虫垂炎(盲腸)の早期発見と治療法~チョイスより

15人に1人が発症する急性虫垂炎(盲腸)。おなかの痛みや発熱をともなう病気はたくさんあるので、急性虫垂炎とは気がつかずに病院へ行くのが遅れて重症化してしまうことも…。
先日の『チョイス』では、急性虫垂炎の特集をしていました。島田長人先生(東邦大学医療センター大森病院、教授)が虫垂炎の対策、薬による治療、手術の方法などについて説明していました。

 

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急性虫垂炎はどうして盲腸と呼ばれているのか?

虫垂は、大腸の端の盲腸の先から垂れ下がっている、5cmから7cmぐらいの細長い臓器です。

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チョイス@病気になったとき「あなたの知らない盲腸/虫垂炎」より

虫垂がどのような働きをするのかは、はっきりとは分かっていないそうです。ただ、虫垂は腸の中でもリンパ組織が多い部分なので、免疫機能の役割を果たしているのではと考えられているとのことです。
一般的に盲腸と呼ばれている病気は、実は盲腸の近くにある虫垂が炎症を起こしたもので、正式には「急性虫垂炎」という名前がついています。昔、手術のために開腹したところ、炎症を起こした虫垂が盲腸に張り付いていたので、医師は盲腸が炎症を起こしていると判断したことがあったそうです。それで、虫垂炎が盲腸と呼ばれるようになったと番組では説明をしていました。

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ウィキペディア「盲腸」より

 

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急性虫垂炎の原因

虫垂炎は、虫垂と大腸をつなぐ部分が何らかの原因によって詰まり、虫垂にウイルスや腸内細菌が繁殖して炎症を起こした状態です。
虫垂と大腸をつなぐ部分を詰まらせる原因の1つは、ふん石(石灰化して硬くなった便)だそうです。また、虫垂のリンパ組織がむくんで、虫垂と大腸のつなぎ目が詰まることもあります。さらに、アレルギーが原因というような説もあり、虫垂炎の原因を1つに特定することはできないと島田先生は説明していました。

急性虫垂炎の痛み

急性虫垂炎によるおなかの痛みには、「内臓神経」「体性神経」の痛みがあるそうです。

内臓神経の痛み

急性虫垂炎の初期は、みぞおちから胃のあたり(はっきりと痛みの場所を特定するのは難しい)に、チクチク、ズキズキというような鈍い痛みを感じます。これが、内臓神経の痛みです。これは虫垂の内側が炎症を起こしているために起こります。内臓神経の痛みには波があり、体を動かすと痛みが少しやわらぐとのことです。
番組で紹介されていた急性虫垂炎の経験者Aさん(34歳、男性)は、痛みを我慢するために一晩中ベッドで足をバタバタとさせていましたが、内臓神経の痛みを抑えるためには一定の効果がある行動だったようですね。もちろん、痛みを我慢せずに病院へ行くのが正しい選択だったのですが…。

体性神経の痛み

炎症が虫垂の外側に広がると、右の下腹部(場所の特定が可能)に鋭い痛みを感じるようになります。これは、体性神経の痛みです。体性神経の痛みは激しく、痛みで動くことができなくなるそうです。Aさんが、最初におなかの痛みを感じてから1週間後に、我慢の限界に達して病院に行くことを決断したときには、あまりの痛みに足に力が入らなくなったと話していました。

 

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おなかの痛み以外の急性虫垂炎の症状

おなかの痛み以外にも、急性虫垂炎にはいくつかの症状があります。

まず、腸の病気なので食欲不振になります。また、吐き気を感じ、おう吐を数回することもあるとのことです。そして、炎症によって発熱もします。熱は、37度~38度ぐらいの場合が多いそうです。ただ、腹膜炎を起こしているなど、症状がかなり進行している場合は、39度以上の高熱が出ることもあると島田先生は説明していました。
さらに、急性虫垂炎になると、虫垂とつながっている腸の働きが悪くなるので、便秘になります。Aさんは、急性虫垂炎と診断される前に、近所の病院でおなかの痛みの原因は便秘だと診断され薬を処方されました。もちろん、Aさんの便秘は急性虫垂炎によるものだったので、処方された薬を1週間飲んでも、便が出ることはありませんでした。

急性虫垂炎が原因で下痢になることはあまりないとのことです。けれども、虫垂から流れ出た膿が骨盤に溜まってしまうと下痢になります。下痢になるということは、虫垂炎がかなり進行している状態だそうです。

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チョイス@病気になったとき「あなたの知らない盲腸/虫垂炎」より

 

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急性虫垂炎を早期発見する方法

急性虫垂炎の初期症状であるおなかの痛みや発熱を、風邪や胃腸炎の症状だと勘違いしてしまう人は多いとのことです。また、大腸の壁の一部(憩室)が外側へ袋状に突き出て炎症を起こす憩室炎や卵管炎など、急性虫垂炎と同じような症状の病気はたくさんあります。
急性虫垂炎を早期発見するには、症状そのものではなく、症状の経過に注目すると良いそうです。
島田先生が紹介していた急性虫垂炎の症状の経過のポイント3つをまとめておきます。

1.おなかの痛みが、みぞおちや胃の周辺から右の下腹部に移動した。
2.おなかが痛くなったあとに、吐き気やおう吐があった(おう吐の後に、おなかが痛くなった場合は虫垂炎の可能性は低い)。
3.右の下腹部を押すと痛みを感じる。

