認知症や脳卒中を予防するビタミンM(葉酸)~ガッテン!より

現在、先進国を中心に世界中で、認知症に関する研究が進んでいます。

脳が少しずつ縮んでゆくことで発症する認知症は、たとえば「毎日の十分な睡眠」や「有酸素運動」などが予防に有効であることがわかっていますが、さらに近年、“ある物質”が認知症予防に有効であることも新たにわかってきたそうです。

ノルウェーとイギリスの研究者が共同で、軽度認知障害の高齢者156人を対象に2年間の追跡調査を行いました。下図の黄色い部分は、対象者の脳が萎縮してしまった部分の平均を示しています。

ガッテン!より

このように、認知障害が出ていると通常なら萎縮していくのですが、ペンシルベニア州立大学教授のキャサリン・ロス氏(専門は栄養学)の研究から明らかになった、萎縮を予防する“ある物質”を毎日摂取すると…

ガッテン!より

萎縮が抑えられることがわかります。

今回は、その物質と認知症などの関係について特集していた『ガッテン』を中心に、情報をまとめていきたいと思います。

 

スポンサーリンク

 

ある物質とは…

認知症を予防する物質はロス氏の研究により明らかになりましたが、東京都に住む18歳の高専生Hさん(男性)も、彼の趣味の中で偶然にその物質の特徴を発見していたそうです。

子供の頃からオタマジャクシを集めて育てていたHさんは、オタマジャクシをカエルに成長させるために試行錯誤を繰り返しました。エサにも工夫をこらし、あるとき、エサにシラスを与える群とほうれん草を与える群に分けて成長を見比べてみたところ、生育に差が出ることを見つけました。1ヶ月後、ほうれん草群の方は6匹がカエルになりましたが、シラス群は3匹しかカエルになっていなかったそうです。

Hさんはこのことから、「ほうれん草に含まれる葉酸が関係あるのかもしれない」と考え、葉酸が豊富に含まれている鳥のレバーをエサとして与えてみたそうです。すると、オタマジャクシはみるみるうちに成長し、通常より5日も早くカエルになったといいます。

葉酸は太陽を受けた植物が光合成によって作り出す栄養素で、生き物の細胞分裂を促すことがわかっています。DNAをつくる時に欠かせない物質でもあるので、特に妊娠中の女性はしっかりと摂取する必要のある物質として知られています。(2000年頃から母子手帳で葉酸の摂取が勧められるようになったそうです。)

 

スポンサーリンク

 

葉酸と認知症の関係

葉酸が細胞分裂を促す働きは昔から知られていましたが、近年、認知症予防への有効性も明らかになりつつあります。
アルツハイマーは、肝臓の中で発生する「ホモシステイン」という物質が脳まで行き、そこで活性酸素を発生させて脳の細胞を死滅させることで引き起こされると考えられていますが、葉酸はこのホモシステインの働きを抑制するというのです。

ホモシステインは、肉や魚などのタンパク質をもとにして作られます。タンパク質を摂取すると胃腸でアミノ酸に分解されてから体内で様々な用途で使われますが、肝臓で使われる過程の中で化学変化を起こし、ホモシステインに変化してしまいます。

ホモシステインは体中で活性酸素を発生させてしまうので、血管では動脈硬化を引き起こす可能性があり、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まります。骨では骨の細胞を死滅させてしまい、骨粗しょう症のリスクを高めてしまいます。

そして、厄介なことに、ホモシステインに変化してしまうと抗酸化作用のあるビタミンCやポリフェノールなどが効かなくなってしまうこともわかっています。

そんなホモシステインを(今わかっている中では)唯一無毒化できるのが葉酸です。ホモシステインを再び肝臓で働く形に変えることができるのです。
下図は、ホモシステインが高くなってしまったラットの血管の断面図です。

ガッテン!より

ホモシステインのせいで動脈硬化が起き、血管の壁が厚くなっている状態です。
同じようにホモシステインが高くなってしまったラットでも、毎日葉酸たっぷりのエサで育てたラットは…

ガッテン!より

血管の壁が通常のままであることが確認されました。

葉酸の1日の推奨摂取量

日本では成人男女は1日に240μg(マイクログラム)摂取することが推奨されています。妊婦さんは倍の480μgとされています。
240μgを食品で例示すると、下図くらいの量になるそうです。

ガッテン!より

葉酸は様々なものに含まれています。
納豆、レバー、お茶、ほうれん草、豆苗、水菜、春菊、菜の花、エダマメ、オクラ、アスパラガス、サニーレタス、ブロッコリー、小松菜、ニラなどに含まれています。

ちなみに、葉酸は以前「ビタミンM」と呼ばれていました。
貧血になる猿とならない猿の違いを調べているうちに見つかった物質なので、モンキーの頭文字から「ビタミンM」と呼ばれていたそうです。
しかし、ほうれん草にも含有されていると明らかになったことから「葉酸」と呼ぶようになったそうです。

 

スポンサーリンク

 

240μgでは不十分?

