多くの人を悩ませる皮膚の病気。
皮膚病はあらゆる部位の病の中でもっとも種類が多く、約1万もの種類があるといいます。
そのぶん正確な診断も難しい皮膚病の分野で第一人者として活躍する医師と、ある患者の難病が特定されるまでの診察の様子が『みんなの家庭の医学』にて紹介されていましたので、まとめておきます。
日本に20人しかいない資格の持ち主
番組には、東京都大田区の希望が丘商店街にあるすずらん皮膚科クリニックの院長・堺則康医師が登場していました。堺医師は、世界中の医師を対象にしたアンケート調査によって選出された”ベストドクター”なのだそうです。まさに“医師が選ぶ名医”ということです。
堺医師はクリニックでの診察に加えて東京医科大学病院で毎週木曜日「遺伝外来」を担当しています。
「遺伝外来」とは、何らかの遺伝子の異常がトリガーとなって皮膚に症状が出る病の正体を見極めて、治療していくための外来のことだそうです。
例えば、画像の左側はウイルス性のイボで誰にでもできるものですが、右側はレックリングハウゼン病という難病の症状で、これは遺伝子の異常によって生じたものなのだそうです。
たけしのみんなの家庭の医学より
この微妙な違いを正確に見極めるには高度な専門知識が不可欠。
そういった高度な専門知識を保持していると認定された医師にのみ与えられる特殊な資格に「臨床遺伝専門医」というものがあり、皮膚病分野では日本に20人ほどしかいないそうですが、今回登場した堺医師はその一人なのです。
堺医師は外来終了後に医療専門の図書館を訪れるのが日課。世界中の論文を検索したりしながら、診察中に疑問に思った症状や病を調べ直す作業を続けているそうです。調べたものはノートに記して自宅の書斎に保管。種類が多い皮膚病に対応するためにストックしているのだそうです。
このように研究熱心な堺医師によって、判別が難しい皮膚病の原因を特定された事例が紹介されていました。
[sc:アドセンスレスポンシブ ]原因不明の皮膚病
ある冬の日、女子高生のTさん(16歳)の皮膚に異変が現れました。
学校から帰宅すると、胸元と肘から下全体に、わずかに膨れ上がった赤いまだら模様が出現したそうです。
翌朝には症状が消えたのですが念のため近所の皮膚科を受診すると「何らかのアレルギーによる蕁麻疹」と診断され、炎症を抑える薬が処方されたといいます。
その後も週に1回程度のペースで同じ症状が出ていましたが、処方された薬を飲めば翌日には消えていたことや、次第に症状自体が出てこなくなったので、Tさんは「治った」と安心していたそうです。
約半年後の夏の日、またしても同じ症状が出てきているのを発見したTさんは再び皮膚科を受診。それでも医師の診断は前回と同じ「蕁麻疹」で、前回よりも強い薬を処方されるだけでした。
しかし、今度はその薬を飲んでも症状は治まらず、それどころか翌朝には顔にまでまだら模様が出てきてしまったといいます。
Tさんは別の総合病院の皮膚科を受診。
「皮膚生検」を受けましたが異常は見当たらず、医師には「なぜその反応が出ているかわからない。」と言われてしまったそうです。
皮膚生検
皮膚の病気は、見た目だけでは確定診断できないものや、皮膚症状が似ていても全くことなる病気であることが少なくありません。皮膚生検とは、診断をより正確なものにするため、病変のある皮膚組織の一部を採取し、それをもとに病理標本を作製し顕微鏡で観察すること、さらに、場合によっては組織による免疫検査や培養検査をするための手法です。
治癒すること無く半年ほどが過ぎた冬の寒い朝、Tさんがベッドから身を起こそうとしたとき、膝に激しい痛みを感じました。それだけでなく、38度を超える高熱まで出てきたといいます。
原因不明の皮膚病に加えて、体全体の不調。
それからというもの、整形外科ではレントゲン検査を受け、内科では血液検査を受け…と、多数の病院を渡り歩いたTさんでしたが、身体に異常は見つからず、原因が特定されることはありませんでした。
絶望感を抱きながら病院を歩きを続けることおよそ半年。
