先日の『ハートネットTV』では、「ナルコレプシー」について取り上げていました。聞き慣れないこの病気ですが、突然自分ではどうすることもできない眠気がおそってくるという、深刻で「困った」病気です。社会的な認知が進んでいないため、患者は病気の悩みに加え、周りから理解されないという悩みに苦しむといいます。このナルコレプシーについて病気の実態、原因、治療などについて伝えていました。
解説をするのは、睡眠研究の第一人者である金沢大学大学院医療保険学総合研究科の櫻井武教授です。
睡眠研究の第一人者である櫻井武教授は、睡眠の謎を解き明かす次のような本を書かれています。
「睡眠の科学―なぜ眠るのかなぜ目覚めるのか」講談社
「睡眠障害のなぞを解く 『眠りのしくみ』から『眠るスキル』まで」講談社
「<眠り>をめぐるミステリー―睡眠の不思議から脳を読み解く」NHK出版
興味のある方は手にとってみられてはいかがでしょうか。
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ナルコレプシーとは?
ナルコレプシーは、アメリカで使われ世界的な基準となっている「DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引」に、次のように記載されているそうです。
抑えがたい睡眠欲求
睡眠に陥る またはうたた寝する時間の反復が同じ一日の間に起こる
これらは過去3ヶ月以上にわたって少なくとも週3回以上起こっていなければならない
ナルコレプシーは睡眠障害(過眠症)のひとつであり、一番障害となる症状は「眠くてしょうがない」ということです。櫻井教授は、
「面接中や、危険な作業をしている時、普通なら前日寝不足であろうと起きていられるものだが、ナルコレプシーだと寝てしまう。なんとかしようとしても、眠気にあらがえず、急にスイッチがオフになり、楽しみにしていて何万円も出してチケットを買ったライブ中に寝てしまう」
と、具体例を紹介します。絶対起きていないといけない場面でも、そうした意思に関係なく眠気にあらがうことができないという、大変不便であり、命にすら関わる可能性がある症状です。
実際にナルコレプシーを患っている人からは
中学の時授業中に起きていられず、ナルコレプシーと診断された。
卒業後に就いたレジ打ちの仕事でも、仕事中に寝てしまった。
中学の頃から抗えない眠気におそわれるようになった。
センター試験中に寝てしまい受験に失敗した。
といった、深刻な体験談が寄せられました。
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ナルコレプシー患者の生活に密着
Aさん(41歳女性)は眠気がひどく定職に就いていません。朝は9~10時に起床し、まず薬2種を飲みます。これは脳を覚醒させる薬だそうです。
夜は寝ているけれど熟睡感がなく、悪夢(=入眠時の幻覚)を見たり金縛りにあったりするといいます。このため、夜は夜で睡眠薬を飲んでいます。前日に戦争やテロのニュースを見ると、自分が戦地にいる悪夢を見てしまい、それがあまりにリアルなため夢か現実か区別がつかず、ショックを数日引きずるため寝るのがこわいと語ります。
しかし眠気に勝てず、取材中にも関わらず数回に渡って横になり30分ほどの仮眠を繰り返しました。食事の途中でも寝てしまうほどです。
Aさんが発症したのは中学生のときで、その後引きこもりになり、やがてうつ病になりました。仕事も人並みにできず、ひとから理解されず、自分を責め続けてきたし、人生のほとんどを眠りに費やした自分が悔しいといいます。病気への理解が進み、偏見が減ることをAさんは願います。
なお、症状には個人差があり、投薬治療で症状が緩和されて仕事や勉強を続けることのできる人もいるそうです。
ナルコレプシーに投薬される薬はどんなものなのか、調べてみました。次のサイト(http://www.skincare-univ.com/article/011826/)によると、日中に繰り返される眠気には精神刺激薬が使われ、日本では具体的に次の3種の薬が処方されるそうです。
モダフィニル(製品名「モディオダール」)
メチルフェニデート(製品名「リタリン」)
ぺモリン(製品名「ベタナミン」)
この中から単独か、もしくは番組で紹介されたAさんのように複数を組み合わせて服用します。
参考にしてみてください。
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ナルコレプシーの実情
統計によるとナルコレプシーになるのは600人にひとりほどだそうです。櫻井教授によると、
「中学生頃に発症することが多いが、実際に診断されるのは20代になってからが多い。眠気があっても忙しく疲れているとか、ゲームのしすぎといったことに原因を求めてしまい、眠気が病気だと認識されずに年月が経過することが多い」
と解説します。
ナルコレプシーの症状とは
ナルコレプシーの症状には次のようなものが挙げられます。
日中の過剰な眠気
カタプレキシー
入眠時幻覚
睡眠麻痺(金縛り)
<カタプレキシー>
カタプレキシーとは「情動脱力発作」のことで、患者の8割に症状があるといいます。笑うとかびっくりしたといった「感情」がきっかけとなり筋肉の力が抜けてしまうのだとか!
急に筋肉の力がなくなってしまうため、倒れてしまうこともあるそう。30代女性は、
「突然膝から全身の力が抜ける。外でカタプレキシーが起こると周りに急病人と勘違いされたり奇異に見られるので、面白い話題を避けるなど会話を楽しめなくなった。赤ちゃんを抱いているときにカタプレキシーが起こり、赤ちゃんを落としかけたことが何度もある」
と、命の危険にも関わるその体験を語ります。
カタプレキシーが起こるメカニズムですが、レム睡眠と深い関係があるといいます。櫻井教授は
「レム睡眠中は夢を見ており、人は夢の中で体を動かしている。しかしその動きを実際にしてしまうと困るので、そうならないように脳が筋肉を弛緩させ、レム睡眠中は体が動かなくなっている。ナルコレプシーの人はレム睡眠に入りやすく、起きているときにレム睡眠に似た状態に入ってしまうのがカタプレキシーだ。」
と解説します。笑ったりびっくりしたりという感情が、レム睡眠に切り替わるスイッチになっているというのです。
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ナルコレプシーの原因
ナルコレプシーの原因は、覚醒を維持する脳内物質「オレキシン」を作る細胞が死んでしまっていることだそうです。オレキシンは、画像にあるように覚醒の状態に働きかけて起きている状態を安定化させる物質ですが、ナルコレプシーの人にはオレキシンがない状態です。
ハートネットTVより
オレキシンは口から投与しても胃で分解され、注射しても血液中で分解されてしまうので、末梢から投与することはできないのだそうです。現在、治療薬の開発が続けられている状況で、櫻井教授は
「10年もすれば画期的な治療法ができると思う」
と展望します。
ナルコレプシーの患者と家族の会として「日本ナルコレプシー協会」があります。
こちらのページではナルコレプシーの知識やQ&Aのほか、「睡眠障害専門病院リスト」も紹介されています。
ナルコレプシーを疑っている方やより詳しく知りたいかた、医療機関を探している方、患者や家族とつながりたい方はチェックされてみてはいかがでしょうか。
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まとめ
ただの眠気と思っていても、それがあまりにひどく日常生活に支障が出るようであれば、実は「ナルコレプシー」という深刻な病気の可能性もあるということがわかりました。このような病気があるという認識を深めて患者さんに理解のある世の中になることを願います。また疑いのある人は、専門医を受診し適切な治療を受けてたいですね!