先日の『たけしのみんなの家庭の医学』では、「腸内フローラ」の最新情報について特集されていました。最近話題の腸内フローラですが、なんと、「便移植」により、腸内フローラが劇的に改善するというのです。「便移植」という言葉は衝撃的な響きですが、その具体的な方法やどんな病気に効くのか、また便移植で劇的な改善をした患者の例などが紹介され、大変興味深い内容でした。
腸内フローラについては昨年NHKスペシャルで紹介されて以降、話題沸騰となり、書籍もたくさん出ています。
「腸内フローラ」とは?
最近よく耳にする「腸内フローラ」という言葉。これは、人間の腸に住む100-1,000兆個とも言われる腸内細菌の集合体のことです。(注・フローラとは植物相、常在菌の意味です 。)
たけしのみんなの家庭の医学より
腸内フローラは、便秘や肥満、糖尿病、うつ病やアレルギー、さらにはがんといった、健康面に幅広い影響を与え、病気の予防や改善につながることが近年わかってきたため、話題になっているそうです。
[sc:アドセンスレスポンシブ ]腸内フローラを作る細菌 3つの種類
腸内フローラを作る細菌には、次の3つの種類があります。
悪玉菌 有毒物質を出す。
日和見菌 腸内の環境によって善玉にも悪玉にもなる。
善玉菌を悪玉菌よりも優位に保つのが、理想的な腸内フローラだと考えられているそうです。
腸内フローラを良好に保つため、私たちが日頃行っていることには、ヨーグルトや乳酸菌飲料、そして納豆やキムチなどの発酵食品、さらに野菜などに含まれる食物繊維を食べることが挙げられます。
しかし、従来とは全く違う方法で腸内フローラを改善する最新の画期的治療法があるというのです!
「便」を移植して腸内フローラを改善!
なんと、「便移植」により、腸内フローラが劇的に改善すると言います。
全国に先駆けて「便移植治療法」に取り組んでいるのが、順天堂医院消化器内科の石川大助教(40歳)です。世界でも始まったばかりというこの治療をいち早く取り入れた、臨床研究のパイオニアだそうです。
便移植とは?
便移植は、文字通り、健康な人の便を様々な不調に苦しむ患者に移植して、病気を改善させるという画期的な治療法で、世界的にも注目され、研究されているそうです。
ある「潰瘍性大腸炎」患者の例
大分県のIさん(56歳女性)は、8ヶ月前に便移植を受けました。それまでは立つことも困難で、横になって過ごす時間が多かったそうです。「なぜこんな思いをしないといけないのだろうと思い、とても辛かった」と振り返ります。
7年前のIさんは、家では夫と息子のため家事を、昼間は介護のパートに励んでいました。忙しくも充実していたと言います。しかしある日、仕事中に突然の腹痛と強烈な便意に襲われます。下痢の症状です。それでも、これまでも月に1-2度は下痢の症状があったため、深刻に考えなかったそうです。
しかしこれが、恐ろしい病気の初期サインでした。1週間たっても腹痛は止まず、1日に3-4回という下痢に苦しみます。体のだるさもあり、熱を測ると38℃を超えていました。
そこでIさんは、かかりつけの内科を受診しますが、「お腹に来る風邪」と診断され、解熱剤を処方され、安静にするように言われました。その後、薬のおかげで熱だけは下がったものの、腹痛と下痢は治まることはなく、「胃腸の弱さとずっとつきあっていくしかないのか」とあきらめの境地にもなったと言います。
どれだけたっても症状が治まらないばかりか、さらに激しい腹痛に見舞われることになり、トイレに駆け込むと粘液状の血便が出ていました。
この度は胃腸科を受診し、大腸の内視鏡検査を行ったIさん。その結果、大腸の壁が広範囲に渡ってただれる「潰瘍性大腸炎」だと診断されました。安部首相も患った病気ですね。Iさんは、即入院しました。
①突然の腹痛
②下痢
③熱がある
④普段よりさらに激しい腹痛
⑤粘液状の血便
潰瘍性大腸炎とは
潰瘍性大腸炎は、免疫システムが何らかの異常を起こし、免疫細胞が大腸を攻撃します。それで腸の壁が炎症を起こし、「びらん」や潰瘍ができる仕組みだそうです。発症する原因はわかっていないそうで、厚生労働省により「特定疾患」、つまり難病に指定されています。
正常な人の大腸と比べ、腸壁全体が赤くただれ、出血もおこしていることがわかります。
たけしのみんなの家庭の医学より
潰瘍性大腸炎になる人は増加傾向にあり、今では約17万人に上っています。日本人の食生活の欧米化などが関係していると考えられているそうです。
たけしのみんなの家庭の医学より
発症の原因がわからないため、完治させる治療法が見つかっていないとのことです。症状を抑える薬はあるものの、その効き方は個人差が大きく、もし重症化すると大腸を全摘出しないといけないこともあるそうです。大変恐ろしい病気ですね!
