扁桃炎といえば、のどの腫れや高熱といった症状が思い浮かびますが、なんと骨の痛みや手の発疹といったちょっと想像もつかない症状が全身に広がることもあるそうです。また、口臭の原因になることも。
チョイスより
空気の乾燥するこれからの季節になりやすいとのことで、しっかり学んで扁桃炎を防ぎたいものです。
今回の専門家は、JCHO東京新宿メディカルセンターの耳鼻咽喉科診療部長、石井正則医師です。
石井医師は耳鼻咽喉科の名医で著書も多数あります。主に耳鳴り、めまいに関する著書が多い先生になります。
【石井正則医師の著書】
扁桃腺で思いがけない症状に苦しんだSさんのケース
「扁桃腺」という言い方になじみがありますが、最近では「扁桃」と言うように変わっているのだそうです。
扁桃(へんとう)は、二次リンパ器官に分類されるリンパ上皮性器官である。従来は扁桃腺と呼ばれていたが、真の意味では腺ではないため扁桃に改められた。ウィキペディアより
軽く扱われがちな扁桃炎ですが、大変な症状に結びつくこともあるようです。
Sさんは健康的でアクティブな女性ですが、3年前に鎖骨が痛むようになり、その痛みが日に日に増していくという異変が起こりました。自分でも何が起こっているのかわからないほどの強い痛みで、片側だけだったのが両側に広がっていったと言います。
その痛みに特徴的なのは、鎖骨が熱く、鎖骨のまわりが腫れているということ。生活にも大きな支障が出ました。痛みで猫背になり、腕を上げるのも困難なため、家族に髪を洗ってもらったり、着替えすら痛みで泣いてしまうほどだったそう。寝返りもうてないので睡眠不足にも悩まされたと言います。
鎖骨の症状が出てから1年後、近所の整形外科を受診。X線でも鎖骨に異常はなく、貼る炎症止めと痛み止めだけが処方されたと言います。場所が鎖骨ですから普通は整形外科の受診ということになります。ネットでも似たような症状の人はみなさん整形外科を受診されてSさんと同じような処置をされているようです。
しかしそれでも異変は収まらず、今度は水ぶくれの小さいものが手にたくさん出てくるようになったそうです。皮膚科では「アレルギーではないか」と診断されますが、身に覚えがなく、病気のことを周りにわかってもらえず生きる気力を失ったとか。
その後、検診で初期の乳がんが見つかりました。転移がないか詳しく調べたところ、鎖骨に炎症が起きていることがわかり、それが治療のきっかけになったのだそうです。
チョイスより
Sさんはこれまでのことをすべて医師に説明すると、医師から「足の裏も見たい」という思いがけない言葉が。Sさんもそれまで気がついていなかった、手と同じ水ぶくれが足の裏にもできていたそうです。
<Sさんの状況まとめ>
骨の痛み
手足の水ぶくれ
のどの痛み(子どもの頃から風邪を引くと扁桃炎に悩まされていた)
これら状況から、医師は「扁桃炎を原因にした症状ではないか」との疑いを持ったそうです。まさか扁桃炎が骨の痛みや手足の水ぶくれにつながっているとは想像すらできず、Sさんも大変驚いたそうです。
素人には全く考えも及ばない診断ですが、専門家の石井医師によれば「一発でわかる」とのこと。最初に整形外科に行ったことが落とし穴で、
『耳鼻科を受診していれば、これだけの所見があれば「慢性扁桃炎」と考える』
との、石井医師の見解です。鎖骨が痛んで耳鼻咽喉科という選択肢はなかなか出てきません。知っているのといないのとで大違いな状況です。
Sさんは、炎症の源を断ち切るため、扁桃摘出手術を行うことにしました。全身麻酔で行い、1時間ほどかかります。
術後
チョイスより
術後はとにかくのどが渇くのに水も飲めず、じりじり痛んで泣くほど大変だったとSさんは語ります。10日後に退院し、骨の痛みがなくなるのに3ヶ月かかったそうです。
ネットで探してみてもSさんと同じように手術を受けた人の体験談を見る事ができますが、みなさんそれぞれ苦労されているようです。共通しているのは手術した部分や舌の腫れによって食べれない、呑み込めないという状況が1日~2日続くということです。
Sさんも数か月経ってからは今までのことがうそのように、日常生活が普通に送れるようになり、「治った!」と実感したそうです。「扁桃をとって良かった」と振り返るSさんです。
[sc:アドセンスレスポンシブ ]扁桃の役割と全身症状
そもそも扁桃とはどういう役割をしているのでしょうか?
