視線が怖い~社交不安症~ハートネットTVより

人と接するときに不安になったことは誰にでもあるはず。けれども、その不安が大きくなりすぎた場合は「社交不安症」という病名がつくのです。先日のハートネットTVでは、社交不安症について清水栄司先生(千葉大学大学院医学研究院・認知行動生理学教授)が解説をしていました。

 

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視線が怖いと感じる理由

「目は口ほどに物を言う」ということわざがあるように、視線にはいろいろなメッセージが含まれていることがあります。視線が怖いと感じる人たちは、視線が持つメッセージを深読みしてしまっていると清水先生は説明していました。
例えば、誰かと話をしているときに無意識に視線を向けた先に時計が……。話し相手に「早く話を切り上げたいのか」と思われたのでは?というような心配をしてしまうのが視線のメッセージを深読みするということそうです。

さまざまな視線の恐怖

番組には「視線恐怖」について100件以上の体験談が寄せられたそうです。それらの体験談から「視線恐怖」は、大きく3つに分けられることがわかったそうです。

●他者視線恐怖
「他者視線恐怖」は、他人からの視線を怖いと感じることです。電車の中などで、自分の視界に入ってくる他人の視線から目を背けてしまうという体験談が番組では紹介されました。また、いつでも他人の視線を気にしながら行動しているので、とても疲れてしまうという人もいるそうです。

●自己視線恐怖
「自己視線恐怖」は「他者視線恐怖」とは反対で、自分の視線が他人を不快にしているのではという不安を抱えていることです。
無意識に他人を横目で見てしまい、見られた人が不快に感じているのではないかと大きな不安を感じてしまいます。このような自己視線恐怖から学校を休学するなど生活に支障が出てしまっている人もそうです。

●脇見恐怖
番組に寄せられた体験談で特に多かった「脇見恐怖」。正面を見るかわりに、周りをチラチラと見てしまうことです。番組では、高校3年間脇見恐怖に悩んだ大学生のTさん(女性)にインタビューをしていました。
ふと気がつくと人を見ていたというTさん。正面からは人を見ることができず、横目で見てしまうので睨んでいるように見えてしまう……クラスメイトたちに「あいつ、また見ていたな」というような悪口を言われるように。自分が見なければ相手も嫌な思いをしなくてもいいのだという罪悪感に悩んだことも。そして、Tさんは、そんな自分をとても恥ずかしく、死んでしまいたいと思ったこともあったそうです。

多くの人が視線を怖いと思った経験はあるはずです。けれども、それが学校を休むほどの怖さになる、という理解はまだ進んでいないと清水先生が話していました。

 

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視線の恐怖の正式名称は「社交不安症」

視線を怖いと感じるのは「視線恐怖症」という病名ではなく、正式には「社交不安症」という名前があるそうです。英語では「Social Anxiety Disorder (ソーシャル アングザイティー ディスオーダー)」。社交不安症はDSM-5という精神疾患の国際的な判断基準の「不安」というカテゴリーに入っているとのことです。

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ハートネットTV『視線の恐怖』より

社交不安症と対人恐怖症

日本で対人恐怖症の研究が始まったのは100年以上前。当時、対人恐怖症は日本の文化や社会から来るもので、日本にしかない精神病だと考えられていました。けれども、その後他国でも同じような症状があることが発覚。それから、社交不安症という名称で国際的な判断基準ができたと清水先生は説明していました。
「対人恐怖症」について最初に海外に発信したのは「精神療法の父」と呼ばれている森田正馬博士。ですから、対人恐怖症とローマ字で書くと社交不安症のことだと海外の研究者でもわかるそうです。

 

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社交不安症の症状

社交不安症の症状には、人と接することに対するさまざまな不安や恐怖が含まれています。視線恐怖以外には、人に食事をしているところを見られるのが怖い「会食恐怖」。字を人前で書こうとすると手が震えてしまう「書痙(しょけい)」などがあるそうです。

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ハートネットTV『視線の恐怖』より

不安や恐怖といった感情を持つことは生きていくのには大切。けれども、これらの感情が強くなりすぎると病気の症状ということになってしまうとのことです。

 

