私たちの体内を絶え間なく流れ続ける血液。
生命の維持に必要なものを全身に運ぶ役割を果たしていますが、なんらかの原因で一部が固まってしまうこともあり、その塊を「血栓」と呼びます。
血栓は小さければ問題ありませんが、知らないうちに成長して大きくなり、血流にのって心臓に到達して血管をつまらせると心筋梗塞を引き起こしてしまいます。あるいは脳に流れていって血管をつまらせてしまうと、こちらは脳梗塞を引き起こしてしまいます。
これらの血栓を原因とする重篤な病気によって、1年に約10万人が命を落としているといいます。
しかし!
あることを毎日続ければ、血栓を溶かしやすい身体にすることができるというのです。
今回は、血液の力を最大限に引き出し、重篤な疾患のリスクを下げる方法について具体的に紹介していたNHK『ガッテン!』をまとめておきたいと思います。
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ここまで大きくなる!
下の画像に映っている黒くて丸いものはクルミ大のおおきさがあるのですが、実際の成長した血栓と同じ大きさなんだそうです。
ガッテン!より
最初はちいさな塊でも、いつの間にかここまで大きくなってしまうこともあるのです。
「こんなに大きい塊が、血管を通れるのか…?」という驚きは禁じえませんが、もとは心臓の心房という場所にあったものだそうです。
ガッテン!より
真ん中あたりに大きく白く映っているのが血栓です。
これが心臓から飛び出してしまえば、どこかにつまって大変なことになることは想像に難くありませんね。
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気持ち次第で血が固まりやすくなる?
気づかないうちに、こんなに大きくなってしまうこともある血栓。
番組に登場した浜松医科大学の浦野哲盟教授によれば、「血液が固まって血栓ができる現象は、誰の身にも、日常的に起こっている」そうです。
“血栓ができる人は、動脈硬化が生じていたり血液がドロドロになっていたりする人”というイメージもありますが、ある状況に陥ると誰でも血液が固まりやすくなるのだそうです。
番組では、被験者に“ドッキリ”をしかける実験で、血液が固まりやすくなる様子を科学的に可視化していました。
内容は、被験者がニセの番組収録を終えてから控室に戻ると部屋にライオンが待っていたり、夜の廃病院に一人で行かされたりなど、「恐怖心」や「ストレス」を被験者にかけさせるドッキリでした。
これらを仕掛けられた直後の被験者の血液の固まりやすさを、専用の装置をつかって検査します。
ドッキリ前(左側)とドッキリ後(右側)の血液を見比べてみると…
ガッテン!より
矢印の方向に血が流れています。
ドッキリ後の血は、細い隙間や壁に塊のようなものが増えているのがわかります。血液自体が固まって、血栓を作っているのです。
装置で調べてみると、30%ほど血液の固まりやすさが上がっていたそうです。
このドッキリの実験で示しているのは、「人間は恐怖やストレスを感じると血が固まりやすくなる」という事実です。
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血栓をつくる物質の正体
では、いったい何が血を固まりやすくさせているのでしょうか。
その正体を説明するため、番組では蛇毒(へびどく)研究室という施設を取材していました。
なんでも、ヤマカガシという蛇の毒には噛み付いた相手の身体に巨大な血栓を作る能力があるというのです。
ヤマカガシは日本に広く生息する代表的な蛇の一種です。性格はおとなしいためめったに攻撃をしませんが、持つ毒の毒性はマムシの4倍、ハブの8倍もあるそうです。
ためしに、採取した人間の血液にヤマカガシの毒を注入し、体温と同じ温度で保温すると、40秒後には血が固まってしまっていました。
固まった血を電子顕微鏡で見てみると…
ガッテン!より
赤いものは赤血球、ピンク色のものは血小板です。絡みついている網目状の白いものは「フィブリン」という物質です。
このフィブリンという物質が、赤血球や血小板を集めて血栓をつくるのです。
フィブリンはもとから私たちの血管の中に存在し、血管に損傷がないかなどを監視しています。包丁で指を切ったりすると、血管の破れた箇所にカバーをするようにして止血してくれる、私たちの生命の維持に必要不可欠な存在なのです。
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生存競争のカギを握っていたフィブリン
そんなフィブリンですが、私たちが恐怖やストレスを感じたときにも活性化する性質があるため、ドッキリの実験後にも血液が固まりやすくなってしまったのだそうです。
われわれ人類の祖先が、自分たちよりも強い野生の動物と闘っていた太古の昔。生傷の絶えない壮絶な生活のなかで、人間は驚くべき進化を遂げました。
人間の身体は、たとえば巨大なマンモスなどと向い合って「恐怖」や「興奮」などのストレスをかかえると、「これからケガをして血管を損傷する可能性がある」と察知し、ケガをする前から血を固める準備をはじめるようになったのです。
血液の専門家である帝京大学医学部の川杉和夫氏は「血が早く止まって戦闘にすぐ復帰できる人が生き残った。それが遺伝して、恐怖などを感じたりすると血が固まりやすくなっている。」と話していました。
これは「うれしい驚き」の状態でも起こることなので、アメリカではクリスマスの時期に血栓で病院に運ばれる人が増加するそうです。