チョイスより
扁桃のひだひだと溝が、口から入る細菌やウイルスをキャッチして防ぎ、免疫機能を働かせているのだそうです。扁桃で免疫細胞を作り、リンパ腺に乗せて全身に送り出すという非常に大切な役割を果たしていたのです!
乾燥する時期に免疫が低くなる理由についてですが、扁桃炎は風邪がきっかけでなることと関係があるようです。風邪をひくと鼻が詰まり、口呼吸になります。すると、免疫機能のある成分を含む唾液が乾燥してしまいます。唾液の乾燥により、免疫機能の成分が少なくなり、バクテリアやウイルスが繁殖してしまうというのです。
つまり、「口呼吸の人は扁桃炎になりやすい」ということです。唾液の大切さを改めて感じさせられます。
そして扁桃炎と年齢の関係ですが、扁桃炎はやはり小児期に多いのですが、大人になっても風邪などで抵抗力が落ちているときにはなるとのことです(急性扁桃炎)。これを繰り返していると、そのうちくせになる=慢性扁桃炎になる可能性があるのです!
<扁桃炎の種類>
急性扁桃炎 風邪になったときに起こる一般的な扁桃炎で、薬により数日で治癒する
慢性扁桃炎 急性扁桃炎を繰り返しているうちに慢性化。Sさんのように骨の痛みや手足のぶつぶつといった症状が出る
扁桃炎でなぜ全身症状となるのか?扁桃は、全身に広がるリンパ節のネットワークの一部であり、扁桃で起こっている炎症が全身に広がります。これを「病巣感染」と言うそうです。
「病巣感染」
身体の一部に慢性の炎症があり,それ自体の症状は軽いけれども,これが原因となって他の臓器に反応性の病変をつくることをいう。コトバンクより
骨や手足だけでなく、まれに腎炎を起こし、血尿や顔のむくみ、血圧の上昇といった症状まで出ることがあるのだそうです。扁桃炎が腎臓にまで影響を与えるとのことで、驚きです。
チョイスより
急性と慢性の見分け方についてですが、石井医師は、
『急性扁桃炎を起こしたあと、1ヶ月以上のどの痛みや乾燥がとれなかったり、微熱が続く場合は耳鼻咽喉科を受診してほしい』
と呼びかけます。
[sc:アドセンスレスポンシブ ]扁桃炎の治療
この扁桃炎の治療ですが、手足のぶつぶつには塗り薬を使うなど、対症療法が行われます。しかし、根本的な解決には扁桃の摘出手術を行うとのことです。
ここで疑問なのが、大切な役割を果たしている扁桃を摘出して、そのあと支障はないのかということです。石井医師は、支障はないと言います。
チョイスより
実は、図の黄色い部分4ヶ所もすべて扁桃なのだそうです。なので、炎症を起こすピンクの部分(口蓋扁桃)を摘出したとしても、他の扁桃が免疫機能を補ってくれるのだそうです。
ただし、免疫機能が完成する10歳ぐらいまでの子どもの場合は、口蓋扁桃はとらないとのことです。
また、口蓋扁桃をとるかとらないかの基準ですが、石井医師によると、
『全身症状(病巣感染)がある場合、そして1年に3-4回と頻繁に扁桃炎が起こっている場合に摘出手術を勧めている』
とのことです。手術の費用ですが、7日間の入院で15万円ほど(3割負担の場合)だそうです。
[sc:アドセンスレスポンシブ ]扁桃炎と口臭
口臭に悩むというEさん。自分では気づいていなかったものの、家族に指摘され、自覚すると気になり始めたと言います。それからは人と話すのも苦痛になりました。ガムやあめ、神経質なほど頻繁な歯磨きに頼るものの、口臭はなくならず、歯科医を受診しました。そこで異常は見つからず、人間ドックも受診するものの、そこでも原因はわからなかったと言います。
その頃、家族が「膿栓(のうせん)」について調べてくれ、耳鼻咽喉科を受診することに。診察した徳永雅一医師は、扁桃にたまった膿栓が臭いの原因だと見抜いたのです。扁桃炎が口臭の原因にもなるのです!