[sc:アドセンスレスポンシブ ]潰瘍性大腸炎と診断された後のIさん
Iさんは、1ヵ月後には症状が落ち着いて退院し、職場にも復帰します。しかし退院から2週間後、また激しい腹痛と便意が戻ってきました。そして昼も夜もなく、回数は増え続けました。ついには、お年寄りを送迎する車の中で急な便意を催し、車を止めて見ず知らずの家でトイレを使わせてもらうことに。
「病気うんぬんではなく、何をやっているのだろうと恥ずかしく悲しい気持ちだった」とIさんは振り返ります。
退院から1年後には、なんと1日20錠もの薬を飲むようになっていましたが、それでも1日に20回もトイレに駆け込む日もあったそうです。激しい下痢で、発症から2年で体重は52kgから40kgへと減少したといいます。こうしてIさんは6年間で3回、入院することになります。
今から1年前、Iさんは職場の同僚から「腸の難病治療に便移植で挑む」という、順天堂医院の石川助教の記事を見せられました。Iさんは便移植を決意し、健康体である妹から便の提供を受けて治療に臨みました。治療はわずか40分で、入院の必要もありません!体への負担が少ない治療だということがわかります。
便移植から4時間後のこと、Iさんと妹が大分に戻ろうと空港に向かっていたとき、すでにお腹に全く痛みも不快感もないことに気づいたそうです。7年間苦しんだ腹痛が、一気に解消したのです!半年後、薬をやめても下痢や腹痛はもうなく、健康な毎日を送っているといいます。
便移植とはどんな治療か
健康な人の便の中からバランスのよい腸内細菌を抽出し、病気の人の腸に移すというものです。潰瘍性大腸炎の患者は、腸内フローラのバランスが乱れているケースが多いのですが、アメリカやフランスでは、便移植により腸内フローラが一新し、症状が改善した報告が多数あるのだそうです。
石川助教の便移植手順
①健康な人の便を、生理食塩水で溶かす
②それをフィルターでろ過し、繊維質などの不要な固形物を取り除く これでバランスのよい腸内細菌が集まったものが採取できます。この中には1兆個もの細菌がおり、生きているものも多いのだそうです。
③患者の肛門から大腸内視鏡を入れ、一番奥の「盲腸」まで到達させる
④便の液を内視鏡の鉗子口に差し込み、腸の奥に400ccの便汁を投与する
たけしのみんなの家庭の医学より
この便汁が大腸内を通り過ぎることにより、バランスのよい腸内フローラが大腸に住み着き、腸内フローラが改善します。
実際の便をそのまま移植するのではないということがわかり、ほっとしました!
石川助教の臨床研究では、これまで40人が便移植を受け、7割超で症状が改善しているそうです。国の認可を受けられるよう、臨床研究を続けていくとのことですが、新患の受け入れは現在未定だそうです。
「便移植を受けたい、もっと知りたい」と思った方も多いと思うので、順天堂医院消化器内科の石川大助教の臨床研究に関するウェブサイトを探してみました。こちらのページです。
http://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/shokaki/kanja06.html
「糞便移植療法」は、悪玉菌を除去するための「抗菌剤内服療法」と並行して行われることが多いようです。
番組では「新患の受け入れは現在未定」と報じられていましたが、石川助教の臨床研究のウェブサイトによると、問い合わせは受け付けているようです。
また、番組では石川助教が「パイオニア」と紹介されていましたが、順天堂医院消化器内科以外で、国内で他にも行っているところがないか調べました。
臨床研究を行っている機関として、次のようなところが確認できました。
千葉大学医学部付属病院
http://www.ho.chiba-u.ac.jp/frontier/frontier06.html
慶応義塾大学医学部消化器内科
http://www.keio-med.jp/gastro/news/2015/10/000240.html
藤田保健衛生大学病院
http://www.fujita-hu.ac.jp/HOSPITAL1/advanced-medicine/14_54fe7b8a65a5a_5609fcc306ef0/index.html
滋賀医科大学滋賀医科大学医学部附属病院消化器内科 炎症性腸疾患センター
http://www.shiga-med.ac.jp/hospital/doc/department/department/digestive_int/
なお、京都健康クリニック(http://www.kyotoclinic.jp/menu/)でも実施されており、腸内フローラ移植(糞便移植)の料金表まで載せてありました!88万円から120万円とのことです。
『今、さまざまな病気から腸内細菌の乱れや、特定の種が見つかってきている。近い将来、さらに腸内細菌のことが解明されれば、今は想像もできないような治療が確立される可能性を感じている』
と、石川助教は語ります。
便移植についての疑問
Iさんの場合は非常によく効いたケースで、効果が出るまでの時間には個人差があるとのことで、平均では移植から1-2週間で腸内フローラが改善するそうです。
誰の便でもいいのか?
〇20歳以上
〇感染症や寄生虫などがない
〇患者が認めた人
という条件を設けているそうです。以前は患者にストレスをかけないため「2親等以内」としていたそうですが、安全性が確認されてからは、患者が認めればドナーになれるそうです。
使われる便は、「フレッシュでなければならない」という条件があります。便1gに100億個の腸内細菌がいて、空気に触れるだけで細菌が変化してしまうそうです。特に「嫌気性菌」は空気に触れると死滅してしまうので、長期保存や冷凍保存した菌では移植がうまくいかないと考え、排便6時間以内の便で移植を行っているそうです。
潰瘍性大腸炎以外にも効くのか?
アメリカでは自閉症やうつ病の患者への便移植が研究されているそうです。ラットを使った実験では、便移植で腸内細菌を変えることで、性格が積極的になったそうです。
痩せ型の人の便を移植したらダイエットできるかという研究も進んでいるそうです。メタボや糖尿病(Ⅱ型)患者は腸内細菌が乱れているのではないかと考えられていて、腸内細菌を変えることにより、改善する可能性が秘められているとのことです。
まとめ
これまで原因がわからないので治療法がなかった難病も、この「便移植」により完治する可能性が出てきたということで、Iさんのように長年苦しみ続けている方には朗報です。また、うつや自閉症、ダイエットなど幅広い体の不調にも応用ができそうということで、さらなる研究の広がり・深まりに期待したいですね!