心臓の血管がつまると「心筋梗塞」になります。
心筋梗塞になると心臓が酸欠状態になり、心臓の細胞が次々に死んでいきます。最悪の場合は命を落とすことになり、命が助かっても重篤な後遺症が残ることがよくあります。
このような特徴をもつ心筋梗塞ですから、症状が出る前の予防を心がけなければいけません。
そこで今回は、心筋梗塞の予防に関して有効な情報を紹介していた『ガッテン!』を参考にまとめていきたいと思います。
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酸素が少なくても動き続ける心臓がある
国立循環器病研究センターの山崎悟氏はゼブラフィッシュという魚を用いて心臓の研究をしています。人間と魚は心臓の機能がほとんど同じであるため、観察しやすいように遺伝子操作を行い、心臓が光ったり体が透明だったりするゼブラフィッシュをつくって研究しているそうです。
その過程で、心臓を強化した“スーパーゼブラフィッシュ”が誕生したそうです。心筋梗塞になるような低酸素の環境下でも、スーパーゼブラフィッシュの心臓は1時間以上活動し続けるというのです。
人間でも、これに似た心臓になることがあるそうです。
スーパー心臓?
Fさん(73歳男性)は15年前に心筋梗塞で倒れました。夜中に胸の激痛で目覚め、救急車で運ばれたそうです。緊急手術で一命をとりとめましたが、医者には「5分遅かったらもうだめだった」と言われたそうです。
そして6年後のある晩、2度目の心筋梗塞で再び緊急手術を受けることになりました。
このときは心停止にまで至り、Fさんは眼球にライトを当てられている様子をいまだに記憶しているそうです。幸い、その後の蘇生措置で心臓の活動は再開しました。
驚くべきことに、Fさんは2回も心筋梗塞になったにも関わらず、心臓の機能が落ちなかっただけでなく後遺症も出ていません。
心臓は自身に血液を送るための血管(冠動脈)が張り巡らされていますが、詰まると酸素が無くなり、細胞が死んでいきます。これが心筋梗塞の状態なのですが、一度死んだ細胞は再生しないので、一命をとりとめても重い後遺症が残ることが多いのです。
それなのにFさんの心臓に何も異常が残らなかったというのは、Fさんの心臓が遺伝子操作したゼブラフィッシュの心臓のような“スーパー心臓”だったからだというのです。
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Fさんがスーパー心臓を手に入れた理由
Fさんは心筋梗塞の2週間前から「胸をペンチで締められるような痛みが何回か続いていた」と話していました。2回目の心筋梗塞のときにも、発症の1時間前に同じような痛みがあったそうです。
この痛みが、心臓を“スーパー心臓”にしたのです。
心臓では、冠動脈を通じて酸素が心臓中に供給されています。
その酸素を、心臓の細胞に棲んでいるミトコンドリアが食べて、ATPという心臓を動かすためのエネルギーを作り出しているのです。
Fさんが心筋梗塞の前の胸を締められるような痛みを感じたとき、心臓では冠動脈が狭くなって血液が流れにくくなる「狭心症」の状態になっていたと考えられます。こうなると酸素の供給量が少なくなるため、心臓は動けなくなるような危険な状態になります。
この際にミトコンドリアは、普段よりも少量の酸素でも十分なエネルギーを生み出せるように変化をするといいます。これを「プレコンディショニング現象」というそうです。
Fさんはこの現象が心筋梗塞の前に起こっていたことが幸いして、いざ心筋梗塞が発症した時にダメージが少なくて済んだと考えられます。
この現象について国立循環器病研究センターの北風政史氏によると
「昔から、狭心症発作が重なって何回も起こっている人の方が、心筋梗塞の予後が良いと知られていた」
といいます。死亡率を見ても、狭心症があった人の方が入院中の死亡率が低いことがわかっています。
ガッテン!より
その後の研究の結果、狭心症が生じるとミトコンドリアがパワーアップしたり、血管の迂回路が作られたりして心臓が強くなることがわかりました。
ただし、この効果は数日で消えてしまうそうですから、胸の痛みがあったからといって安心してはいけません。痛みがあったらすぐに病院へ行くようにしましょう。
このようなことを知ると、スーパー心臓になれたらなぁと考えてしまいますよね。
心臓を強くする原理を知れば近づくことはできるようですから、その方法を見ていきましょう。
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心臓を強くする方法
心臓を強くするには、軽い負荷をかけるのが有効だそうです。
群馬県立心臓血管センターの安達仁氏は、病気の心臓を運動などで治療している専門家です。そんな安達氏によれば
「誰でもスーパーミトコンドリア(強化されたミトコンドリア)を出す素養は持っている」
といいます。
