暴飲暴食をしたときなどに胸やけになることがありますよね。
胸やけと言えばそういうイメージを持たれがちですが、実は、暴飲暴食をしなくても胸やけになることがあって、悪化していくこともあるのです。
さらに悪いことに、そのまま放置してしまうとがんの一歩手前まで進行することもあります。
今回は、身近なようでいて実はあまりよく知られていない胸やけについて詳しく紹介していた『チョイス@病気になったとき』を参考に、まとめていきたいと思います。
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胸やけの原因は…
胸やけは、(体の正面から見て)心臓の奥にある食道に異常が起きて生じます。
このことから欧米ではheart burn(心臓が焼ける)と呼ばれているそうです。
そんな胸やけに悩まされたSさん(67歳女性)は、6年ほど前から、喉のつかえなどの異常を感じるようになりました。
「ものを食べた時に飲み込みにくかった」そうで、市販の胃腸薬を飲んでも胸やけは治まらなかったそうです。
それでもSさんは「胸焼けってこんなもんだろう、くらいにしか考えていなかった」そうで病院には行きませんでしたが、1年も経つとほぼ毎晩胸やけに苦しめられるようになってしまいました。
「仰向けで寝て1時間半くらい経つと、ぐっと上がってくる。しょうがないから起きて、座った姿勢になってしばらくいる。10分〜20分くらいそうしていると治まるので寝るが、また同じことが繰り返される」
という状態だったそうで、仕方がないので背中に布団を斜めに置いて、半分座ったような姿勢で寝ていたそうです。
吐き気が出ることもありましたが、吐こうとしても出るものがなくて苦しみ、食欲も大幅に減退しました。
刺激物を食べると喉の奥に痛みを感じるようになったので更に食べられなくなり、体重は17キロも落ちてしまいました。
そうして、家事や外出をする気力も出ない日々が2年も続きました。
Sさんの治療に当たった国立国際医療研究センター病院の秋山純一氏は「逆流性食道炎」と診断を下しました。
逆流性食道炎は「胃の内容物が食道の方に逆流して、それによって胸焼けなどの症状を起こしたり、食道炎を起こしたりする病気」です。
食べ物は食道を通って胃に行き、胃酸で溶かされるのですが、食道に逆流することは通常ならほとんどありません。
それは食道と胃の境目に「噴門」と呼ばれるものがあるためで、それが普段はきゅっと閉まっていて逆流を防いでいます。
これが何らかの理由で閉まらなくなると胃酸が食道に逆流し、食道の壁を壊して炎症を引き起こします。
これが胸やけの正体です。
下図は正常な食道とSさんの食道を比較したものです。
チョイス@病気になったときより
Sさんの食道は白っぽくなったり、赤くただれて「びらん」が現れていたりします。
これが胃酸によって起きた炎症です。
びらん同士が横につながっていることから、重症の逆流性食道炎であることがわかります。
このときSさんは胸やけによる衰弱がひどく、「あと3年生きられるかな、と本当に思った」というほど大きな不安に苛まれていたそうです。
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逆流性食道炎の原因
Sさんが逆流性食道炎になった原因として可能性が高いのは「加齢」です。
食べ物を飲み込む際に噴門が自然に開いたり閉じたりするのは、噴門が括約(かつやく)筋、つまり筋肉であるためです。
これが加齢によって弱り、緩むのです。
年齢の他にも、逆流性食道炎のリスクを高めるものとして「食道裂孔(れっこう)ヘルニア」が挙げられます。
チョイス@病気になったときより
横隔膜(胸と腹の境目にある筋肉)には、食道が通るところに穴(食道裂孔)が空いています。
その辺りに噴門があるのですが、何らかの理由で噴門が上にずれると食道裂孔ヘルニアという状態になってしまいます。(ヘルニアというのは「ずれる」という意味です。)
本来、噴門の開閉は噴門の筋肉と横隔膜が連動して行われているそうですが、ヘルニアが生じるとその力が弱くなってしまい、逆流性食道炎のリスクが高まります。
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注意すべき習慣など
