睡眠負債と改善策~がんや認知症につながる寝不足~NHKスペシャルより

「睡眠負債」 という言葉を聞いたことがありますか?
睡眠不足が積み重なっていくと日常生活で認知能力が低下するだけでなく、がん細胞を増殖させることや認知症のリスクを高めることもあるということがわかってきたといいます。
今回は、睡眠負債に関する情報や、睡眠負債を返済する方法を解説していた『NHKスペシャル』をもとに、情報をまとめていきたいと思います。

 

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あなたの睡眠負債は?

以下の項目のなかに、当てはまるものはありませんか?

・ 仕事でミスを連発する
・ 家事に意外と時間がかかってしまう
・ 休日に長めに寝てしまう

当てはまる項目がある人は、睡眠負債を抱えているかもしれません。

番組では、20〜70歳代の健康に自信のある男女を対象に、催眠負債の実態を調査していました。
調査前、参加者は
「そんなに(睡眠時間が)足りないという意識はない」
「(睡眠不足は)ないと思っている。むしろ貯金があるのでは」
などと話し、睡眠不足の意識がないようでした。

調査は週末(木・金・土)に2泊3日で行います。
1日目(木曜日)はいつも通りに過ごし、ホテルの環境に慣れてもらいます。そして、普段と同じ時間に就寝します。
翌朝(金曜日)も各自、いつも通りに出勤します。
この間に、すべての部屋の窓に目張りをし、時計を隠します。時間を意識せず、思う存分眠れる環境をつくるのです。この環境で普段よりも睡眠時間が大幅に伸びた人は、睡眠負債があると判断できます。
この調査の監修は国立精神・神経医療研究センターの北村真吾氏が担当していました。この方法で睡眠負債の研究をしているそうです。
金曜日の夜には、時計やスマートフォンを回収し、テレビも見られなくなるので、時間を確認することができません。

そして3日目(土曜日)の朝、目覚まし無しで参加者がいつまで寝るかを見ます。
普段7時間半睡眠をとる人で8時間寝ていた人がいましたが、このレベルですと睡眠負債はないと判断されます。
しかし、普段5時間半の人で8時間寝た、という人もいました。プラス2時間半も寝ているようだと、睡眠負債を抱えていると判断されます。
30人を調査した結果…


(グラフ内の時間は増加時間を示しています。)

NHKスペシャルより

2時間以上睡眠時間が増えてしまった人は、睡眠負債のリスクが非常に高いと判断されます。今回の調査では60%近い人がそれに該当していました。

 

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がんや認知症との関係

睡眠負債が高める疾病には、以下のようなものがあります。

・がん
アメリカのシカゴ大学の研究で、がんを移植したマウスの睡眠を妨害して4週間経過を見たところ、がんが巨大化(平均で2倍以上に肥大)したそうです。免疫細胞の異常が引き起こされたと考えられています。
通常、体内にがん細胞ができても免疫細胞が攻撃しておさえみます。しかし睡眠負債がたまっている状態だと免疫細胞の働きが低下して、がん細胞がじわじわと増殖してしまいます。
デービット・ゴザル教授は「私たちの体内では免疫細胞がまるで“良い警官”のようにがん細胞を絶えず見張っている。しかし、睡眠負債をためているとその警官たちは眠ってしまう。そうなるとがんは暴れだし、増殖してしまう」と話していました。

専門家の井上雄一氏によると、東北大学が行った男女2万人を1年間にわたって追跡した調査によれば、睡眠時間7時間以上群と6時間以下群を比較した結果…

NHKスペシャルより

睡眠時間が短いほうが、男性では前立腺がんの発症が1.38倍になり、女性では乳がんの発症が1.67倍になることがわかったそうです。
他のがんについてはまだわかっていない部分も多いですが、糖尿病やメタボリック症候群、脳血管障害、心筋梗塞なども、睡眠負債が高いほど発症率が2〜3倍になることがほぼ明らかになっているそうです。

・認知症
認知症の多くを占めるアルツハイマー病は、脳にアミロイドβという老廃物が蓄積することで引き起こされると考えられています。これによって神経細胞が傷つけられて脳の働きが衰えるのです。アメリカのスタンフォード大学の睡眠生体リズム研究所で責任者を務める西野精治氏によると、睡眠を3週間制限し続けたマウスと制限しなかったマウスの脳を比較したところ…


(黒い点がアミロイドβ)

NHKスペシャルより

睡眠を制限したマウスではアミロイドβが大量に増えていることがわかりました。
健康な脳でも日中の活動によってアミロイドβが発生しますが、眠っている間に脳から排出されています。しかし、睡眠時間が十分でないと排出しきれないので、少しずつ蓄積されていってしまい、認知症のリスクが高まってしまうのです。
西野氏は「以前、睡眠は単なる休息状態と考えられていた。それ以外の役割がわかってきたのは最近で、特に免疫に関することとか、老廃物の除去が強調されたのは最近。これから、いろんな疾患でいろんなエビデンスが出てくると思われる」と話していました。