チョイスより
白い部分が膿栓なのだそうです。扁桃の表面にはウイルスなどを捕らえるためのくぼみがありますが、扁桃の炎症でそのくぼみに膿がたまり、それが膿栓となって臭いを放つのです。
チョイスより
「原因がわかって楽になった」とEさんは振り返ります。Eさんは膿栓を取り除きました。
治療は、水を押し出す器具(扁桃専用洗浄管)で膿栓を洗い流すというものです。Eさんの口臭は改善しました。
チョイスより
石井医師によると、膿栓は完全にとれることはないので、何度か洗う必要があるそうです。また、何度洗浄しても膿が出てくる人などは、まれに扁桃を摘出することもあるとのことです。
膿栓除去の費用ですが、麻酔なども必要なく洗浄するだけなので、外来で3割負担の人だと120円が目安だそう。
そして石井医師は、
『自分で洗浄しようとすると扁桃を傷つけることがあるので、自分で膿栓をとろうとしないように』
と注意を促していました。また耳鼻咽喉科でも膿栓を洗浄してくれるところは意外に少ないとのことで、やっているかどうかを前もって耳鼻咽喉科に確認するのがよいようです。
さらに、膿栓だけが口臭の原因ではなく、逆流性食道炎や歯槽膿漏、虫歯、歯肉炎といった可能性もあるので、原因をしっかりつきとめて対処することが重要とのことです。
[sc:アドセンスレスポンシブ ]<慢性扁桃炎の症状まとめ>
チョイスより
急性肝炎にもつながる急性扁桃炎
34歳の男性、Fさん。仕事中に熱っぽくなり、のどに痛みが出ました。数日が経過するうちに、扁桃の腫れが自覚できるようになるなど症状はひどくなるものの、仕事を休むほどではないと判断。しかし職場で辛くなって早退し、2-3日安静にして過ごしました。
ところが、寝ているだけでもつらいほど、日に日に症状は悪化するばかりです。熱がひどいのでインフルエンザを疑い、内科を受診しました。しかしインフルエンザではなく、「ただの扁桃炎」と診断され、薬を処方されました。
しかし、薬を飲んでものどの痛みは治まらず、食事ものどを通りません。40℃近い熱も下がりませんでした。ただの風邪ではないという直感から、3日後に近所の耳鼻咽喉科を受診すると、やはり扁桃炎との診断です。強い薬を処方され、「それでも良くならなかったら大病院に言ったほうがいい」と言われたそうです。
その強い薬でも良くならなかったため、詳しく調べてもらえるJCHO東京新宿メディカルセンターを翌日に訪れました。血液検査の結果、「肝機能障害」だと判明したのです!予想外の診断に、お酒を飲むほうではないFさんは驚きます。
肝臓の働き度合いを示すASTが220(平均は10-40)、ALTが447(平均は5-45)と、異常に高い数値を示し、大変危険な状態になっていたのです。「急性肝炎」です。
Fさんは「普通の扁桃炎」ではなく「伝染性単核球症」だったのです。即入院し、抗生剤の点滴と安静で治療することになりました。Fさんは、1週間の入院で肝臓が回復し、のどの痛みも熱もおさまりました。
Fさんの例で、扁桃炎では急性肝炎が同時に発症することもあるとわかりました。伝染性単核球症はEBウイルスによって起こる急性扁桃炎のことで、ひどいだるさが特徴的なのだそうです。
『日本では小児期にEBウイルスに感染することが多く、小児期に強い症状は出ないものの、そのときに抗体ができ、一度かかったら再発しない』
と石井医師は説明します。血液検査でEBウイルスの抗体があるかどうかはわかるので、もし抗体がなければ気をつけないといけないようです。
まとめ
たかが扁桃炎との認識を抱きがちですが、あなどれない病気だとわかりました。石井医師は「扁桃炎は早期に『耳鼻咽喉科』で診てもらう」ことがポイントだと結んでいました。
自分自身ものどが強いほうではないので、番組を見て、これまでに重篤な症状に結びついていないのが奇跡のように思われました。そこでなんとか扁桃を鍛えることはできないかと思い、調べてみました。
鍛えるというより予防法ですが、過去の「ためしてガッテン」で取り上げられていたようです。今回の「チョイス」でも触れられていましたが、口呼吸になると扁桃炎になりやすいので、口呼吸にならないよう「口輪筋」を鍛えようという趣旨です。
引用すると
「<用意するもの>
1.ペットボトル(1Lの水が入ったもの)2.直径3cmほどのボタン 3.タコ糸
ペットボトルとボタンをタコ糸で繋げる。<チェック法>
唇と歯の間にボタンをはさんでペットボトルが持ち上げられるかどうか。<鍛え方>
持ち上げられる重さの半分にして5秒間持ち上げる運動を1日20回行う。」
ペットボトルを口で持ち上げている様子は、あまり人には見られたくない気がしますが、口輪筋を鍛えることに興味のある方は、実践されてみてはと思います。