成長を感じる機会が多くなり、世話をする意識が芽生えるとのことです。
5.育てやすい植物から始める
浅野先生によると、ガーデニングをするときは育てやすい植物から始めて、育てたという達成感を得るのが重要だそうです。
レタスやサラダ菜などのキク科の植物は、虫がつきにくいので育てやすいそうです。反対に、ブロッコリーやキャベツなどのアブラナ科の植物は、虫がつきやすいので初心者には向きません。
浅野先生は、種をまいて水をやるだけでよく、早摘みであれば約20日間で収穫ができるベビーリーフをガーデニング初心者にすすめていました。
レタスやサラダ菜は収穫まで約50日で、ベビーリーフのように種をまいて水をやるだけで育つそうです。
ガーデニングに慣れてきたら収穫まで約60日のトマトやきゅうりに挑戦してみると良いと番組では紹介していました。
秋津先生は、豆腐の入れ物にペーパータオルを入れて、ペーパータオルが浸るほどの水を入れて、人参のヘタを乗せておくと数日で発芽するというミニガーデニングを紹介していました。
パイナップルの場合は、パイナップルのヘタに楊枝を数本さして、水をたっぷりと入れた容器に浮かべておくと良いそうです。
この方法で、おいしくはないけれども小さなパイナップルを環境が良くなくても育てることができるとのことです。
人参もパイナップルも根が伸びたら植木鉢に移し変えると、さらに大きく育てることができると番組では紹介していました。
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まとめ
ガーデニングに脳梗塞や認知症などの病気を予防・改善する効果があることに驚きました。また、ガーデニングの運動量は、軽い筋トレに匹敵するので、運動が苦手な人が体を動かすのにガーデニングがとても良いこともわかりました。ガーデニングは気軽に始められるようなので、あまり興味がなかった人でも最初の一歩を踏み出せれば、植物の成長を見ているうちに楽しくなって、長く続けられる趣味にできそうですね。