胃酸の逆流を促す習慣は以下の通りです。
・ 食べ過ぎ、早食い、炭酸飲料の飲み過ぎ
→ゲップにつながる
これらの行為は一緒に空気も飲み込むことになるので、ゲップが出やすくなってしまいます。その際に同時に胃酸が逆流しやすくなります。
炭酸については、弱酸であることやゲップしやすいことなどから、飲みすぎには注意が必要になります。
・ 脂肪やアルコールのとりすぎ、喫煙
→噴門をゆるめる
脂肪の多い食事は十二指腸に送られて消化をする際にあるホルモンが分泌されるそうで、このホルモンが噴門の筋肉に作用してゆるめてしまうそうです。
アルコールや喫煙にもその作用があるため、要注意です。
・ 肥満や猫背、ベルトなどによるお腹の締め付け
→腹圧が高まる
内蔵脂肪がたまったり猫背になったりすると、お腹が出てきます。その状態は腹圧が高まっている状態なので、ゲップが出やすくなってしまいます。
妊婦の人や重度の便秘の人も腹圧が高まるそうです。
・ 食べてすぐ寝る
食後は胃酸が出ています。胃の中に胃酸が溜まっている状態で横になると逆流しやすくなります。食後1〜2時間は横にならないようにしましょう。
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逆流性食道炎の症状
逆流性食道炎になると、様々な症状が出てきます。
チョイス@病気になったときより
「呑酸(どんさん)」というのは、胃酸が口の方まで逆流して酸っぱさを感じることです。
声のかすれは、胃酸によってのどで炎症が生じて起きます。
せきやぜんそくの悪化は、逆流したものが気管(肺の入口)に入った際に、それを出そうとして咳が出ます。
また、食道の中で逆流しているだけでも神経反射で気管支が収縮して咳が出てしまうことがあるそうです。
胸痛に至っては、狭心症などを疑うくらいの痛みが生じる人もいるそうで、誤認したまま心臓のカテーテルを入れてしまう人までいるとのことでした。
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重症の逆流性食道炎の改善
Sさんは医師から新薬を勧められました。プロトンポンプ阻害薬(PPI)のボノプラザンという薬です。
プロトンポンプは、胃の壁にある、胃酸を分泌するタンパク質の名前です。いわば“胃酸の蛇口”のような存在で、この働きを阻害するのがプロトンポンプ阻害薬です。
従来のプロトンポンプ阻害薬だと、まず酸によって活性化をする必要があったので効果が現れるまで数日かかっていたそうですが、ボノプラザンは活性化を待つ必要がなく、胃酸の分泌もより強く抑えることができるため、即効性が高いそうです。
Sさんは「飲んだその夜から何もなくて、翌朝まで寝られた。飲み始めてから1日も痛い日がない」と話していました。
Sさんの治療後の食道です。
チョイス@病気になったときより
半年で炎症が改善されました。
体重も元に戻り、散歩が日課になるほど回復しました。
従来の薬は重症の人には効果がありませんでしたが、新薬は効果があるそうです。(軽症の人には従来の薬が使われます。)
しかも、大きな副作用も報告されていないそうです。
とは言っても、どんな薬でも体質に合わない人はいますから、発疹が現れたり肝機能障害が起きたりする可能性もあり、飲み初めの頃は特に注意するべきです。
長期服用の例もないので、その注意も必要になります。
・その他の治療薬
チョイス@病気になったときより
はじめに試すのは「酸分泌抑制薬」で、これを1〜2ヶ月続けて効果が出ない場合は他の薬へ移ります。
「酸中和薬」は、逆流した時に酸を中和する目的の薬です。
「消化管運動機能改善薬」 は胃の働きが弱い人に処方される、胃腸の運動を良くする薬です。
逆流したものを胃に押し出す作用も期待されます。
秋山氏によるとH2ブロッカーなどの市販薬で症状が治まる人はそれでもいいそうですが、週に2〜3回以上症状が出るようであれば病院で内視鏡検査などを受ける必要があるとのことです。
逆流性食道炎には、治療をやめるとおよそ半数の人が半年以内に再発するという特徴があります。
また、薬で改善しない場合には「噴門形成術」という弱った噴門を補強する手術が選ばれることもあります。
※薬のリスク