心臓に負荷をかけるということは心臓の動きを早くさせることであり、心臓がたくさんエネルギーを必要とするということですから、酸素をより多く必要とします。そうなると普通のミトコンドリアの能力では足りなくなるため、少ない酸素でもエネルギーを生み出せるスーパーミトコンドリアが出て来ると考えられているそうです。
軽い負荷をかけるには有酸素運動という持続的な運動が勧められていて、心拍数が110くらいになる有酸素運動がちょうどいいそうです。それを30分間、週3回行うことが理想的です。(イメージとしては少し頑張って自転車をこぐくらいの運動だそうです。)
歩くときは少し早歩きで、ルートにゆるい坂道を加えるといいそうで、日常生活のなかで子どもを抱っこして階段を昇り降りするなどの工夫をすることでも運動にすることができます。辛くてしょうがないペースではなくて、隣の人と会話ができるくらいのペースで、息が苦しくなる直前くらいの運動を行いましょう。
心臓病になった人だけでなく、なりたくない方への予防的な運動指導でも心拍数110程度が勧められているそうです。
このように軽い負荷をかけてミトコンドリアに「酸素が足りない」と感じさせればいいわけですが、ただ歩くだけでは不十分で、坂道や筋トレなど強度の高いものを取り入れると心臓は“スーパー”になりやすくなります。
たとえば壁に手をついて行う「壁立て伏せ」などがあります。
ガッテン!より
これを1日10回くらいから始めてみましょう。
ただし、心臓に疾患を持っている人は逆効果になることもあるので、必ず医師に相談をしてから行うようにしてください。(足腰や膝に痛みがある人も注意が必要です。)
実施後も、激しい動悸や息切れ、胸の痛みなどが出てきたらすみやかに中止して、病院を受診するようにしましょう。
安達氏は
「自分が健康だと思っているだけの人がいる」
と指摘していました。
「症状があるにも関わらず“歳のせいだろう”“みんなそうだろう”と考えているが実はすごい病気が隠れているという場合もあるので、同年代の人と運動をして自分だけ息が上がるなどある場合は病院へ」
と注意を促していました。
適切な運動には、安静時の脈拍数が正常化するという利点もあります。
正常よりも脈拍の多い人が有酸素運動を3週間続けると、脈拍数が96回から80回に改善していました。
心臓を“スーパー”にすることは日常動作を楽にすることにもつながるのです。
ちなみに、2000年までは心臓病の教科書に「心不全の人は安静」と書かれていたそうですが、その後、運動をした方が足の筋肉が強くなったり心臓自体が強くなったりして血液を送り出す力が高まることが明らかになり、治療方針が変わったそうです。
実際に、運動をしたほうが心臓病の再発や別の病気の併発は減少したそうです。
運動と心臓に関する知識
運動をして体を鍛えると、心臓の1回あたりの血液の拍出量が増えるため、少ない拍出数でも必要な血液を全身に送り出すことができるようになります。
さらに、ウエイトトレーニングには血管を柔らかくする効果もあるそうですから、動脈硬化の予防にもつながります。(カナダのブリティッシュ・コロンビア大学のチームがウエイトトレーニングとエアロバイクの効果を比べたところ、運動習慣の有無や糖尿病疾患の有無に関わらず、すべての被験者で共通して、ウエイトトレーニングの方が血管内皮の伸縮性が上昇したそうです。)
・運動のやり過ぎには注意
カリフォルニア大学ローレンスバークリー研究所のポールウィリアムス氏と、ハートフォード病院のポール・トンプソン氏の研究で、高いレベルの運動と心血管系リスクには関連があることが明らかになりました。
張り切ってやり過ぎないように注意しましょう。
・その他の注意点
ランニングなどの有酸素運動はウエイトトレーニングなどの無酸素運動の後に行った方が効果的だそうです。
有酸素運動で体内のエネルギー源であるグリコーゲンが減少してしまうことや、有酸素運動で発生する酵素が筋力増強に必要なmTORという酵素のシグナル伝達を阻害することなどが、能力向上の効率を下げてしまうそうです。
また、突然の運動の開始には注意が必要です。
順天堂大学大学院スポーツ医学教授で整形外科医の櫻庭景植氏によると、昔スポーツをやっていた人ほど注意が必要だそうです。
運動内容としては、速筋(瞬間的に大きな力を出す筋肉)をつかう瞬発系(短距離走やテニスなど)の動きが危険だそうです。
これは30代,40代の人も例外ではないそうですから、覚えておきましょう。
心筋梗塞早期発見のポイント
心筋梗塞のサインは直接的で、胸の痛みや圧迫感が大きなサインとなっています。
しかし、お年寄りは痛みが少ない場合もあるそうです。突然の息苦しさや冷や汗、気持ち悪さがサインになるので、見逃さないようにしましょう。
まとめ
心臓のためには絶対安静よりも適切な運動をした方がいいというのは、大きな変化だと思います。
心臓に少しでも不安がある方は、必ず医師に相談した上で運動を取り入れるようにしてください。