多くの人を悩ませている「便秘」。
厚生労働省の国民生活基礎調査によれば便秘で悩む人は500万人以上もおり、その7割以上が女性なのだそうです。
お腹が張った感じに悩まされるのも苦痛ですが、症状がひどくなると吐き気や呼吸困難まで引き起こされるといいます。
そんな事態を避けるために、便秘の解消法や便秘を改善してくれる特製ドリンクなども紹介されていたNHK『チョイス』をまとめておきたいと思います。
下剤で大腸内が黒くなる?
Iさん(50代女性)は20年以上前から便秘に悩まされてきました。きっかけは出産で、以来毎日のように下剤を飲んでいたそうです。
はじめのうちは市販薬でお通じが来ていましたが、飲んでもお通じが来ない日が少しずつ増えていき、気づけば10年以上、通常の3倍の量を毎日服用していたそうです。
これがIさんを苦しめることになってしまいます。
いつの頃からか残便感や吐き気を感じるようになってしまったIさんは便秘の専門外来を受診。大腸内視鏡検査を受けてみると…
チョイスより
粘膜が全体的に黒ずんでしまっています。
この状態は大腸メラノーシス(大腸黒皮症)と呼ばれるもので、アントラキノン系の下剤を長期間飲んでいたことにより引き起こされました。
診断した松生恒夫医師によれば
「便秘が原因で内視鏡検査を受けた人の4%に大腸メラノーシスが出ている」
そうで、患者には半年から1年以上毎日アントラキノン系の下剤を連用しているという共通点があったそうです。
[sc:アドセンスレスポンシブ ]どうして粘膜が黒ずんでしまったのでしょうか。
正常の場合、食事をとって胃が活動を始めるとそれが大腸に伝わり、大腸はぜん動運動を行います。これによって大腸内の便が下っていき、一定量が直腸にたまると脳に信号が伝わって便意を感じるのです。
しかし便秘の人の場合は何らかの原因でぜん動運動が弱まってしまっているため、便が大腸内にとどまり、排便が少なくなってしまうのです。
そこで下剤を飲むことによって強制的に大腸の粘膜を刺激してぜん動運動を起こし、排便を促すのですが、アントラキノン系の下剤を大量に長期間服用すると、免疫細胞が下剤を異物と認識し、取り込んでしまうことで粘膜の中から動けなくなってしまい、免疫細胞が次々に死んでしまうというのです。
腸内が黒ずんでいたのは、死んだ免疫細胞が蓄積した姿だったのです。
さらに、下剤の連用はぜん動運動自体を弱めることもあるそうです。
松生医師によれば
「アントラキノン系の下剤の成分が入り込んで腸の神経の動きを悪くしてしまう。結果、服用をやめると便が出なくなる」
のだそうです。
アントラキノン系の下剤は「センナ」という生薬として、古くから飲まれていました。
下剤に用いられる生薬は他にもダイオウ、アロエ、カスカラなどがあり、それらの成分表示は「大黄甘草湯」や「センノシド」などとされています。
毎日飲まなければ異常がでることはないそうなので、どうしてもお通じがないときに頓服で飲むことを心がけてください。
Iさんはその後、専門医院の治療で便秘が改善しました。
チョイスより
しっかりと治療すれば、腸を元通りにすることも可能なんですね。
便ではないものが溜まってしまうタイプの便秘
Nさん(60代男性)は1年前からひどい便秘になってしまいました。
以前は1日に1回は排便がありましたが、次第に3日か4日に1回になってしまい、便の硬さも増したために苦しさを感じるようになってしまったそうです。
日常生活にも支障が出てきていました。
常にお腹が張った感じがあって集中力が低下し、
「食事をしたら今よりも便がつまってしまうのではないか」
と考えてしまうことで食欲も低下してしまいました。