番組で解説を担当していた白川修一郎氏によると、「アミロイドβは認知症発症の2〜30年前から脳内の蓄積が始まっている。働き盛りの年代から。この時から蓄積には気をつけるべき」と、警鐘を鳴らしていました。
フィンランドで2000人を対象にした調査では、睡眠時間7〜8時間の人に比べて7時間未満の人は認知症のリスクが1.59倍になることがわかったそうです。
ちなみに、睡眠時間は長すぎてもダメだそうで、7〜8時間が適切な時間だそうです。

病気にはならなくても…

睡眠負債がたまると、日常生活の中でも例えば運転中のミスなどが起きやすくなります。
睡眠負債の脳への影響を研究している、ワシントン州立大学のハンス・ヴァン・ドンゲン氏が一般男女48人を対象に、睡眠時間と注意力・集中力の関係を観察しました。
モニタに数字が表示されたら素早くボタンを押して、その反応速度から注意力・集中力をみる実験を、徹夜するグループと6時間睡眠をとるグループにわけて比較しました。

NHKスペシャルより

徹夜群は3日で反応速度が急激に低下し、強い眠気を感じるようになりました。
一方の6時間睡眠群は、開始後2日はほとんど変化がありませんでしたが、その後反応速度は徐々に低下していき、2週間後には2晩徹夜するのとほぼ同じレベルにまで注意力や集中力が低下してしまいました。それにも関わらず、被験者たちは眠気をほとんど感じず、注意力が低下しているという自覚がなかったそうです。
氏は「みなさん6時間も寝れば問題ない問題ないと思っているでしょうが、もし車を運転する時にこれほど注意力が低下していたら事故につながりかねない」と指摘していました。

番組で解説を担当していた岡島義氏は、「眠気は短い睡眠でも解消できるが、体の疲れやストレスが溜まってしまうと解消できなくなってしまう」と話していました。
同じく解説を担当していた駒田陽子氏は「(睡眠の)質も大事だが、長さ、量が足りていないと様々な問題が起きるということがわかっている。質が良いから短くてよいというのは間違っている」と指摘し、短時間睡眠の危険性を指摘していました。
また、白川氏によると「睡眠時間は基本的に7時間前後(7〜8時間)が適切。年令や性別、日中にどれだけ活動しているかによっても変わるが、この時間がもっとも健康被害が少なくて、死亡率が下がる。睡眠時間が5時間をきると、いろんな危険性が増してくる」と話していました。

自分が睡眠負債を抱えているかどうかをチェックする

最近1ヶ月のことを思い浮かべて、以下の設問に回答してみてください。
カッコ内の数字を加算していって出た点数で、睡眠負債のリスクが判断できます。

 

・寝付きは?(布団に入ってから寝るまでに必要な時間)
寝付きが良い(0)、少し時間がかかる(1)、かなり時間がかかる(2)、非常に時間がかかる(3)

・夜中、睡眠途中に目がさめることは?
問題ない(0)、少し困る(1)、かなり困る(2)、深刻な状態(3)

・希望する起床時刻より早く目覚め、それ以上眠れないことは?
ない(0)、少し早い(1)、かなり早い(2)、非常に早い(3)

・総睡眠時間は?
十分(0)、少し不足(1)、かなり不足(2)、全く不足(3)

・全体的な睡眠の質は?
満足(0)、少し不満(1)、かなり不満(2)、非常に不満(3)

・日中の気分は?
いつも通り(0)、少し滅入る(1)、かなり滅入った(2)、非常に滅入った(3)

・日中の活動はどうだった?(身体的及び精神的)
いつも通り(0)、少し低下(1)、かなり低下(2)、非常に低下(3)

・日中の眠気は?
全くない(0)、少しある(1)、かなりある(2)、激しい(3)

 

10点以上になった人は睡眠負債のリスクが非常に高く、6〜9点はリスクが中程度、5点以下はリスクが低いとされているそうです。

 

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視聴者からの質問

 

・年齢とともに寝付きが悪くなった(睡眠時間は6時間ほど)。睡眠負債はたまる?
岡島氏によると「高齢になると睡眠時間は短くなる。必ずしも7〜8時間必要というわけではない」といいます。ただし前述の通り5時間は切らないほうがいいということだそうです。

 

 

・睡眠負債の一括返済や寝だめはできる?
寝だめはできません。むしろ、睡眠をとるために朝寝坊してしまうと、リズムが悪くなってかえって調子が悪くなってしまうそうです。睡眠負債を一気に返そうとすると、体内時計が狂ってしまうなどの弊害が出るということです。
解決法として「寝る時間を1時間早くして起きる時間を1時間遅くすれば、あまりリズムを崩さずに2時間余分に眠れる」と提案していました。

 

 

・毎日家事や育児に忙しく、睡眠時間は5〜6時間程度。昼寝で返済できる?
昼寝で負債を返しきるのは難しいそうです。
やはり夜の睡眠が大事であるようです。

 

 

・子どもにも睡眠負債はある?
子どもの睡眠負債は深刻だそうです。
必要な睡眠時間は、幼児が10時間、小学生9時間、中高生は8時間とされています。これを下回ると落ち着きがないなどの問題行動も増えるそうです。

 

 