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社交不安症を発症しやすい年代

社交不安症を発症しやすいのは中高生。清水先生が行った調査では高校生700人のうち約3割が社交不安症の症状があったとのこと。小学校高学年ぐらいから人前で発表することなどに不安を感じ始める場合もあるそうです。自我が目覚めて、スクールカーストという言葉があるように、人間社会の序列(ヒエラルキー)が気になりはじめることが原因。清水先生自身も小学6年生のころにスピーチ恐怖を感じ辛かった経験があると話していました。

不安を感じているときの脳の状態

人間が不安を感じるときは脳の大脳辺縁系の「扁桃体(へんとうたい)」という脳の中枢の動きが活発になるそうです。

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ハートネットTV『視線の恐怖』より

不安を感じやすい人は、扁桃体が敏感に反応して「不安の悪循環」に陥ってしまいます。
人と接してネガティブな体験をすると、「次も同じようなことが起こるのでは」と考えて不安になります。それで、人を避けているとさらに不安が……。このように不安がどんどん大きくなってしまうのです。感受性が豊かな人は不安に対する感受性も高くなってしまうと清水先生が説明していました。

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ハートネットTV『視線の恐怖』より

番組のインタビューに答えたSさん(22歳、女性)。中学時代までは部活のリーダーをしていて、人と話したり、人前に立ったりするのが大好きだったそうです。けれども、高校の修学旅行で信頼していた友人に何気なく「目線が怖いよ」と言われたことで不安の悪循環に陥ってしまいました。はじめのうちは、自分が人に送る視線に対しての不安だったのが、次第に他人からの視線も怖くなってきたそうです。それで、不安から周りを見ることができなくなってしまったとのこと。そして、そういう自分を他人がおかしいと思っているのではとさらに不安に。社会人になった今も、メガネを使って視野を狭くするなど視線が気にならないように工夫をしているそうです。そして、その工夫にも疲れるとSさんは話していました。ただ、Sさんは視線が怖くても人と接するのが嫌いなわけではなく、福祉関係の仕事をしています。清水先生は、社交不安があるからといって「人嫌い」というわけではないことが、この問題のもどかしさだと話していました。

社交不安症の相談先

視線恐怖など社交不安症の悩みを周りの人に相談しても「気のせいだ」とか「気持ちの持ちようだ」などと理解してもらえないケースは多いようです。あまりに不安が強いときは、精神科医や心療内科医に相談するのが良いそうです。学生の場合は、まずスクールカウンセラーに相談することを清水先生は勧めていました。

社交不安症の治療法

医療機関で行われる社交不安症の治療は認知行動療法。患者が専門家と話をするセラピーで、患者の認知・行動・感情・注意のパターンを分析するそうです。まず、患者自身にネガティブな感情に支配されている「ものの見方」や「くせ」について理解してもらいます。それから、そのくせを治すにはどうしたらよいのかということを理解してもらうとのことです。例えば視線恐怖の場合は、自分の内側に向いていた注意を外に向けるようにするトレーニングをすると清水先生が説明していました。
認知行動療法は、うつ病の治療にも効果があるといわれています。

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ハートネットTV『視線の恐怖』より

環境の変化で社交不安症が改善

高校時代に『脇見恐怖』に悩んでいたTさん。大学に進学して、高校時代のようにみんなが隣り合って座るということがなくなってから、視線があまり気にならなくなったといいます。また、症状が少し改善したことをきっかけに、大学で出会った友達に悩みを打ち明けたそうです。すると、その友人が悩みを打ち明てくれてありがとうと言ってくれ、改善にも協力してくれることに。Tさんは、脇見恐怖になったのも人と環境だったけれども、それらが変わると自分も変わることができるのだと思ったそうです。

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清水先生は一般の人がワークブック形式で社交不安症の改善に取り組むことができる本を執筆しています。

自分で治す「社交不安症」
清水 栄司

 

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まとめ

不安や恐怖などは誰にもある感情なので、真剣に悩んでいる人から相談されたとしても「気にしなければいい」などと軽く扱ってしまいがちです。けれども、社交不安症という病気のことを知っていれば、周りで大きな不安や恐怖を抱えている人をもっと上手にサポートすることができるでしょう。そして、その人をネガティブな状態から助けてあげられるようにしたいですね。


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