ある皮膚科医に紹介されたのが、堺医師でした。
臨床遺伝専門医が難病を特定
番組では、堺医師からTさんへの問診の様子がつぶさに再現されていました。
まず堺医師が「どのくらいの時間、肌の異常が出ていますか?」と尋ねると、Tさんは「1日に何回も出たり消えたりする」と回答。
堺医師は蕁麻疹の可能性を疑いながらTさんの皮膚を見てみると、通常の蕁麻疹に比べてわずかに赤みが濃く、触れてみると、腫れの奥に何かが触れるような感覚があったそうで、その時点で「普通の蕁麻疹ではない」と判断しました。
つづいて「他に症状が出ていませんか?」と尋ねる堺医師。
Tさんは膝や足首の痛みを訴えました。
堺医師はこれまでの研究から、「膠原病」の可能性を視野に入れました。
膠原病
全身の複数の臓器に炎症が起こり、臓器の機能障害をもたらす一連の疾患群の総称。
類似疾患概念に、自己免疫疾患、リウマチ性疾患、結合組織疾患があるが、膠原病はこの3つが重なった位置にあるとされる。
原因としては、血液中にある抗体が細胞核などと反応をして免疫複合体を形成しつつ、組織に沈着したり、組織を攻撃したりすることで発病すると考えられ、死亡に至る場合もある。
加えて、Tさんは「最近38度くらいの熱が、皮膚が赤くなると同時に出てくる」と答えました。
堺医師の頭には「全身性エリテマトーデス」の可能性も浮かんできました。
全身性エリテマトーデス
全身の臓器に原因不明の炎症が起こる、自己免疫疾患の一種。
全身性は文字通り体中どこにでも症状が起こることを意味し、エリテマトーデスは紅斑(エリテマ)症を意味し、本疾患に特徴的に生じる皮疹に由来する。
発症のそもそもの原因については、今のところ分かっていない。
無痛性の口内炎はきわめてよく見られるが、本症によるものか、通常の口内炎かの区別は難しい。
そこで堺医師は「最近、髪の毛が抜けたり口内炎が出たりしませんか?」と問いましたがそういった症状はないということで、上記の病気である可能性は低くなっていきました。
このような問診によって、可能性のある病を見出してはひとつずつ潰していく作業を繰り返していきました。
しかし、この時点ですぐに原因を特定するには至らなかったといいます。
そこで堺医師は、「最初に症状が出たのは寒い冬だった」ことや「夏に症状が出るのは冷房が効いた部屋かもしれない」という回答をわずかな手がかりに、自宅の書斎の資料を掘り返してみました。
ある程度の目星をつけた堺医師は、1週間後ふたたび診察に訪れたTさんに遺伝子を調べるための特殊な血液検査を実施。
こうすることでようやく、病気の正体が特定されるに至ったのです。
病名はCAPS(クリオピリン関連周期熱症候群)。
自己炎症性疾患の一つで、免疫遺伝子が突然変異を起こし、身体を守る働きのある「クリオピリン」という物質がわずかな細菌に対し過剰に反応してしまうことによって、全身で強い炎症が起きる病気です。
蕁麻疹に似た赤いまだら模様や発熱、関節痛などは、このクリオピリンの過剰な反応によって引き起こされると考えられているそうです。
なぜ発症したかはわかりませんが、寒さによる体温低下で免疫力をあげようとすることが、クリオピリン暴走の要因の一つと言われているそうです。
[sc:アドセンスレスポンシブ ]まとめ
今回Tさんが罹患したCAPSは、発症確率が130万人に1人というとてもめずらしい難病であるために特定が難しく、日頃から最新の論文を研究している堺医師のような専門医でないと判断することができませんでした。
原因がわからない状態のまま病が進行していくさまは、再現VTRとわかっていながらも観ていてつらいものがありました。
医師によって能力に差があることも事実。
たとえばこちらの「全国臨床遺伝専門医・指導医一覧」
http://www.jbmg.jp/about/text/senmon_shidou.pdf
を参照するなど、ネットを活用しながら情報収集して、信頼できる医師を見つけておく必要があるでしょう。