家族の誰かが認知症になってしまったとき、多くの人は戸惑ってしまいます。
先日の『きょうの健康』に登場した日本認知症ケア学会理事長の今井幸充氏は「今の認知症の医療では認知症を治すことはできない。(認知症の)進行に伴って、一人で生活することは難しくなる」と話し、そんな状況の中で家族が抱えることになる介護の不安や負担の対処法を、広く知らしめる必要性を強調していました。
そこで今回は、家族が認知症になってしまった場合の考え方やとるべき行動について、当番組を中心に情報をまとめていきたいと思います。
スポンサーリンク
認知症について
認知症にはいくつかのタイプがあります。
・ アルツハイマー型認知症
・ 脳卒中による認知症
・ レビー小体型認知症
・ 前頭側頭型認知症
いずれも「脳の機能の一部が低下することで発症する」という共通点はありますが、一口に「認知症」と言ってもそのタイプによって症状の現れ方や進行の仕方、処方される薬、よりよく生活するための患者への接し方などが全て違ってきます。
おおむね、初期には以下のような症状が現れます。
・ もの忘れ
・ 物事が段取りよくできない
また、タイプによっては、
・ 幻覚を見る
・ 気ままな行動を取る
などの症状が出ることもあります。
さらに進行していくと…
・ 意欲の低下・活動の減少
・ 言いたいことが言えない、人の言うことが理解できない
・ 着替えや入浴などの日常の動作ができなくなる
などの症状が出てきます。
さらに、心理症状として「抑うつ」や「物盗られ妄想」(財布を盗まれたと考えるなど)が、行動症状として「暴言」や「暴力」などの症状が出てくる場合もあります。
介護をする家族の身体的・心理的負担はとても大きなものとなり、多くの人が以下のような悩みを抱えているそうです。
・ この先どうなるかがわからず心配…
・ 介護のため自分の時間が作れない…
・ 妄想や暴言が手に負えない…
番組では、これらの悩みへの対処法を一つずつ紹介していました。
スポンサーリンク
この先どうなるかがわからず心配…
→認知症専門医や認知症サポート医に相談する。
今井氏は「早めにかかりつけ医に相談して」とアドバイスしていました。
「(かかりつけ医の)専門が違う場合は認知症専門医や地域のサポート医を紹介してもらう。その上で、家族の認知症がどのタイプなのか、今後どう治療していくかなどの説明を受けるのが必要」と話していました。
厚生労働省の事業である「認知症サポート医養成研修」を受けた医師のことです。かかりつけ医へのアドバイスや、地域の医師会・包括支援センターとの連携づくりなどの役割を果たしています。
認知症サポート医がどこの病院にいるかわからない場合は、認定医を養成している「日本老年精神医学会」・「日本認知症学会」のホームページで調べてみてください。
認知症サポート医に関しては、地域の医師会に問い合わせても教えてもらえるそうです。
介護のため自分の時間が作れない…
→ショートステイなどを利用し、介護をシェアする。
認知症の人を一人で介護することには限界があります。
今井氏は「人によって介護の上手下手もあるので、うまくできないことは介護士に任せて、家族でできることは自分でするという考え方で」とアドバイスしていました。
介護保険サービス利用の流れ
まず、在住する市区町村の地域包括支援センターに利用を申請します。
その後、かかりつけ医による意見書や市区町村による介護認定調査をもとに「要介護・要支援」の認定を受けると、担当のケアマネジャーが決定します。ケアマネジャーが介護を受けている人と家族の介護状況を把握した上で、どのようなサービスが必要であるかなどを判断して「ケアプラン」を作成し、サービスが利用できるようになります。
主な介護保険サービスは以下の通りです。
・ デイサービス・デイケア…自宅から施設に通う。
・ ショートステイ…施設に短期間宿泊する。
・ ヘルパー、訪問看護、リハビリ…介護士に自宅に来てもらってサービスを受ける。
・ グループホーム、特別養護老人ホーム…施設に入所して生活する。
介護保険サービスについて
その人にはどのような介護サービスが必要であるかを認定する目的で、まず「要支援1〜2、要介護1〜5」の7区分の中でその人がどこに該当するかを決めます。(数字が大きいほど、より厚い介護が必要である状態と認定されたことになります。)
「要支援」は、生活機能が低下しているが改善の可能性が高いと見込まれる状態であるという認定なので、身体機能の維持や高齢化を緩やかにすることを目指す支援内容になります。
「要介護」は、すでに介護サービスが必要であるという状態なので、その症状の進行度に応じて自宅や施設で介護サービスを受けることができます。
サービス料の負担割合は基本的に1割で、地域によって多少の増減があります。(一定以上の所得がある場合は2割負担になります。)
前述の通り、まずは在住する市区町村の地域包括支援センターに利用を申請することから始まり、次にかかりつけ医などから介護認定調査を受ける、という流れになっていますので、必要性に迷っている方や利用料が気になる方などは市区町村の担当窓口に問い合わせてみましょう。
参考:
介護保険まるわかり
よくわかる介護保険と利用料金
介護保険サービスの自己負担分
妄想や暴言が手に負えない…
→行動には理由がある。その理解が対策のカギ。
妄想や暴言について、今井氏は「困った行動の裏には、本人が感じている不安や納得いかないという思いがあり、妄想などが起こる。家族がそれを理解して、原因を取り除いてあげれば安心でき、家族に対しても信頼が生まれる」と解説していました。
具体的には、以下のように対応するとよいそうです。
・「物盗られ妄想」
多くの場合は自分で財布をしまったのにそれを忘れてしまい、目の前にいる誰かが盗んだのだと考えて妄想が起こります。
家族としては犯人扱いをされてつらいところですが、言い返したりするのではなく「一緒に探そう」というスタンスで接することが重要だそうです。
見つかったときも家族が「あった」と財布を示すのではなく、本人が見つけるように誘導するようにします。(家族が見つけてしまうと「やはり盗んで隠していたのか」という妄想が展開されてしまうことも多いといいますから、注意が必要です。)
きょうの健康より
そして「見つかってよかったね」という風に話し、その場で一緒にお茶を飲んで、別の話題に移るなどするとよいそうです。
・「暴言」
暴言は、家族の立場でもその背景を掴みづらいので対応も難しいのですが、暴言の背景には基本的に不安があります。「自分がこんなに苦しんでいるのに家族はわかってくれない」などの思いがあることが多いそうです。
暴言を受けても一緒になって興奮したり喧嘩したりせずにそっと見守って、「トイレに行く」などと行って距離を置くようにしましょう。帰ってきたら他の話題を振ってあげるなどするとよいそうです。
今井氏によると、そっとハグをしてあげることで暴言がおさまると人もいるそうですから、参考にしてみてください。
まとめ
最後に今井氏は「良い介護に決まりはない」を話していました。
性格もコミュニケーションのとり方も十人十色なので、介護に関する様々な情報を参考にしつつも、「自分にとってどうするのが一番楽で、認知症になってしまった本人が一番気持ちよく受け入れられるか」を、経験を積んでいきながら探していくというスタンスが重要になるようです。
とは言え、家族が体を壊したり仕事を失ったりしてしまってはいけませんから、無理のない範囲で介護を行い、出来ないことはプロに任せるという「介護をシェアする」考え方をベースに、介護と向き合っていきましょう。