生命の奥深さを感じる現象ですが、ストレスを多く抱える現代人にとっては大問題ですよね。
とくに肥満ぎみの人は要注意です。肥満の人は血管に炎症が起きていることが多いため、フィブリンが必要以上に働いてしまうそうです。
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血栓を溶かす秘策
さて、ここまでの情報から、血栓が出来てしまうのはある程度仕方のないことであることがわかりました。
ここからは、出来てしまった血栓を溶かす物質について見ていきましょう。
医療現場で使われているt-PAという物質があります。正式名称をティシュー・プラスミノージェン・アクティベイターといいます。
これは脳梗塞の治療に革命をもたらした物質で、脳の血管に血栓が詰まった直後であれば、血栓を溶かして後遺症を防ぐことができる特効薬です。
脳梗塞が発症してから4時間半以内に投与すれば、ほとんどのケースで後遺症が残らないそうです。
番組の取材中、80代の男性が脳梗塞で緊急搬送されました。
MRIで検査すると…
ガッテン!より
直径3ミリの血栓が脳の血管を塞いでしまい(丸印のところ)、その先の血管に血液が届いていません。
ガッテン!より
赤い部分が、本来は血液が流れているべき血管の位置です。
このままだと血が届かないところにある脳細胞は死んでしまい、深刻な後遺症が残る恐れがあります。
こういうときにt-PAが投与されます。
投与しておよそ8時間後、男性は動かせなかった指先まで自由に動くようになりました。
ガッテン!より
画像ではちょっと見づらいかもしれませんが、血管に血液がちゃん流れています。
このような薬が開発されたことはとても嬉しいことですが、できれば緊急搬送される前に血栓を溶かしておきたいものですよね。
そこで“血栓の溶けやすい身体”にする方法の紹介です。
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運動すれば、血栓は溶ける
先に登場した浜松医科大学の浦野哲盟教授によれば、t-PAは人間の身体の中でつくられていて、ふだんから血管の中を流れている物質なのだそうです。
血管の内側にある「血管内皮細胞」でつくられ、いらない血栓ができるとすぐに溶かしてくれているそうです。
ということは体内のt-PAを増やせば、血栓が巨大化しにくい身体を手に入れることができますよね。
そこで、t-PAを増やすために浦野氏が推奨していたのが「運動」です。
1日30分の有酸素運動を行いましょう。
息のあがらない程度の散歩など、軽いものでOKだそうです。外に出るのが面倒な人は、屋内で音楽などに合わせながら30分間足踏みするだけでも効果はあるそうです。
これを被験者が3週間続けると全員、血栓の溶けやすさが上がっていました。
運動によって血流が増えると血管の内側が刺激されて、t-PAが元気に働くようになるため、このような変化が現れるのだそうです。
運動は継続していく必要がありますが、継続すれば確実に、不必要な血栓だけを素早く溶かせる“健康な血液”を手に入れることができます。
ちなみに、重い負荷をかけた自転車こぎのようなハードな運動(最大心拍数が200を超えるような運動)を15分間行うと…
ガッテン!より
血栓を溶かす力は21倍にまではね上がりました。
素晴らしい成果ではありますが、これは一過性のものだそうです。
一方で有酸素運動を継続すれば溶かす力をアップし続けられるので、「かるい有酸素運動を30分」の方を浦野氏は推奨していました。
運動するタイミングはいつでもいいそうですが、血栓がかたまりやすい午前に運動するのもひとつの方法です。
ただし、寝起き直後には体内の水分が減っていたり、血圧が高くなっていたりなどするため、起床後にコップ1杯の水をしっかりととって、1時間程度経ってから運動を行うほうが安全だそうです。
・エコノミークラス症候群の予防に応用する
大地震の被災地などでもたびたび問題となるエコノミークラス症候群。
避難所や車中などの身体が自由に動かせない状況では血行が悪くなりがちで、フィブリンは血行が悪くなるほど過剰に働く性質があるそうです。そこに余震の恐怖などのストレスも相まって、いつも以上に血栓が出来やすい身体になってしまいます。
こうした状況下でエコノミークラス症候群の発症を予防するためには、可能な限り歩くようにしましょう。歩けない場合は、床に座って足を伸ばし、つま先を上下に動かしてふくらはぎを運動させるだけでも、フィブリンの働き過ぎを抑制することができるそうです。
寝るときには、タオルなどを足の下に置いて、少しでも足を高くして寝るようにしてください。
ちなみに、血液型によって血栓塞栓症(血栓による詰まり)のリスクに違いがあるとスウェーデンとデンマークの共同研究グループが発表しています。
延べ1,360万人にも及ぶ追跡調査で、O型の人はO型以外の人に比べて血栓塞栓症のリスクが低いそうです。このことが私達日本人にも当てはまるとしたら、A型、B型、AB型の人にとっては運動などの血栓対策がより一層重要ともいえそうです。
まとめ
人生の中で「血栓」を意識する機会はほとんどありません。
にも関わらず、いざその存在を知るときは、脳梗塞や心筋梗塞を発症してしまったときとなるわけですから、「30分の軽い運動」から逃げるわけにはいきませんね。
体重を1キロ減らすだけで血栓を溶かす力は2割もアップするそうです。運動を「血栓溶かしとダイエットの一石二鳥」ととらえて、ちょっとだけ頑張ってみましょう。
ふだん運動していない人ほど効果が大きいそうですから、ぜひ実行してみてくださいね。