・寝酒の適量は?
寝るためのお酒は絶対にやめたほうが良いそうです。アルコールには興奮作用があって眠りを浅くしてしまうそうです。飲酒は寝る4時間前までに済ませるようにしましょう。

 

昼寝の効果

昼寝は、睡眠負債を返済する目的では有効ではないとのことでしたが、その他の効果はあるようです。
例えば…

・夜の睡眠の質を高める
高齢者を対象にした日本の研究によると、30分間の昼寝は中程度の運動と同程度に夜の睡眠の質を高めて、日中のだるさを軽減することが明らかになったそうです。
ちなみに医学博士で日本睡眠学会認定医の白濱龍太郎氏によると、昼寝に適した時間は20分程度だそうです。

・免疫系が活性化する
フランスのソルボンヌ大学の研究によると、短い昼寝でストレスは低下し、免疫系が活性化するといわれているそうです。

 

昼寝を適度に取るコツ

・昼寝の前にコーヒーを飲む
カフェインが効き出すのが約30分後からなので、昼寝の前に飲んでおくことで20分を超えて眠ってしまうことを避けられるそうです。
他にも「耳栓をする」や「横にはならないで眠る」などを意識して昼寝をするようにすれば、良質な昼寝をとることができるようです。

 

参考:
午後のパフォーマンスは昼寝で決まる!
サラバ眠気! 「5種の仮眠法」の使い分けと眠り方のコツ

 

睡眠負債返済の効果

番組では、バスケットボール選手11人を対象にした調査が紹介されていました。
もともと選手たちの平均睡眠時間は6時間半で、みなこれで十分だと考えていたそうですが、これを8時間半に増やすようにして1ヶ月間続けたところ、スリーポイントシュートの成功率が68%から77%に上がり、86mダッシュのタイムも16.2秒から15.5秒に改善したそうです。

今回番組で行った実験の参加者も、毎日の睡眠時間を1時間増やしてみる試みを行いました。
計算テストと握力テストを行ったところ、1週間後には11人全員成績がアップしていました。握力検査では左右ともに1キロ弱増えていました。
睡眠時間を確保することで、本来の力を発揮できるようになるのです。

 

寝付きを良くする具体的な方法

・ベッドでのスマホは厳禁
今回の調査で睡眠負債が発覚したKさんは社会人2年目で、朝なかなか起きられない日々が続いていました。
Kさんの問題はベッドにいながらスマホを見ていることでした。
人間の脳内では夜、松果体という部分からメラトニンが分泌されています。この血中濃度が高くなると眠くなるのですが、スマホを見ているとこの分泌が抑制されてしまいます。感情が動くと、脳の視床下部からメラトニンを抑制する司令が出されるためです。
Kさんはスマホをベッドに持ち込まないようにして、効果を実感しているそうです。

・上を向いて歩く
夜更かしを続けると体内時計がずれてメラトニンの分泌も遅くなってしまいます。仕事がありますから起きる時間は変えられないので睡眠時間が短くなり、睡眠負債につながります。
ハーバード大学の研究によれば、15秒間強い光を見るだけで体内時計がリセットできるといいます。朝の太陽を見ることで視交叉上核が刺激され、体内時計が整うのです。
さらに、規則的に食事を摂ることや、夕方に運動をすることもいいそうです。夕方は体温が一番高いので1日を通しての体温にメリハリがつく、と紹介されていました。

一方で、寝る3時間前くらいからカフェインは飲まない方がいいとも指摘されていました。
夜の強い光も厳禁です。スマホは寝る30分前までにしましょう。寝付きが悪くなるだけでなく、電気をつけたまま寝ると眠りが浅くなるので、タイマーで切れるようにしておくようにするべきです。

ちなみに、バス移動などでの眠りは浅いので、夜の眠りと一緒にすることはできないそうですから、注意しましょう。

睡眠時間を確保するために

ある会社が今回の調査に参加し、社員11人中7人に睡眠負債を抱えているリスクがあると発覚しました。
社長は「会社の効率を上げることにもなる」と考え、社員たちに1日のスケジュールを提出させました。

NHKスペシャルより

ある方の時間の使い方を見てみると、始業時間前の1時間に空白の時間がありました。通勤ラッシュを避けるために会社近くで時間を潰していたそうです。
勤務を前倒ししてその分早く退社して睡眠に当てるようにしたところ、睡眠時間が増えて仕事効率も上がったそうです。

政府の「働き方改革」でも「勤務間インターバル」というものが、重要な課題として挙げられています。勤務間インターバルというのは、残業などで勤務が伸びた場合に次の勤務開始まで十分な休養がとれるように翌日の始業時間を繰り下げるという仕組みです。
ある調査によると、日本人の睡眠時間の短さが年間15兆円以上の経済損失を生んでいるそうですから、このような取り組みを全国に広める必要があるでしょう。

 

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まとめ

6時間睡眠を続けることによる認知能力の低下に自分で気づいていないというのは怖いことだと思いました。
今回ご紹介した情報を参考に、実現可能な範囲で生活を見直し、7〜8時間の睡眠時間を確保できるようにしましょう。


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