健康診断の検査項目はどれも重要ですが、血液検査でわかる「コレステロール」の数値は特に気になるという方も多いと思います。
コレステロール値の異常は心筋梗塞や脳梗塞などのリスクを高めますが、2万人以上のコレステロール値を調べたある調査では、心筋梗塞を発症した人の49%が健康診断の際にはLDLコレステロール値が正常値だったことがわかったそうです。
さらに、コレステロール値には注目すべき“第三のコレステロール”があることもわかってきました。
今回は、コレステロールに関する最新情報を紹介していた『ガッテン!』を中心に、コレステロールと健康の関係について情報をまとめていきたいと思います。
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健康診断の検査表
検査項目には「HDLコレステロール」と「LDLコレステロール」がありますが、前者がいわゆる善玉コレステロール、後者がいわゆる悪玉コレステロールです。
コレステロールは細胞膜をつくる材料として体中の細胞に存在しています。健康診断の検査表にコレステロールの適正値があることからもわかるように、体には欠かせない物質なのです。(コレステロールの体内での働きについては後述します。)
細胞の中のコレステロールは次第に劣化していくため、劣化したものは血管から回収され、肝臓から運ばれてきた新しいコレステロールが入れ替わりで補充されます。(細胞の中で劣化して流されていくコレステロールが「HDL(善玉)」、肝臓から新しく運ばれてくるコレステロールが「LDL(悪玉)」です。)
このサイクルが正常に回っていれば問題ありませんが、食生活の乱れなどによって新しいコレステロール(=悪玉コレステロール)が過剰になってしまうと、血液中にコレステロールが余ってしまいます。余ったコレステロールは「マクロファージ(体の中を掃除する白血球の一種)」が掃除してくれるのですが、コレステロールを食べすぎると血液中で死んでしまいます。その死骸が血管の壁に蓄積するとプラークになり、血管を細くしてしまうため、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが上がってしまうのです。
コレステロールには「太る原因となる物質」、「体に悪いもの」というようなイメージもありますが、体の中で大事な働きをしています。
それを知ると今回の特集への理解が深まりますので、コレステロールの働きや性質についてご紹介いたします。
・体内のコレステロールの大部分は体内で合成されたもの
食事から摂るコレステロール量は1日約0.3~0.5gなのに対し、主に肝臓で合成されるコレステロール量は1日約1~1.5gと約3倍もあります。
・胆汁酸の産生を助ける
胆汁は食事でとった脂質を消化するのに必要な物質です。
・脂溶性ビタミンの代謝に必須
脂溶性ビタミン…ビタミンA、D、E、K
・シグナル伝達に関与
脳などの神経系に体内のコレステロール全量の1/3が存在しています。
学習能力などの脳機能の発達には、神経細胞内におけるコレステロール合成の促進が欠かせないこともわかっているそうです。
以上のように、食事の消化から思考、体組織の存在そのものまで、コレステロールによって支えられています。
参考:
http://www.jmi.or.jp/qanda/bunrui3/q_045.html
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2007/pr20070613_2/pr20070613_2.html
検査表
検査表の項目にある「総コレステロール値」はHDLコレステロールとLDLコレステロールの合計値ではありません。ほとんどの人は合計値よりも総コレステロール値の方が大きくなっており、その差異の部分に今回特集する“第三のコレステロール”があります。
これを明らかにしたのは群馬大学医学部研究員の中嶋克行氏です。差異の部分の「善玉でも悪玉でもないコレステロール」はそれまで誰も取り出すことができなかったのですが、1993年に抽出に成功し、論文を発表しました。それらの功績から2011年にはザック賞(コレステロールの測定法を確立し広く普及させたベニー・ザック博士の名をとった賞)を日本人で初めて受賞しました。
“第三のコレステロール”を抽出するには、まず血液を遠心分離機にかけて、赤いどろどろの部分と黄色い部分に分離させる必要があります。
ガッテン!より
コレステロールが含まれている黄色い部分に、中嶋氏が開発した薬剤を加えて2時間ほど機械でかき混ぜると、さらに2層に分離します。
その上澄みの部分が、第三のコレステロールである「レムナントコレステロール」です。(「レムナント」というのは残り物という意味です。)
ガッテン!より
レムナントコレステロールとは
レムナントコレステロールは、食べ物から吸収されたコレステロールの過剰な分がそのまま血液中に漂ってしまっているもののことです。
レムナントコレステロールを研究している、カーティン大学(オーストラリア)のジョン・マモ教授は、生まれつき動脈硬化になるうさぎを用いた研究の結果、「どういったコレステロールが動脈硬化の原因となるのかを突き止めるその研究で、驚くべき結果を得た」と話していました。
