手首が痛い~老若男女に広がる腱鞘炎・スマートフォンサム~ガッテン!より

手首周辺に痛みを感じる時はありませんか?
近年、手首の激しい痛みに襲われる人が、年齢や性別を問わず増えてきています。
その多くが「腱鞘炎(けんしょうえん)」という症状なのですが、腱鞘炎はもともと、ピアニストや工場労働者、料理人など、手を酷使する職業の人がなりやすい病気でした。それが近年、老若男女を問わずごく普通の人たちが罹患するようになってきているというのです。

この傾向は日本にとどまらず世界中で見られ、例えば中国では手首の痛みが「10大生活習慣病」の1つに指定されているといいます。
今回は、現代病のひとつとも言える手首の痛みについて特集していた『ガッテン!』を中心に、情報をまとめていきたいと思います。

 

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手を酷使していないのに…

埼玉県のIさん(50代女性)は、2年前から手首の痛みが出はじめたそうです。
Iさんによると「手首を動かしたりグッと力を入れたりするときに、親指から手首にかけてズキンズキンという感じで痛む」そうで、「ぎゅっと力を入れるのが怖い」と話していました。
原因については「ぶつけたりしていないので、なぜ痛くなったのかわからなかった」と話していました。

同じような悩みを抱えるNさん(50代男性)は両手首が痛むそうで、特に手首を前のほうに伸ばすと「肩の方まで痛くなる」と話していました。趣味のバイクも痛みのために乗れなくなってしまうほどだそうですが、Nさんも痛みの原因に心当たりがありませんでした。

その原因は…

結論から言うと、お二人は「スマートフォンサム」と呼ばれる症状でした。
アメリカのメイヨークリニックの専門家によると、「携帯電話などが原因で、20年ほど前から手首の痛みを訴える人が増えてきている」症状だそうで、「患者は手首に炎症が起きているため、動かすたびに強い痛みが出てしまう」といいます。

番組が街でインタビューをしてみると…

「手のひらから腕にかけて、しびれや重だるい感じがある。」
「何時間もスマートフォンを操作していると、痛くなって触れられないくらいになる。」

などの声があり、多くの人が悩まされている症状である様子をうかがうことができました。

この痛みは、スマートフォンだけが原因となるわけではありません。
たとえばNさんは、仕事で使うパソコンが原因だったと考えられています。
他にもゲームなどの様々な電子機器の操作もスマートフォンサムの原因になり得るそうです。

人類の進化と親指

「サム」というのは、英語で親指という意味です。
手首の炎症なのに名前に「親指」と付いているのは、人間が親指を動かす手の仕組みに理由があります。

これを説明するために、番組では東京大学総合研究博物館を取材していました。同博物館は2万体もの動物の骨を収蔵しており、動物の体の仕組みについて研究しています。

同博物館に所属する、解剖学の専門家の遠藤秀世紀教授によると、「動物の手の指というのは、いちばん内側にあったり、いちばん外にあったりすると退化してなくなったり、逆にそれが特別な役割を果たしたりする」そうです。

たとえば牛の蹄(ひずめ)は、もともと薬指と中指だったものが進化したもので、存在していた親指は必要がなくなって消滅してしまった姿だそうです。
パンダも親指がなくなっており、笹などを手でつかむ際には、手の外側にある特殊な骨の出っ張りでひっかけているそうです。
ネコの親指は、特異な役割を果たしています。親指だけが地面に触れずに浮いていて体重を支えたり地面を蹴ったりはしないのですが、攻撃時だけ爪をたてて、武器として機能するそうです。

しかし、人間の親指は退化せずに進化しました。
試しに、番組スタッフが動物園へ赴き、人間と同じ霊長類であるアビシニアコロブスというサルに、スマホのような形に切ったサツマイモを与えて様子を観察すると、サツマイモを手で掴む様子は実にぎこちないものでした。サルの手は主に木にぶら下がるために使われるもので、モノなどを器用に扱う必要はないため、親指は発達しなかったのです。

一方、人間は親指を使って他の4本の指と一緒にモノをしっかりと掴む能力を発達させました。このことで道具を使いこなせるようになり、繁栄したのです。

この進化の“代償”として、手首を痛めやすくなってしまったのです。

スマートフォンサムにつながる動き

スマートフォンサムになりやすくなる指の動きは、スマートフォンの画面上で親指を滑らせたり弾いたりする動作です。

ガッテン!より

番組では、手首につながる筋肉に筋電計を取り付けて、ピアノの演奏やスマートフォンの操作、パソコンの操作をしたときの筋肉への負担のかかり具合を測定していたのですが、どの動作もほぼ同じくらいの激しい負担がかかっていました。

このことについて遠藤教授に訊ねると、「(人間は進化の過程で)それまで使い込んでいなかった、役割も機能性も低い筋肉をものすごく使うようになった」と解説していました。
親指の付け根あたりのぷっくりした部分にある筋肉は、親指につながる腱を引っ張って親指を曲げる役割を果たしています。この働きによって、人間は手でモノを掴むことができます。逆に、掴んだモノを離すときに腱を操作する役割は、手首の下あたりにある筋肉が行っています。
もともと、動物にとっては掴むという行為が最優先であって離す方は力が必要なかったため、その筋肉はとても細いそうです。
細い筋肉が指を弾くような動きを繰り返しているうちに、手首の辺りにある腱の通っている“鞘”の役割をしている場所(腱鞘)が炎症を起こしてしまい、腱鞘炎になってしまうのです。

