激しいかゆみを伴って突然あらわれる「じんましん(蕁麻疹)」。そのかゆみは、多くの人が一度は体験したことがあるでしょう。ストレスなどで一時的に現れる場合も多いですが、呼吸困難なども同時に現れて命に関わることもある、危険な症状です。
その原因は多岐にわたるため突き止めることができないケースも多いですが、新しい検査方法でわかるようになったり、以前は治らなかったものが新薬により治療可能になったりしているそうです。
今回は、蕁麻疹を特集していた『チョイス@病気になったとき』を中心に、じんましんに関する情報をまとめていきたいと思います。
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蕁麻疹を起こす意外な原因
蕁麻疹は「蕁麻」という別名をもつイラクサという草が語源になっています。イラクサは全国に自生しているありふれた雑草なのですが、葉に触れると蚯蚓腫れ(みみず腫れ)のようになってしまうという特性があります。それと同じような症状が出るため蕁麻疹という名前になりました。
そんな蕁麻疹に悩まされているYさん(14歳男性)が最初に蕁麻疹が出たのは小学5年生の時でした。冬場、友達と野球をしていたときに左顔に無数の赤い発疹が出てきたそうです。
蕁麻疹は、発疹が膨らんで発疹同士がくっついていき、蚯蚓腫れのようになります。
皮膚の表面近くには、免疫反応に重要な役割を果たしている「マスト細胞(肥満細胞)」があります。
チョイス@病気になったときより
この細胞が何らかの刺激を受けると「ヒスタミン」という物質を放出します。そのヒスタミンが血管に作用するとそこから水分が染み出てきて皮膚の下にたまり、赤い腫れになります。
さらに、ヒスタミンは痒みを感じる知覚神経も刺激するため、強いかゆみも生み出します。(イラクサにはこのヒスタミンが含まれているため、浮腫ができてしまうのです。)
Yさんの蕁麻疹の原因は「冷たさ」でした。真夏のプールでも水の冷たさで体中に蕁麻疹ができてしまうそうです。
このような蕁麻疹は「寒冷蕁麻疹」と呼ばれるタイプで、決してマイナーなタイプではありません。
Yさんは皮膚科を受診し、蕁麻疹が何度以下で発症するのかを詳しく調べてみることにしました。
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この装置は、U字型の金属の部分に4℃〜44℃の温度が段階的に出るように設定されている専用の機械です。この上に腕を数分間のせて、その人が何度で蕁麻疹が出るかを調べます。
検査の結果、Yさんは14℃で蕁麻疹が発症することがわかりました。これだけ低い温度に反応してしまうということは、真冬だけでなく1年中対策が必要ということになります。冬は肌の露出を避けて外出し、夏はクーラーの当たらない場所にいるなどの工夫を常に行っているそうです。加えて、毎日抗ヒスタミン薬を飲むことで、症状はだいぶ改善しているとのことでした。
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蕁麻疹の種類
寒冷蕁麻疹の原因について、神戸大学大学院講師の福永淳氏によると「まだよくわかっていない」といいます。しかし、「おそらく寒い刺激が加わると体の中で血液が変化し、マスト細胞を刺激してヒスタミンが放出されると考えられる」とのことでした。
他にも蕁麻疹の原因となるものには以下のようなものがあります。
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上記のような原因が特定できる蕁麻疹で、何らかの刺激で起こるものを刺激誘発型と呼びます。
食物アレルギーはその代表的なもので、例えばサバアレルギーなら、寄生虫であるアニサキスに対するアレルギーであったり、サバが長期保存されている間にサバにできるヒスタミンを体内に入れることで生じるアレルギーであったりします。
擦れ等でできるものは機械性蕁麻疹といいます。擦れると誰でも腫れることはありますが、腫れがなかなかひかなかったり痒みが強かったりすると蕁麻疹である可能性があります。
圧迫性蕁麻疹は非常に珍しいタイプです。例えばじっと座っていて、それから数時間経って夕方ぐらいにお尻がかゆくなってくるような蕁麻疹だそうです。
治療について
刺激誘発型蕁麻疹の対策は、基本的にはその刺激を避けることになります。それがどうしても無理だという場合は、抗ヒスタミン薬を飲むことで対応します。
抗ヒスタミン薬は飲み続ける必要があります。目安としては、症状が治まってからも1〜2ヶ月は飲み続けたほうがいいそうで、もっと長く続く場合は年単位になる場合もあるそうです。長く飲むことで再発の予防になることが証明されているため、自己判断で服用をやめてはいけません。
メントールが入っている市販のかゆみ止めは、疑似冷感によって一時的に痒みを制御することに関しては有効です。
ステロイドは短期なら効く場合もありますが、長期に飲むと必ず副作用が出るので、あまり長期に飲むようなことがしない方が良いそうです。
