先日の『主治医の見つかる診療所』では、「慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)」と「くも膜下出血の微小漏出」という脳の病気の特集をしていました。どちらの病気も初期症状に気がつきにくいので、放置しているうちに悪化して死にいたることもあるそうです。番組では、これらの病気の仕組みや早期発見法を解説していました。
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慢性硬膜下血腫とは?
気がつかないうちに悪化して、命に危険を及ぼすこともある脳の病気の1つに「慢性硬膜下血腫」があるそうです。
人間の脳は外側から硬膜、くも膜、軟膜と三層の膜に守られています。くも膜と軟膜の間に入っている液体は脳脊髄液です。
頭をぶつけるなど、頭に衝撃を受けてくも膜が破れると、脳脊髄液はくも膜と硬膜の間に流れ出してしまいます。脳脊髄液が流れ込んだ部分は風船のように膨らむのです。そして、このふくらみの中に、新しい血管ができます。この新しい血管はとても弱いので、すぐに血液が漏れてしまいます。漏れた血液が血種となって脳を圧迫。そして、脳にダメージが与えられ体にさまざまな問題を起こす病が「慢性硬膜下血腫」だそうです。
慢性硬膜下血腫は治療が遅れると意識障害を起こしたり、寝たきりなったり。そして、最悪、死の危険も……。早期発見のためには、さまざまな病気のサインを見逃さないことが大切になります。
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慢性硬膜下血腫の初期症状
「老化による物忘れと間違えやすい死の危険がある病気」として紹介されていた慢性硬膜下血腫。番組では、1年ほど前に慢性硬膜下血腫を発症し、日本頭痛協会代表理事の間中信也先生(間中医院院長/脳神経外科)の診断を受けたMさん(74歳、男性)の経験をもとに、初期症状を説明していました。
●症状の経過(Mさんの場合)
1.朝起きたときの軽い頭痛
Mさんが初めに異変を感じたときは朝目覚めたとき。頭の左側が何となく重たく感じたそうです。けれども、仕事をしていれば忘れる程度だったので2,3日は放っておいたとのこと。
慢性硬膜下血腫の初期で、目覚めのときに軽い頭痛が起こる原因は脳のむくみ。普段、起きているときは足の方に血が溜まりますが、横になると脳に流れる血液が増えるので脳がむくんでしまうそうです。
慢性硬膜下血腫の場合、わずかなむくみでも血種に脳が圧迫されて頭痛が起こります。起き上がって脳のむくみが取れれば、頭痛も収まるというわけです。
2.自分のしていることがわからなくなる
Mさんが最初に頭の痛みを感じてから4日目、農作業中に果物の大きさの区別がつかなくなってしまったそうです。また、5日目には夕食後に「畑に行く」と発言。窓の外を見るまで昼食を食べたと思っていたとのこと。このとき奥さんは、Mさんが認知症になってしまったのかと思ったそうです。
3.マヒ症状
頭の痛みを感じてから6日目、Mさんは、血圧を測るために左腕をテーブルに上げようとしても腕が上がらなくなってしまいました。ここで病院へ行くことを決めたそうです。
そして、その翌日に病院で間中先生から慢性硬膜下血腫の診断。Mさんは診断された次の日に緊急手術を受けて、幸い後遺症が残ることもなく回復しました。
血種は脳と頭蓋骨の間に溜まるのですが、全てが同じ場所に溜まるわけではないのです。それで、脳が圧迫されている部分によって症状が変わるそうです。そのため、慢性硬膜下血腫の症状を断定するのは難しいとのこと。例えば、前方が圧迫されている場合は、物忘れなどの精神症状、横が圧迫されている場合はマヒ症状が出ると上山博康先生(禎心会病院 脳疾患研究所 所長/脳神経外科)が説明していました。
慢性硬膜下血腫は早期発見が難しい!?