プロトンポンプ阻害薬は、間質性腎炎や認知症など様々な疾患のリスクを上げるという報告も出ているそうです。
これらの研究は、対象を統計学的に選んでいないという問題があり、また、結果として発表されているリスクもタバコ程度であるということなので過度な心配はいらないようではありますが、不安であれば医師によく相談するようにするとよいでしょう。参考:プロトンポンプ阻害剤のリスク
命の危険も
Mさん(70歳女性)は、50代のときに逆流性食道炎になり、「バレット食道」という合併症を引き起こしてしましました。
下図はMさんの食道です。
チョイス@病気になったときより
赤い部分がバレット食道と呼ばれる状態です。
逆流性食道炎を放置したり再発を繰り返したりしているうちに、胃酸によって食道の粘膜が胃の粘膜に変化してしまいます。いわば胃の粘膜が食道にまで這い上がってしまった状態をバレット食道と呼びます。
一度バレット食道になってしまうと、自然に戻ることはありません。
これが3センチ以上になると、食道がんの一種である食道腺がんに変化するリスクが高まると考えられているそうです。
発覚後、Mさんは逆流性食道炎の治療を根気よく続けました。
プロトンポンプ阻害薬を服用して、今でも治療を継続しているそうです。
バレット食道になっているかどうかを知るには内視鏡検査を受ける必要があります。
逆流性食道炎の合併症には、食道の出血による貧血や吐血などもあるそうです。
さらに、炎症がずっと続くと食道狭窄(食道が細くなる症状)になることもあります。
あまりに進行すると流動食しか食べられなくなるという人もいるそうです。
新しいタイプの胸やけも
Sさん(51歳会社員女性)は、10年前から明け方に不快感で起床するようになってしまいました。
寝る際の体の向きを試行錯誤するなどの工夫をしましたが良くならず、比較的落ち着くのは上半身を起こしたときだけだったそうですが、それでも胸やけで早く目が覚めることはなくなりませんでした。
Sさんは暴飲暴食もせず人より食べない方なので、胸やけが起きるのが不思議だったそうです。
消化器内科を受診し、内視鏡検査で見てみても異変は見つかりませんでした。
それなのに逆流性食道炎と同じ症状が出ているSさんは「非びらん性逆流症(NERD)」という病気でした。
正常の範囲内の胃酸の逆流でも敏感に感じてしまうという、食道の過敏性が原因で起きる病気です。
近年患者数が増えていて、胸やけを感じる患者全体の半分ほどがこの病気だそうです。(比較的若い女性に多いという特徴もあるそうです。)
過敏になる原因はわかっていませんが、ストレスが原因と考えられています。
治療はプロトンポンプ阻害薬が主に使われますが、Sさんはプロトンポンプ阻害薬が効きませんでした。(非びらん性逆流症の患者は全体の5割ほどの人しか効果が出ないそうです。)
そのような患者には胃腸の働きを良くする漢方薬を併用したり、ストレスや緊張を軽減する抗不安薬を併用したりします。
それでもよくならなかった場合は「PHモニタリング」という、逆流がどの程度起こっていて、どの時間によく出るかなどを調べる検査を受けて、次の治療法を見極めるということをするそうです。
主に入院して行う検査で、検査機器は携帯できるようになっており、食事もとれるそうですが入浴はできません。
非びらん性逆流症も逆流性食道炎と同じように生活習慣の見直しが重要になってくるそうです。
その他の胸やけの原因
・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
頭痛薬や風邪薬に使用されている物質も、胸やけを引き起こすことがあるそうです。
・胃で生じるその他の病気
胃潰瘍や十二指腸潰瘍、慢性胃炎、胃がんなどの胃の病気で、胸やけを感じることもあります。
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まとめ
秋山氏は「胸やけが起きる頻度が増えるとか、症状がひどくなってくるということがあれば、たかが胸やけ、とならずに病院の受診を」と指摘していました。
たしかに、胸やけは身近な症状であるだけに軽視してしまいがちだと思います。
今回ご紹介したように、胸やけを放置すると大変なことになる場合もあるので、油断せずに病院に行くようにしましょう。