抗ヒスタミン薬は眠気ぐらいしか副作用がないため、長期服用しても体調を崩す心配はありません。
ひとつの食品が原因とは限らない
蕁麻疹に悩まされているSさん(20歳女性)は、16歳の時に蕁麻疹が出始めました。お見舞いでもらった桃と梨を食べた時に喉が痒くなり、腫れが口の周りや頬など顔全体に広がっていったそうです。桃と梨はそれまで普通に食べられていた食品だったのでアレルギーとは思わず、その日のうちに腫れがひいたこともあって病院へは行かなかったそうです。しかしその数日後、生理の日に体調が悪くなり、顔にアレルギー時のようなただれが出たそうです。全身の激しいかゆみで立っていられないほどになったSさんの様子を見た学校の先生が救急車を呼び、運ばれた病院で診察を受けたところ、食べ物によるアレルギーだと分かったそうです。
食物アレルギーの仕組み
体の中にアレルギーの原因となる物質(=アレルゲン)が入ってくると、IgE抗体というたんぱく質が作り出されます。
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IgE抗体はマスト細胞の表面にアンテナのように張り巡らされます。
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アレルゲンがこのIgE抗体に結合すると、マスト細胞が活性化し「ヒスタミン」という物質を放出し、蕁麻疹の症状を引き起こします。
Sさんはアレルギー科に入院し、1ヵ月かけてどの物質がアレルギー反応を起こすかを調べました。その結果、20種類以上の食品にアレルギー反応を起こすことがわかりました。
それらの食品の中にも引き起こすアレルギー反応には強弱があり、口の中に違和感を感じる程度のものから、呼吸困難を引き起こす可能性があるものまであるそうです。
そのため、毎日の食事に工夫を凝らし、アレルギーの原因となる食品は避けているというSさんですが、アレルギーを引き起こす食べ物は現在も増え続けているそうです。Sさんは「いつか自分が食べられるものがなくなってしまうのではととても不安。痒くて眠れない、かゆくてどうにもならないという事は今まで知らなかったので、とても驚いたのと、 肌が汚くただれてしまって鏡で自分の顔見るととてもショックになる」と話していました。
この取材映像を見た福永氏は、「Sさんの場合、おそらく花粉が原因となってアレルギー反応が起こるようになり、花粉によく似た果物や野菜に反応してアレルギー反応が起こるようになったのだろう。それがどんどん広がっているのでは」と。分析していました。
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蕁麻疹が出てしまったら
蕁麻疹の原因は血液検査だけではわからないため、問診が大事になります。
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これらを医師が聞いて、判断していきます。
検査は外来で行う場合は数千円、入院の場合は数万円ほどの費用で受けることができます。Sさんは25種類のアレルギー反応を見たため1ヵ月近くかかりましたが、そうでない場合は数日で済みます。
問診の中で時間を訊ねるのは、原因不明で4週間〜6週間以上続く慢性蕁麻疹に「夜に症状が出やすい」という特徴があるためです。その原因はわかっていませんが、ステロイドというホルモンが減るためとも言われています。
時間だけでなく食べたものを訊くのは、納豆や肉など、食べてから6時間ぐらい経ってから蕁麻疹が出る食品もあるためです。
問診をすることで、蕁麻疹ではなく別の病気であることがわかることもあるといいますから、問診では詳細にわたって答えることが重要になります。
食物アレルギーに関しては、現時点では原因となる食品を避けるしか方法がありませんが、小麦や牛乳、卵など、どうしても避けにくい食品が原因の場合は生活に影響が出るため、「耐性誘導」という、対象食品を少しずつ食べていくことで体を慣らしていく方法が採られる場合もあるそうです。(耐性誘導は基本的に子供を対象とした治療法です。子供のアレルギーは比較的治っていきやすいのですが、大人のタイプは今のところなかなか治りにくいため、症状和らげる程度の対応にならざるを得ないそうです。)
ただし、自己判断で耐性誘導を行おうとすると呼吸困難などを引き起こす「アナフィラキシーショック」を起こす可能性もあるので、絶対にしてはいけません。食べただけでは症状が出なくても、食べて運動をすると症状が出る、という特殊なタイプのアレルギーもあるので、医師の指導のもと行うようにしましょう。
以上のような検査を行っても原因がわかることは3割ほどだそうで、原因がわからないことが7割と圧倒的に多いそうです。
原因がわからないタイプは、薬を飲むしかありません。
抗ヒスタミン薬の服用を中心に、補助的治療薬として抗ロイコトリエン薬やH2ブロッカーなどが処方されることもあります。
とても強い症状が出てしまったらエピネフリンを注射します。これによりアナフィラキシーを抑えることができます。