埼玉県坂戸市では、葉酸に関する講演会が11年前から定期的に開かれており、これまでに約1700人の市民が参加しているそうです。

先述したペンシルベニア州立大学のキャサリン・ロス氏もこの試みを高く評価しており、「健康長寿への取り組みに注目している。坂戸市のみなさんが行っていることは健康を保つのに極めて大事なことを私たちに教えてくれている」と話していました。
この取り組みは市民に浸透しており、たとえば坂戸市のある和菓子店では生地にほうれん草を用いた「葉酸どらやき」が、パン屋さんには「葉酸ブレッド」が、カフェには「葉酸スムージー」が売られているそうです。

坂戸市は、このプロジェクトを主導する女子栄養大学教授の香川靖雄氏の勧めにより、葉酸の1日推奨摂取量を1日400μgと定めています。
香川氏は食べ物から摂るなら400を超えたほうがいい。日本では(摂取量が)大変不足していると考えている」と話していました。妊婦さんだけでなく、成長期の若い人や高齢者も特に、この量を摂る必要があるそうです。

プロジェクトに参加したNさん(73歳女性)は、葉酸が豊富に含まれるサニーレタスやオカノリ、オカワカメなどを自家栽培し、毎日600μg以上摂取しているそうです。

Fさん(76歳女性)は3回の食事に野菜を取り入れるようにして毎日400〜500μgほど摂取していると話していました。

このように葉酸を食事に取り入れた結果、多くの人のホモシステイン値が下がったそうで、参加者400名を対象にした調査ではホモシステイン値が平均17%減少しました。

アメリカでは、65歳以上の965名を1日の葉酸摂取量ごとに分類して3〜9年追跡し、アルツハイマー病になった人の数を調べる調査が行われました。

ガッテン!より

調査の結果、葉酸をたくさん摂っている人ほどアルツハイマー病の発症が少ないことが確認されました。
日本にも大阪大学が全国6万人を対象に14年間追跡した調査があります。

ガッテン!より

この調査では、葉酸摂取量が多いほど心筋梗塞による死亡率が低いことがわかりました。
ただし、この結果について香川氏は「葉酸を多く摂った人は野菜をたくさん食べている。葉酸以外のビタミンも摂っていると考えられるので、葉酸だけの効果(で心筋梗塞が減っている)かどうかはまだ研究が必要」と指摘していました。

摂取量について

国際連合食糧農業機関(FAO)・世界保健機関(WHO)の「栄養表示に関するガイドライン」では、1日の葉酸推奨摂取量は400μgとされています。

世界 81カ国では「葉酸を加えていない穀類を販売してはいけない」と法律で定められており、葉酸入りのシリアルやクッキーなどが普通に販売されているそうです。

日本で推奨摂取量が240μgになったのは、「貧血にならない目安」として定められて以来改定されていないためであり、本来は400μg以上摂取すべきなのだそうです。

そこで気になるのは摂取上限ですが、香川氏によると「通常の食べ物から摂る場合は安全」だといいます。ただし、サプリメントで摂取する場合は、「1日1粒」など目安が示されていますので、それをしっかりと守るようにする必要はあります。

葉酸のお手軽摂取法

1日400μgを毎日摂るのは大変、と感じるかもしれませんが、日本人の平均摂取量は1日277μgです。つまり、これに123μgを足せば400μg摂取することができるということです。

123μgは、例えば生のほうれん草なら60gほどで摂取できます。
写真で見るとこのくらいです。

ガッテン!より

摂取する際には、葉酸が水に溶けやすい性質であることを知っておく必要があります。
例えばブロッコリーは、茹でると含有量が45%まで落ちてしまいます。(55%が水に溶け出てしまうということです。)しかし、蒸すと葉酸はほとんど溶け出ることなく、90%も残ります。また、ほうれん草は茹でると80%に減少しますが、炒めれば98%までしか減少しません。
このように調理法に気を配れば、蒸したブロッコリーや炒めたほうれん草なら小皿一皿ほどで123μgを摂取することができます。

その他の食品の目安

以下に各食材で葉酸約120μgを摂るのに必要な量を示します。

・ 豆苗…80g。※ビタミンKも豊富な優れた食材です。
・ 納豆…2パック程度。
・ 焼き海苔…2枚
・ 煎茶…湯呑み1杯(100g)。※ただし葉酸は光で分解されるため、ペットボトルのお茶ではなく淹れたてのお茶で。

葉酸を摂取する際の注意点

今回の特集では葉酸の摂取を推奨していますが、葉酸だけを摂取しても上手に吸収・代謝されません。亜鉛やビタミンC、ビタミンB6、ビタミンB2、ビタミンB12を同時に摂取することにより、体内で葉酸を上手く働かせることができます。(逆に、他の目的で上記の栄養素を多めに接種している場合も、それに応じて葉酸の必要量が増えることになります。)

また、普通に食事から摂っていれば過剰摂取の危険はないということでしたが、耐用上限量も定められています。(例えば30〜69歳の男女なら1日1000μgまで。)
サプリメントを目安量以上に飲みすぎたりしなければ心配の必要はありませんが、上限量があることも頭の片隅に入れておきましょう。

参考:
https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20180118-00080573/
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail652.html
https://www.elevit.jp/nutrition/folic-acid-support/
http://www.glico.co.jp/navi/dic/dic_24.html

まとめ

今回は葉酸の力についてまとめてまいりました。
葉酸は生命を維持するのにとても重要な栄養素であるにも関わらず、(特に日本では)栄養素としてあまり注目されてきませんでした。
「自分は摂取量が足りていないかも…」という方は、食事を工夫したりサプリメントを取り入れたりして、「1日400μg」の摂取を目指してください。


スポンサーリンク

コメントは受け付けていません。