この3つのポイントのうち、どれか1つでも当てはまる場合は、すぐに病院へ行くことが重要だそうです。

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チョイス@病気になったとき「あなたの知らない盲腸/虫垂炎」より

急性虫垂炎は、時間の経過とともに悪化していきます。初めは、虫垂が炎症を起こしているだけですが、放っておくと、だんだん虫垂の中に膿が溜まっていき、虫垂の壁が破れて、膿がおなかの中に漏れ出てしまいます。さらに症状が進むと腹膜炎を引き起こしてしまうので、とにかく早く病院で治療を受けることが大切です。

また、急性虫垂炎が早い段階で発見されれば、いくつかの治療法の中から自分が希望するものを選ぶことが可能だそうです。

 

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急性虫垂炎の治療:薬

腹膜炎が発症していない初期の段階で急性虫垂炎の治療を受ける場合には、手術(外科的治療)ではなく薬(内科的治療)で炎症を抑えることもできるそうです。

Kさん(男性、41歳)は、おなかの痛みを感じてから1時間後に救急車で病院へ向かい、急性虫垂炎の診断を受けました。痛みを感じてからの行動が早かったので、薬で治療することができたそうです。Kさんは、1週間の入院で6日間は炎症を抑える抗菌薬の点滴治療を受けました。
急性虫垂炎を薬で治療する場合は、Kさんのように入院したほうが安全です。虫垂炎の初期(腹膜炎を起こしていない、白血球の数が変化していない)の場合は、外来の治療も可能とのことです。家庭や仕事の都合で入院が難しい場合には、通院治療を選択する人もいるそうです。

薬による治療のメリット・デメリット

虫垂炎の進行状況によっては、薬ではなく手術をしなくてはいけない場合もあります。また、島田先生によると、虫垂炎を根本的に治療するためには手術が必要とのことです。けれども、近年、抗生剤や抗菌薬などの質が向上しているので、薬で治療することが増えてきているそうです。ただ、全ての人に薬が効くわけではありません。薬の効き方には個人差があります。
虫垂炎を薬で治療するメリットは、手術に比べると体への負担が少ないことです。手術の場合は、4日間から10日間の入院が必要ですが、薬で治療する場合は、状態によっては通院治療も可能です(入院をしなくてはいけない場合もあります)。
薬による治療の最大のデメリットは、再発の可能性があることです。島田先生によると、急性虫垂炎を薬で治療した人の1割から3割が再発をしているというデータがあるとのことです。手術の場合、虫垂を取り除いてしまうので、再発はしないのです。

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チョイス@病気になったとき「あなたの知らない盲腸/虫垂炎」より

急性虫垂炎の治療:手術

急性虫垂炎の手術には開腹手術と腹腔鏡手術があります。
腹腔鏡手術は、へその内側に2cmほどの穴をあけ、その穴から腹腔鏡という小さいカメラをおなかの中に入れます。

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チョイス@病気になったとき「あなたの知らない盲腸/虫垂炎」より

そして、モニターでおなかの中を見ながら、器具を入れて虫垂をおなかの外に引っ張りだして切除します。

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チョイス@病気になったとき「あなたの知らない盲腸/虫垂炎」より

開腹手術に比べると腹腔鏡手術は、おなかの傷跡が目立たず、術後の痛みが少ないそうです。また、入院期間が短く、社会復帰も早くできると島田先生は説明していました。
ただ、全ての虫垂炎の手術が腹腔鏡でできるわけではないとのことです。患者の状態によっては開腹手術が必要な場合もあります。例えば、1度目の虫垂炎を薬で治療して再発をした場合には、薬で治療すると再発の可能性が高くなるので、医師は手術をすることを勧めるそうです。
また、腹腔鏡のスペシャリストがいない医療機関もあります。島田先生によると、現在、日本では急性虫垂炎の手術の5割から6割が腹腔鏡によって行われているとのことです。

手術の時期

急性虫垂炎は、緊急手術になる場合もありますが、抗生物質でおなかの中の膿を減らしたり、虫垂の炎症を抑えたりしてからの予定手術になることもあるとのことです。
例えば、Aさんは、虫垂が破れて膿が漏れ出る腹腔内膿瘍の状態でしたが、3か月から4か月かけて抗生物質で膿や炎症を抑えてから腹腔鏡手術を行ったとのことです。
しかし、虫垂が破れてしまい、膿がおなか全体に広がっているような場合は、緊急手術をしなくてはいけません。
この他、上記で説明したとおり、薬で治療をしても病状が良くならない場合は、手術に切り替えることもあるとのことです。

急性虫垂炎の予防法

発症の原因が明らかになっていない急性虫垂炎を予防するのは難しいそうです。けれども、虫垂は腸の一部なので、腸内のバランスを整えることが大切だそうです。そのためには、規則正しい生活を送ること、ストレスをためないこと、食べ過ぎや飲み過ぎをしない、疲れをためないことが、急性虫垂炎の予防につながるはずだと島田先生は説明していました。

mametisiki

島田先生は、医師や研修医向けに、腹痛の診断方法を、勤務先の東邦大学医療センター大森病院での症例をもとに解説した本を執筆しています。

腹痛診療に自信がつく本 (「ジェネラリスト・マスターズ」シリーズ 10)
島田 長人

まとめ

急速に医学が発達しているのにも関わらず、虫垂の役割がはっきりと分かっていないことや、虫垂炎には確かな予防法がないというのは驚きです。急性虫垂炎は、誰でも発症する可能性があります。もしものときには初期の段階で治療が受けられるように、島田先生が説明していた症状の経過のポイントをしっかり頭に入れておきましょう。


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