つまり、親指を滑らせたり弾いたりする動作は、人体にとってとても無理のある動きだったのです。

◯スマートフォンサムにはなりやすい人となりにくい人がいる
腱鞘炎のなりやすさを左右する要因は、人それぞれ異なる体の個性にもあります。

ある人の手首を超音波エコーで見てみると…

ガッテン!より

赤い部分が腱、その周りの水色の部分が鞘の部分です。
イラストで表現すると…

ガッテン!より

こうなります。

しかし、別の人の手首を見てみると…

ガッテン!より

間に隔壁があって、鞘部分が2つに分かれています。

ガッテン!より

進化の過程で、このような個人差が出るようになったそうですが、この違いが腱鞘炎のなりやすさの違いにつながります。
2つに別れると空間的に余裕が無くなるため、腱鞘炎を起こしやすくなってしまいます。

他にも複数人の手首のエコー写真を撮影してみたところ、なかには腱が一本存在しない人までいるなど、人によってまったく違うことがわかりました。

腱が一本しかなくてもそれで代用するため機能的には問題ないそうですが、日常生活で少ししか親指を使っていなくても、体の個性のために腱鞘炎になりやすい人が存在するのです。

女性の場合は更年期になると、ホルモンバランスの変化によっても腱鞘炎が起きやすくなると考えられています。出産前後もホルモンバランスの変化で炎症がおさまりにくくなるため、腱鞘炎になりやすくなります。

子育て中の母親は、子供の頭を抱きかかえる動作などを繰り返すため手首を痛めやすく、海外では「マムズサム」と呼ばれて病気として把握されているそうです。思い当たる方は病院を受診しましょう。

痛みがあるときには、患部を揉んではいけません。腱は筋肉ではないので、症状は改善しないどころか不必要な刺激によって悪化することもあります。痛みがあるときには患部を休めて、整形外科を受診します。
薬や注射で治療することができ、それでも良くならなければ手術という選択肢も用意されています。

スマートフォンサムの治療

スマートフォンサム(腱鞘炎)になった場合の治療は、大まかに以下のような段階にわけられます。

1, サプリの摂取

しびれが出ている程度の軽度な患者には、ビタミンB12などのサプリを薦めて、経過を観察することがあるそうです。

2, 薬物療法

痛みがある場合は、消炎鎮痛剤を処方し、痛みをとる対症療法がとられます。

3, ステロイド剤の注射

痛みが続いたり、仕事などの都合で患部を動かし続ける必要があったりする場合は、炎症を起こしている腱鞘にステロイド注射を打って対処することもできます。

4, 手術

指が曲がってしまっていたり、激しい痛みがひかなかったりする場合は、腱鞘の一部を切除する手術が行われます。

治療は、早期対策が重要です。
症状が出て1ヶ月くらいで治療を開始すれば1回〜数回で症状が消失するそうですが、年単位で患っている場合は治療期間も長期化するそうです。

気になる症状のある方は、我慢せずに病院を受診しましょう。

参考:
更年期以降に増える手のトラブル
手治療の専門家 ばね指・腱鞘炎は仕事しながらでも治せる

スマートフォンサム(腱鞘炎)チェック法&予防法

東京女子医科大学の酒井直隆氏によると、「(病院に来る人は)以前はピアニストや美容師、調理師が多かったが、最近は職業にかかわらず色んな人がいらっしゃる」と話していました。

病院へ行く前に、自分が手首を既に痛めているかどうかをチェックすることができます。

まず、親指を内側に曲げて、他の4本の指で握ります。それから手首を小指方向にゆっくりと曲げます。
このときに痛みが出た人は腱鞘炎になっている可能性があります。異常がない人でも引きつる感じはありますが、痛みが出る人は腱鞘炎の可能性があるということだそうです。

日常生活の中で予防するには、例えばパソコンの作業なら、キーボードの手前の手首の下あたりにクッションを置くといいそうです。

ガッテン!より

その他の痛み

親指の使いすぎによって痛みが出るのは、スマートフォンサム(腱鞘炎)以外の症状である可能性もあります。
たとえば、かたいフタを空ける時などに、親指の付け根に痛みが出る人がいます。
この痛みは、酷使や老化によって親指の骨格にズレが生じるために発生します。

ガッテン!より

親指を曲げた時に付け根あたりがでっぱる人は、関節のズレが始まっている可能性があります。(てっぱっていても、痛みがなければ病院へ行く必要はありません。)

ガッテン!より

かたいフタを開ける動作などはなるべく避けるようにして、痛みが強かったり手が広がりづらいと感じたりする場合は、早めに整形外科を受診しましょう。

まとめ

今回は近年注目されている「スマートフォンサム」に関する情報をご紹介してまいりました。
これまでの人類では考えられなかった動きを繰り返すようになった現代人だからこその症状で、人によってなりやすい人もいることがよくわかる内容だったと思います。
今回お読みになって思い当たることがあるという方は、整形外科を受診してみてはいかがでしょうか。


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