下図は、動脈硬化を起こしたうさぎの血管の画像です。
ガッテン!より
黄色い部分はコレステロールが固まっていることを示しており、その中でも特に赤い部分は悪玉コレステロールが血管壁にたまっていることを示しています。
意外にも、赤い部分は全体の30%ほどだったそうで、残りの70%以上の黄色い部分がレムナントコレステロールだったというのです。この結果からマモ氏は「レムナントコレステロールが動脈硬化の主な原因であることが明らかになった」と解説していました。
番組では、マクロファージにレムナントコレステロールと悪玉コレステロールを与えて、どちらのコレステロールをより多く取り込むかを見る実験を行っていました。
取り込んだコレステロールを赤く染色すると…
ガッテン!より
レムナントコレステロールの方をより多く取り込んでいることがわかりました。
その量をグラフにすると…
ガッテン!より
レムナントコレステロールの方を4倍も多く取り込んでいました。
レムナントコレステロールはいわば“極悪玉”コレステロールなのです。
このような事実から、極悪玉と悪玉のコレステロール値を足した数値(あるいは総コレステロール値から善玉コレステロール値を引いた数値)には基準値が設けられています。
・ 150以上…やや危険
・ 170以上…危険
検査表に「総コレステロール値」が書かれていない場合は、LDLコレステロールに30を加えた数値を合計値とみなして見てみてください。
番組では、総コレステロール・善玉・悪玉の検査値がすべて正常値である40〜70代の男女60人を集めて、「悪玉+極悪玉」の値を見る調査を行いました。その結果、8人が基準値である150を超えていることがわかりました。基準値を超えていた男性は「検査結果が全部Aだったので安心していたけど、まさか私が…」とショックを受けていた様子で、別の72歳男性は首の血管をエコーで見たところ血管の壁にプラークと呼ばれるコブが見つかっていました。
これほど重要な基準値が、検査表に表記されていないのは何故でしょうか?
大阪大学医学部特任助教の増田大作氏によると、「レムナントコレステロールの測定には時間とコストがかかるため健康診断では測りにくい」のだそうです。
ただ、極悪玉コレステロール値(正式には「non-HDLコレステロール値」)は先述のように計算でおおよその値を出すことができることが「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017」に示されるようになったそうです。non-HDLコレステロール値を見ることは悪玉の値だけを見るよりも「動脈硬化性疾患の発症予測能が優れている」と記述されており、注目されているといいます。
レムナントコレステロールは食事のとりすぎによって上がる可能性があります。増田氏によると「お肉を避けて魚を摂ったり運動をして適正な体重をキープしたりすることで、レムナントコレステロールは下げられると考えられる」といいます。これらは悪玉コレステロール値を上げすぎないようにする方法と同じような対処法となるので、検査表で基準値を超えているような方は生活を見直してみてください。
検査表の見方について、東北大学の黒澤一氏は「たとえば5年分くらいの数値を並べて見れば、LDLが100→105→120と上がっていくのがわかる」と指摘していました。以前の数値と見比べて、その変化を見るのが重要なのだそうです。
肥満気味の人や中性脂肪が高い人、糖尿病の人はnon-HDLコレステロール値が上がる傾向にあるそうですから注意しましょう。
レムナントコレステロール値対策
食べ過ぎはレムナントコレステロールを増やす大きな原因になります。
特に、肉に含まれる飽和脂肪酸には注意が必要です。増田氏が「肉よりも魚を」と指摘したのはこの飽和脂肪酸も理由の一つですが、青魚に含まれるEPAに総悪玉コレステロール値(悪玉+極悪玉)を下げる作用があるためです。EPAは加熱すると少し減ってしまうので、刺し身で摂るのがベストです。
また、食物繊維にはコレステロールの吸収を抑える作用があるため、大豆類や野菜も積極的に食事に取り入れるようにしましょう。
先ほどの調査でnon-HDLコレステロール値が基準値を超えていた3人が、魚中心の食生活に変えると2週間後にどのような変化が生じるかを試してみると…
ガッテン!より
全員が正常値の範囲まで下がりました。
参加した男性は「魚は種類があり、料理もいろいろとあるので食べやすい」と話していました。
HDL(善玉)コレステロールを増やすことも大切になります。
たとえば駅伝の選手の多くはHDLコレステロール値が高いのですが、HDLコレステロールを増やすためには激しい運動よりも、息が軽く弾む程度の有酸素運動が有効です。30分の有酸素運動を週3回続ければ十分だそうです。
まとめ
「コレステロール」と一口に言っても様々なものがあり、注意しなければならない新しい数値もある、ということが大きな発見でした。
数値について考えてしまうと少し複雑に感じてしまいますが、対策は「食事」と「運動」というシンプルなものですから、数値に問題がある方は生活を見直すようにしてみてください。