俳優の若林豪さん(75歳)は、68歳のときに追突事故がきっかけで慢性硬膜下血腫を発症しました。けれども、この病気が見つかったのは事故から40日後だったそうです。番組では若林さんが慢性硬膜下血腫と診断されるまでの経緯を紹介していました。
●10日間の検査入院でも病気は発見されなかった
事故後、若林さんは首に軽い痛みがあったので10日間入院して全身の検査を受けました。けれども、このときの診断は「軽いむち打ち」。脳には異常がないという診断でした。
事故から11日後、退院した若林さんは後頭部に重い痛みを感じました。そして、事故から14日後、ウォーキングをしているときに、まっすぐに歩こうとしても右にズレていくようになったそうです。また、このころからセリフも覚えられなくなってきたと若林さんは話していました。
上山先生によると、これらの症状が出たのは若林さんの血種が左脳にあったからだそうです。脳の神経は体の途中で交差しているので、血種ができた場所とは反対側がマヒや運動障害に。
また、セリフが覚えられなくなったのは左脳に言語中枢があるからとのことです。
事故から1か月後、右にズレる症状が悪化。壁のある廊下を歩いているときは、壁にくっついて動けなくなり、力いっぱい押さないと壁から体が離れなくなることもあったそうです。そして、事故から40日後、舞台終演後の楽屋で倒れ、病院に運ばれたことで慢性硬膜下血腫が発見されたのでした。緊急手術の結果、若林さんは2週間で退院することができました。現在は、病気の前と変わらない生活を送っているとのことです。
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慢性硬膜下血腫の症状がでるのに時間がかかる理由
慢性硬膜下血腫は一度の出血が少ないので、発症するまでに2週間から3か月かかる場合があるそうです。
また、患者によって血種ができるスピードに差が大きいのも特徴。徐々にできたり、急にできたり、良くなったり、悪くなったりするので発見が遅れてしまうと間中先生が解説していました。
10日間の検査入院で若林さんに慢性硬膜下血腫の診断が出なかったのは、まだ血種ができていなかったからだそうです。
慢性硬膜下血腫を発症しやすい年代とその原因
慢性硬膜下血腫の患者数の8割は60歳以上。これは加齢による脳の萎縮が原因だそうです。
脳の神経細胞は生まれたときから数が増えることはないのですが、30歳を過ぎると1日10万個が死んでしまいます。若い人は脳とくも膜の間に隙間はありません。けれども、年齢を重ねると隙間ができてしまうそうです。そのため、60歳以上の場合、振り向いたり、うなずいたりするなどの日常生活の小さな動きでも、くも膜が傷ついて慢性硬膜下血腫を発症する場合があると間中先生が説明していました。
認知症と慢性硬膜下血腫の症状の違い
その症状や高齢者が発症することが多いことから、認知症や老化による物忘れと間違えやすい慢性硬膜下血腫。認知症と見分けるポイントが2つあります。
上山先生によると、認知症が急速に進むことがないそうです。突然自分のしていることが分からなったような場合は、慢性硬膜下血腫を疑ってほしいと話していました。
また、認知症で体の片側だけがマヒすることはないとのことです。体の片側だけがマヒしている場合は、脳の病気だと考えるべきだと秋津壽男先生(秋津医院 院長/内科)が解説していました。
脳の萎縮とアルコールの関係
加齢以外で脳を萎縮させるのはアルコール。アルコールは蓄積毒で男性は500kg、女性は200kgのアルコールを摂取すると脳に障害が起こると考えられているそうです。ワイン1本、日本酒の4合瓶1本には100gのアルコールが含まれています。この量のアルコールを毎日摂取した場合、男性は約14年、女性は約7年で障害が起こるとのことです。若いころにたくさんお酒を飲んだ人は、年を取ったら控えめにしたほうがよいと南雲吉則先生(ナグモクリニック 総院長/癌・乳腺外科・形成外科)が話していました。
また、アルコールを摂取してビタミンB12と葉酸が不足することが、脳の萎縮と関係しているそうです。ですから、お酒を飲むときに ビタミンB12と葉酸を多く含む魚介類をつまみにすると脳の萎縮を防ぐことができると姫野友美先生(ひめのともみクリニック 院長/心療内科)が説明していました。
アルコールの適量については以下の記事も併せて参照ください。
⇒アルコールの適量と病気のリスク
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脳の萎縮を調べる方法
脳の萎縮は、画像検査(MRI)で調べることができます。ただ、インプラントをしているなど体に金属が入っていると正確な画像が取れない場合があるので注意が必要とのことです。
(画像にノイズが入ってしまっている)
(画像が歪んでいるので正確な診断ができない)
慢性硬膜下血腫を早期発見するためのポイント
頭に大きなけや打撲をした場合、最初の検査では脳に異常がないことがあります。医師から、また1か月後に検診に来てくださいといわれていても、症状が出ていなければ検査を忘れてしまうことも。
慢性硬膜下血腫の症状が出るまでには時間がかかる場合があります。ですから、たとえ医師から2回目の検査のことを言わなくても、自分から最初の検査の1か月から2か月後に、再検査に行くようにと秋津先生が話していました。
大丈夫だと自己判断せずに、再検査を受けることが自分の命を守ることにつながるのですね。
自覚症状のないマヒを自宅で見つける簡単な方法
体のある部分がマヒしていると、その部分は全く動かないと考えている人は多いようです。けれども、軽いマヒであれば動かせると上山先生が説明していました。
番組では、「バレーアームサイン」という自覚症状のないマヒを自宅で見つける方法を紹介していました。
●バレーアームサインのやり方
2.手のひらを上にして目をつぶります。
3.そのままの状態を5秒間保ちます。
●診断方法
両腕を上げた状態を5秒間保つことができれば、マヒの心配はないそうです。
手が自然に回ったり下がったりした場合は、慢性硬膜下血腫のように脳に異常がある可能性が……。すぐに脳の専門医に相談してください。
目をつぶっていると、自分では手が動いていることに気がつきません。ですから、バレーアームサインをするときは、誰かに見てもらうようにしましょう。
くも膜下出血とは?