新しい薬の登場
蕁麻疹の治療を4年間続けているAさん(17歳女性)は、5年前の夏に運動をして家に帰ってきた際に足にかゆみを覚えました。掻いていると足全体が蚯蚓腫れのようになったため数日後に近所の皮膚科を受診すると、蕁麻疹と診断されました。食物アレルギーを疑いパッチテストを行いましたが、原因はわかりませんでした。
抗ヒスタミン薬を飲み続けましたが改善が見られなかったため別の病院を受診したところ、医師から「運動をやめれば蕁麻疹は出ない」と言われたそうです。
Aさんは当時、地域のクラブチームでチアダンスに打ち込んでいました。オーディションに向けたチーム練習に加え自主練習を毎日続けていたそうですが、このストレスがAさんの蕁麻疹の原因となっていたのです。
毎晩のように蕁麻疹が現れ勉強にも集中できず、睡眠不足にも苦しめられました。Aさんは「勉強をやりこむとそれがストレスで蕁麻疹が出て、オーディションに向けて頑張っているとそのストレスで蕁麻疹が出た。これから大人になっていくのに治らないのかなと考えた」と、そのつらさについて話していました。
しかし、別の病院を受診したところ「オマリズマブ」という新しい薬の存在を知らされました。
この薬にはIgE抗体がマスト細胞にくっつくのを防ぐ作用があります。マスト細胞の活性化を抑え、蕁麻疹が起こるのを抑えます。
個人差があり、早い人だと1〜2日で蕁麻疹が全く出なくなりますが、一ヶ月おきに3〜6回打って徐々に良くなる人もいます。(半年間が1つの目処だそうです。)
Aさんは月に1回、合計4回注射しました。1回目に打ったあとには蕁麻疹が軽く出たそうですが、二回目に打ってからは全く出なくなったそうです。副作用は少なく、注射した部位が少し赤く腫れる程度の安全な薬です。
刺激で出ないタイプの慢性蕁麻疹だけが保険適用になり、3割負担で1回27,347円の費用で受けることができます。皮膚科専門医やアレルギー専門医に相談しましょう。
意外な原因
意外な原因で蕁麻疹が出ることもあります。
Bさん(23歳女性)に最初の異変が現れたのは2年前にアメリカ留学をしていた時でした。最初は蚊に刺されたのかと思ったそうですが翌日には全部がつながって大きくなっていき、全身に広がっていきました。かゆみ止めを塗っても収まらないほどの強烈なかゆみに襲われましたが病院にはいかず、一週間様子を見たそうです。すると痒みはひどくなり、夜は常にアイスパックを当てていないと眠れないほどにまでなってしまったそうです。
最初の異変から2週間経った頃に病院へ行くと、そのまま入院することになりました。1週間の入院中、抗ヒスタミン薬の点滴を受けて徐々に良くなりましたが、原因はわからないままでした。
その後も軽い蕁麻疹が度々出ていたため現地の薬局で抗ヒスタミン薬を買ってしのいでいたそうですが、1年後、呼吸困難を伴う激しい症状に襲われました。
Bさんは「これは危ない」と感じ日本へ帰国。病院を受診し「自己血清皮内テスト」という検査を受けました。
自己血清皮内テストとは、自分の血清を注射して蕁麻疹の反応が出るかどうかを調べる検査です。Bさんの検査結果は陽性でした。陽性ということは、自分自身に対する免疫の誤作動が起きており、体の中にある自分の血液が、自分のマスト細胞を攻撃してしまっているということです。その原因はまだわかっていませんが、ストレスなどが原因で起きていると考えられています。
Bさんは抗ヒスタミン薬の量を増量し、ロイコトリエン阻害薬も併せて飲むことで、症状は劇的に改善しました。
慢性蕁麻疹の人で抗ヒスタミン薬では不十分という人は、この検査を受けると原因が明らかになるかもしれません。
抗アレルギー作用のあるもの
抗アレルギー作用が確認されているものをご紹介します。
(以下に挙げる物質を含む食品自体にアレルギー反応を起こしてしまう方もいるかもしれませんので注意しましょう。)
・乳酸菌、ビフィズス菌
乳酸菌やビフィズス菌は腸内の善玉菌です。腸内フローラを整えることは抗アレルギー作用があることが明らかになり、近年注目されています。
納豆、発酵食品
これらの食品は乳酸菌などと同じように、腸内環境を良くすることで効果が期待できます。
ポリフェノール
ワインやお茶、トマトの皮などに含まれる物質です。
L-システイン
赤唐辛子、ニンニク、タマネギ、ブロッコリーなどに含まれる物質で、美肌効果も確認されています。
αリノレン酸
エゴマ油や亜麻仁油に含まれます。摂取量は1日にティースプーン1杯ほどが目安とされています。
参考:
花粉症とポリフェノール
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まとめ
蕁麻疹は、治療を根気よく続ける必要がある病気です。
今回ご紹介したとおり、まだ分かっていないところも多いですが、諦めずに検査を受けると原因がわかる可能性もあります。
原因がわかれば安心でき、それだけでも生活の質を高めることになりますので、発症している方は専門医に診てもらうようにしましょう。