便移植療法『他人のウンチで下痢を治す!』~効能範囲と思わぬ副作用

なんだか煽ったタイトルにしてしまいましたが、これは大真面目な話です。腸内フローラが健康や病気の治療、予防に大きな影響を与えていることがわかってくるにしたがい、この便移植という治療法にも注目が集まるようになってきました。糞便移植療法などとも呼ばれています。

NHKを始め、たけしのみんなの家庭の医学でも特集されたりしています。今後はさらに広く認知がされてくることでしょう。

管理人が便移植を知ったきっかけ

クロストリジウムディフィシル感染症という病気があります。Clostridium difficile infectionとか単にCDIとか表記される場合もあるようですが大腸炎の一種です。

一般的な知名度は低いですが、日本でも発生している感染症で、その名の通り、クロストリジウム・ディフィシルという細菌が引き起こす病気です。抗生物質を服用することで引き起こされるといわれています。

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クロストリジウム・ディフィシルとは?

クロストリジウム・ディフィシルとは腸内細菌のことです。

健康成人の3%程度が保菌し、とくに新生児では検出率が高い。検出率は抗菌薬の使用により20%程度まで上昇する

出典:鹿児島大学医学部ホームページ

クロストリジウム・ディフィシルは、新生児の約15~70%、健康な成人の相当な割合の腸内に通常生息しています。保菌者と呼ばれるこのような人たちは、この細菌を持っていますが、病気の徴候は何も示しません。保菌者がリスクを持つ人にこの感染症をうつすこともあります。さらに、この細菌は土壌、水、ペットにごく普通にみられます。しっかり手を洗うことで人から人への感染が防げます。
出典:メルクマニュアル医学百科

要するに、

クロストリジウム・ディフィシル自体は医学界では珍しくもない、保菌している人もたくさんいる細菌

ということです。

この細菌、平常時は大人しくしていますが、免疫力が落ちていたり、抗生物質などの投薬治療を受けたりして他の腸内細菌が弱ってくると”悪さ”をし始めます。

主な症状は下痢。

『なんだ下痢か』と思われるかもしれませんが、激しい下痢を伴う腸炎、腸閉塞、はては敗血症など、重篤な症状を引き起こす場合もあり、アメリカでは毎年15000人~20000人がこの病気で命を落としているそうです。

さらに、このクロストリジウム・ディフィシル感染症はなかなか治らないことでも知られており、一旦症状が収まっても、しばらくしたらまた再発を繰り返す、実は怖い病気です。日本でも患者さんはいますし、他人にうつりますからこの記事を読んでいるあなたもこの感染症を発症する可能性はあるんです。

しかし、近い将来、この病気は恐れるに足らない病気になるかもしれません。

というのは、この病気に効く画期的ともいえる治療法の研究が進んでおり、ここ数年世界的に注目を集めているからです。

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その名もFecal Microbiota Transplantation(FMT)

Fecal・・・糞便の
Microbiota・・・微生物叢
Transplantation・・・移植

単語をそのままつなげて直訳するなら、糞便の微生物叢移植となります。日本の医療関係サイトでは、糞便移植療法などと紹介されています。

クロストリジウム・ディフィシル感染症は保菌者の腸内細菌(腸内フローラ)の勢力バランスが崩れることで発症する病気です。保菌したとしても、他の細菌に抑え込まれていれば発症することはないはずです。

であれば、

健康な他人のウンチ(に含まれる細菌叢)を身体の中に取り込んで、腸内細菌のバランスを整えてやれば症状が改善するのではないか

というのがこの治療法の元々の考え方なのだそうです。

海外で始まったこの治療法、患者さんの治癒率は9割を超えるといわれており、スタンダードな治療法であるバンコマイシンなどの抗生物質を投与する治療法の治癒率をはるかに超える好結果を出しています。

日本でも慶応大学病院や順天堂医院などが臨床試験をすでにスタートしており、今後はクロストリジウム・ディフィシル感染症を繰り返し発症する患者に対し、より一般的な治療法になっていく可能性が大です。