くも膜下出血は、脳の血管にできた脳動脈瘤(血管の中にできた風船のようなこぶ)が破裂して、漏れ出した血液が脳の組織を圧迫して破壊してしまう病気です。発症すると3人に1人が24時間以内に死亡。日本で1年間にくも膜下出血で死亡した人の数は1万2479人(平成25年厚生労働省のデータによる)でした。とくに、12月や1月といった寒い時期には死亡者が多くなるのです。
くも膜下出血は、男性よりも女性の患者が多いのも特徴。年間患者数は男性が約1万人に対して、女性が2万7000人(平成23年厚生労働省のデータによる)だったそうです。
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くも膜下出血の微小漏出とは?
今回番組で注目していたのは「くも膜下出血の微小漏出」。初期にはカゼや胃腸炎と間違えてしまうことも。けれども、放置しておくと死の危険が……。
くも膜下出血の初期症状は、バットで殴られたような激しい頭痛。そのまま意識を失ってしまうことも多くあります。けれども、微小漏出(ちび漏れ出血)の場合、脳動脈瘤からの出血が少ないため、激しい頭痛は感じない場合もあると間中先生が解説していました。
また、傷口が小さいので血は止まりやすいのですが、数時間後や数日後に再出血したときに、出血量が多く即死する可能性も。
くも膜下出血の微小漏出の症状
番組では、約2年前にくも膜下出血の微小漏出と診断された0さん(53歳女性)の体験をもとに、その症状を説明していました。
1.突然の頭痛
Oさんは、夜お風呂を掃除しているときに頭の上にガーンという痛みがきて、目の前が真っ暗になったそうです。けれども、すぐにズキンズキンという痛みに変化。風邪だと思い、頭痛薬を飲んで就寝。翌朝には頭痛は治っていました。
くも膜下出血の微小漏出の場合、頭痛に気がつかない場合もあるとのことです。
2.吐き気
最初の頭痛から3時間後、Oさんは吐き気を感じトイレで嘔吐。翌朝、頭痛は収まっていたけれども、まだ気持ちが悪かったのでカゼだと思い病院へ。胃腸炎と診断されました。
3.ろれつが回らない
最初の頭痛から14時間後。Oさんは、友人と電話で話しているときにろれつが回っていないことを指摘されました。けれども、自分では全く気づいていなかったそうです。心配した友人の勧めで、友人の知り合いの脳神経外科を受診し、くも膜下出血の微小漏出と診断されたそうです。Oさんは診察を受けたときには、すぐにでも命を落とすこともある危険な状態だした。
くも膜下出血を早期発見する方法
普段から頭痛に悩んでいる人は、痛みに強くなっていて、微小漏出による頭痛をくも膜下出血だとは気がつかない場合が多いそうです。また、吐き気などの症状から、カゼや胃腸炎だと思い込んで放置してしまうこともあると西原哲浩先生(西原クリニック 院長/内科・脳神経外科)が説明していました。
くも膜下出血を早期発見するためには、くも膜下出血の頭痛は突然始まるということを知っておくことだと間中先生はいいます。どんなに軽い頭痛でも突然発症するとのことです。また、頭痛が軽くても吐き気やしびれがある場合は、くも膜下出血の可能性があります。そのようなときは、すぐに病院へ行くことが重要だそうです。
頭痛はこわい―手遅れになる前に読む頭痛治療の指南書 (KAWADE夢新書)
間中 信也
まとめ
脳の病気は死の危険があったり、後遺症で自分の力では日常生活が送れなくなってしまったり。とくに、「慢性硬膜下血腫」や「くも膜下出血の微小漏出」は、他の病気と間違えて放置しておくと取り返しのつかないことになってしまいます。どちらの病気も初期症状をしっかり覚えておいて、もしもの場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。