悩みが膨らみ続けていたある日、とつぜん「心臓が止まるんじゃないか」(Nさん談)というくらいの息苦しさに襲われ、1週間入院することとなりました。点滴で排便を促した上で3日間絶食することによりようやく排便し、退院したそうなのですが、便秘自体は一向に改善しなかったため入退院を繰り返すことになってしまいました。
その結果、40年以上続けてきた仲卸のお仕事を退職せざるを得なくなってしまったそうです。
事態を重く見たNさんが4回目の退院直後に精密な検査を受けてみると、意外な事実が判明しました。
X線画像を見てみると…
チョイスより
大腸にびっしりと便が詰まってしまっているかと思いきや、赤い丸印のところにわずかにあるだけでした。
なんとNさんの便秘は、「腸内ガス」が充満することによる便秘だったのです。
「腸内ガス」というのは、半分は食事の際にのみこんだ空気で、残り半分は腸内細菌がつくりだすメタンや水素などで構成されています。
食事の際にのみこむ空気は食べ物と同じくらいの量を飲み込んでいるそうで、多い人になると食事の3倍もの量の空気をのみこんでしまっているそうです。ゲップをうまく出せない人は特に腸内に溜め込んでしまう傾向があるそうです。
一方、腸内細菌がつくるガスは、腸内細菌の活動によって1日50リットルほどもつくられているそうです。
これらをオナラとして排出できないのは、オナラを出す動きを司っている細胞の機能が何らかの理由によって低下してしまっているためであると考えられているそうですが、基本的には、様々な要因が折り重なってうまく排出できなくなってしまうものなのだそうです。
Nさんの場合は胆石があったので、これも一因と見られています。
腸内ガスが充満するタイプの便秘は、放っておくとガスが溜まって大腸内の壁が緩み、外に膨らむことによって生じる「大腸憩室」ができやすくなるそうです。
これが割れてしまうと命に関わるので、「ただの便秘」と油断せずに病院を受診するようにしましょう。
ガス抜きの方法
番組では腸内にたまったガスを抜く方法が紹介されていました。
便秘の方はぜひ試してみましょう。
ガス抜きの方法は、ずばり「ごろ寝」です。
チョイスより
堅い床の上をゴロゴロするだけで、腸内のガスを排出することができるのです。
腸は腹の中で複雑に曲がりくねっていて、曲がり角のところはガスが溜まりやすくなっています。また、ガスは軽いため立ったり座ったりしているだけではなかなか下に降りていかず、排出できません。
そこで、うつ伏せに寝てお腹に体重をかけることで圧迫し、さらにゴロゴロと転がることでガスを移動させて、おならとして排出することを促すのです。
ガスが抜ければ大腸のぜん動運動は活発になり、排便しやすくなります。
Nさんは、ごろ寝運動を始めてから数日で効果を実感できたそうです。
治療前と治療後のX線画像を見比べてみると…
チョイスより
黒く写っていたガスが減っていることがわかります。
目安は1日1回です。
まず床の上で10分間、うつ伏せのままでいましょう。
10分経ったらそのまま左右に転がる動きを5回以上行います。こうすることでガスを効率よく移動させることができます。(腰痛でうつ伏せがつらい場合は横向きでも可。)
布団の上などの柔らかい場所だと腹部を圧迫しにくく、腰にも負担がかかるそうなので、畳の上などがオススメです。枕やボールをお腹の下にいれて行うとより効果的だそうです。
この運動は、特に起床後や寝る前にやると良いそうですが、入浴後や冷たい水仕事の後などの自律神経が刺激された後もオススメだそうです。
ただし、食後すぐに行うと食べたものが食道に逆流するおそれがあるため、やめるべきだそうです。
番組に登場した東邦大学医療センターの瓜田純久医師によれば、逆立ちや縄跳び、ウォーキングもガス抜きに効果的だそうです。
例えばウォーキングをすると大腸の動きが1.5倍速くなり、口から取り込んだ空気が肛門に到達するまでの時間も50%ほど早くなるそうです。
便秘にさつまいもは逆効果?