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さらに治療対象が広がる

この糞便移植療法、非常に大胆かつシンプルな治療法ですが、その応用範囲はクロストリジウム・ディフィシル感染症の治療だけにとどまらない様相を呈してきています。

というのは、腸内細菌というのは、我々の健康にさまざまな影響を与えていることがわかっており、他の病気であっても腸内細菌バランスを整えることで症状が改善するはずという理屈が成り立つからです。

腸内細菌叢の乱れは、ディフィシル菌感染症などの下痢や腹痛だけでなく、消化器以外の病気、とりわけ代謝や免疫と関係する病気につながることが、ごく最近になって報告されている。つまり、糖尿病や肥満、メタボリックシンドローム、アレルギー、ぜんそくなども、腸内細菌叢の乱れが引き金になる可能性があるということだ。
出典:あなたの健康百科

これまでに改善(一時的なものも含む)や治癒が報告されている病気は、便秘(特発性)、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群(IBS)、自閉症、慢性疲労症候群、糖尿病、インスリン抵抗性、線維筋痛症、特発性血小板減少性紫斑病、メタボ、多発性硬化症、ミオクローヌス・ジストニア症候群、パーキンソン病などが挙げられる。

 これらに加え、胆石症、大腸がん、肝性脳症、家族性地中海熱、胃がん・胃リンパ腫、さらに関節炎、ぜんそく、アトピー性疾患、自己免疫疾患、湿疹、脂肪肝、花粉症、高コレステロール血症、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)、気分障害、肥満、腎結石も、腸内細菌叢の変化との関連が認められているという。

 さらに、脳や脊髄と腸内細菌叢とが関係するという概念も出てきており、神経疾患や精神疾患との関わりについても議論され始めている。

出典:あなたの健康百科

C.difficile菌感染腸炎(抗生剤長期投与によって生じる難治性腸炎)についてはほぼ100%、炎症性腸疾患については約70%の患者の方が寛解(病気が落ち着くこと)し、そのほかの病気(自己免疫疾患、糖尿病、肥満など)にも応用され始めております。

出典:順天堂大学医学部附属順天堂医院より

まさに何でもかんでもといった感じです。脳や脊髄まで糞便移植療法の対象になりうるというのはどうかと思いますが、自閉症や気分障害と腸内細菌との関連が認められているということですから、常人には想像もつかないくらいに幅広い病気の治療に応用できるものなのかもしれません。

NHKスペシャルの腸内フローラの特集ではカナダの医師がうつ病治療に腸内フローラの改善によってアプローチしているという話を放送していました。
こちらにまとめています。
腸内フローラ驚異の細菌パワー(NHKスペシャル)より~腸内細菌の働きetc

マウスの実験では、腸内フローラを入れ替えることで、性格が入れ替わるなど、驚くような結果が出ているそうです。

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しかし思わぬ副作用の報告も

アメリカで、先日、この治療を受けた女性に副作用とおぼしき反応が出たとの報告が出されました。

その副作用は肥満。

この女性、娘さんの便を移植されたのですが、移植後、体重が増加し続け、移植当時61kgだった体重が3年後には80kgまで増加したそうです。食事療法や運動でダイエットを試みたものの、体重が減ることはありませんでした。

女性は過去一度も肥満になったことがない一方、便を提供した娘さんは肥満だったそうです。便移植で腸内フローラを移したことが原因ではないのかという見方が出ているわけです(副作用と確定したわけではありません)。

マウスでの実験でも肥満のマウスの便を移植されたマウスはその後肥満体型になったという報告もあるそうですから、やはり無関係ではないのかもしれません。

しかし、本当に提供側の体型までコピーされるのだとしたら、スリムな体型の人から糞便移植をすれば痩せられる可能性もあるはずです。もしかしたら10年後にはダイエットの主流になっているかもしれません。

まだまだ課題も多い治療法と言われていますが、今後の展開が楽しみな治療法ではあります。

hunben



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