Sさん(70代男性)は半年前に便秘になってしまいました。
かかりつけ医に処方された下剤を飲んでいると今度は下痢になってしまったため服用をやめたのだそうですが、するとまた便秘になってしまったのです。
そうして便秘と下痢を繰り返す日々に考えこんだSさんは、食べ物に注意するようになりました。
お通じが良くなるイメージから「さつまいもを食べればよくなるだろう」と考え、毎日必ず1本食べることを1週間続けたそうです。
しかし、これは逆効果でした。
実はさつまいもは、便秘の「予防」には効果があっても「治療」には逆効果なんだそうです。
というのも、食物繊維には不溶性と水溶性があります。
チョイスより
さつまいもは不溶性の食物繊維を多く含んでいるので便のもとをつくるには有効ですが、便秘中にはかえって便をつまらせてしまうことがあるそうです。
便秘中に摂るべきなのは水溶性の食物繊維で、こちらは大腸で腸内細菌に分解されて腸の状態を整えたり便を柔らかくしたりする作用があるので、排便を促してくれます。
ちなみに、普段の食事で摂るべき食物繊維の理想的な割合は「不溶性1:水溶性2」だそうです。
たくさん食べるのが大変、という場合は温野菜にしてみてください。見た目の量が減りますし、繊維自体も消化しやすくなるそうです。
便秘に効くドリンク
瓜田医師によれば、牛乳とハチミツ(または人工甘味料)を混ぜたドリンクが便秘に効くそうです。
牛乳は多くが消化されないまま大腸に届き、排便を促します。はちみつも消化吸収されにくく、長くとどまるので大腸内の水分量を増やしてくれるのです。
量の目安は、牛乳「100〜150ml」とハチミツ「スプーン1杯程度」で、空腹時に飲むと効果的だそうです。
ちなみに、牛乳を飲んでお腹がごろごろする量は個人差が大きいので、お腹がゆるくなり過ぎない分量を探ってみてください。
便秘が示す大病の兆候
便秘は長く続くことよりも、“変化”に目を向けるべきだそうです。
例えば薬の量を増やしても効果が出なくなったり、便のにおいが変わったり、便通の時間が変わったり、便の量や太さが変わったりすると、「大腸がん」の検査などが必要になってきます。
「糖尿病」の可能性もあります。
糖尿病は神経障害を起こすことがあるので、大腸の動きをコントロールする自律神経の不調が引き起こされ、大腸のぜん動運動が鈍くなって便秘になるのです。
また「大腸ポリープ」による便秘という場合もあります。腸の内側に出来たポリープが大きくなると便の流れを邪魔してしまうので、便秘になるのです。
女性なら「子宮筋腫」による便秘も考えられます。筋腫が握り拳程度にまで大きくなると、外側から腸を圧迫して便秘を起こすこともあります。
たかが便秘とあなどって放置していると、これらの大病が進行しているかもしれません。「いつもと違う」と感じた時こそ、便秘専門の外来や消化器内科を受診しましょう。
[sc:アドセンスレスポンシブ ]便秘に関するあれこれ
・病院で処方される下剤
医療機関で処方される下剤は基本的に酸化マグネシウム系の飲み薬だそうです。
こちらは大腸内に水分を呼び込んで便を柔らかくする作用があり、価格は1日あたり10円ほどです。
最近は、新薬の「ルビプロストン」も処方されています。
こちらの作用は酸化マグネシウムと同じですが、大腸ではなく小腸に働きかけるため腹痛が起こりにくいのだそうです。ただし1日あたり95円ほどの費用がかかります。
・便秘の定義
意外にも、週に3回排便があれば正常である、という定義なのだそうです。これを下回ると便秘とされます。
ただし、毎日出てもサッパリしないとか、お腹が張ってる感じがする、という人も便秘ととらえられているそうです。
・男性の便秘
先述の通り、便秘で悩む人のうちの7割が女性です。
しかし、年代別の患者数を見てみると…
チョイスより
年を経るに連れて男性患者が増えていき、80代になると女性を追い抜いてしまいます。
人間の食事の摂取量のピークである60歳あたりを過ぎると食事量が減り、中身も低カロリーのものになります。それに加えて身体の活動量の減少によって食べたものが肛門の近くに行くまでに時間がかかるようになってしまいます。
すると便は長い時間腸内に留まって、どんどん水分が吸収されることで固くなり、ますます出にくくなってしまうのです。
また、おしっこをあまり出さないように、という配慮で水分を控えることも、便を固くすることにつながってしまうのだそうです。
まとめ
今回のお話の中で一番覚えておくべきなのは、「便秘の“変化”に注目する」という点だと思います。
便秘という症状の特性上、病院に行くのが恥ずかしいという思いもありますが、大病が潜んでいたら大変です。
少しでも気になることがあればすぐに病院を受診するようにしましょう。