出産の際、「無痛分娩」を選択する方が増えています。
無痛分娩というのは、背中から麻酔を打って分娩の際の痛みを和らげるものですが、「麻酔によって亡くなる人もいる」などの情報もあり、不安を感じている人も多いようです。
現在、全国約2500の分娩施設を対象に、無痛分娩がどの程度実施されているかを調査している最中であるなど、日本ではさまざまな面でまだまだ“整備中”という部分もあるため、一般にもその実態はよく知られていません。
そこで今回は、『あさイチ!』にて特集されていた内容を元に、無痛分娩についてまとめていきたいと思います。
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「無痛分娩」というけれど痛みはない?
順天堂大学医学部附属順天堂医院では、出産する妊婦のうち約3分の1の方が無痛分娩を選んでいるそうです。
番組が取材した際に出産を迎えた女性は、当初自然分娩の予定でしたが、陣痛の痛みが激しくなったので急遽、無痛分娩に切り替えました。
子宮口が5センチほど広がったところで、脊髄の近くに麻酔を注射します。痛みに苦しむ声を出していた女性ですが、注射をして数分後には痛みが引いたようで、穏やかな様子になっていました。
この病院では、産婦人科医や麻酔科医が24時間体制で常駐しています。特に無痛分娩の麻酔をうった後は注意を払っているそうで、産科専門の麻酔科医である角倉弘行氏は、女性の容態を示すモニターを注意深く見ていました。
あさイチより
赤ちゃんの心拍数や母親の心拍数、子宮の収縮度合い等を確認します。
このモニターチェックに加えて、1時間に1回は母親の顔色を見たり会話をしたりして状態を逐一把握しているようでした。
麻酔を入れてから6時間後、女性の子宮の出口が完全にひらき、無事に出産に至りました。
出産後は、麻酔を入れるために背中に挿していたカテーテルを抜きます。
無痛分娩のリスクとメリットについて、角倉氏は
「麻酔科医などの専門家が常駐していれば、麻酔による合併症や緊急帝王切開、産褥出血にも対応できる。そういったところまで体制が整っていれば、無痛分娩のリスクよりも無痛分娩をやることの利益のほうが大きくなる」
と話していました。
無痛分娩では、麻酔が効き始めると落ち着いて会話ができるまで痛みが軽減されますが、まったく痛みがなくなるわけではありません。
そのため、「和痛分娩」と呼ぶ医療機関もあるそうですが、内容は無痛分娩と同じものだそうです。
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無痛分娩の安全性
産婦人科医の池田智明氏は、たとえば「24時間対応できる」、「産科麻酔科医がいる」など「リスクに対応できる体制が必要」と指摘していました。
全国約2500の分娩施設のうち3〜4割でその体制が敷かれており、さらにそのうちの7割では産婦人科医が無痛分娩を担当しているそうです。
産婦人科医は異常が起こった時にどのように対応するかトレーニングされているので、そのような機関では比較的安心して無痛分娩を行うことができるとのことです。
無痛分娩における「不測の事態」というのは、池田氏によると「よく起こるのは麻酔をうったことによる低血圧」だそうで、「点滴輸液をしたり血圧を上げる薬を投与したりなどして対処する」そうです。
視聴者から番組に届いた声の中で、14年前に無痛分娩で出産した人は「出産後1ヶ月くらい手のしびれがとれなかった」というものがありましたが、池田氏は「いまは昔よりも薄い麻酔薬を使う。痛みを感じる神経だけを麻痺させるので、運動のための神経には影響がない」と解説していました。
このように、しっかりした体制の病院で出産すれば無痛分娩の安全性は上がっていますが、(たとえば血液が止まらない人など)体質的に無痛分娩に適さない人もいるそうなので、事前に検査を受ける必要があるそうです。
病院の選び方
たとえば「麻酔についてよく説明してくれるかどうか」や、「質問した時に丁寧に答えてもらえるか」などを意識して選ぶと良いでしょう。
池田氏は「担当の先生や助産師さん、看護師さんなどに気軽に質問するのが良い」と話していました。
赤ちゃんへの影響
麻酔による胎児への影響は、今のところ報告されていないそうです。
池田氏によると「母乳に関しても安心できる」とのことでした。
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無痛分娩の費用
自然分娩の費用にプラスして5〜20万円ほどだそうです。これは施設によって異なります。
保険が効かないということも覚えておきましょう。
無痛分娩に関するその他のメリット・デメリット
・お産がスムーズに進む面がある
40歳以上の妊婦の場合、無痛分娩の方が(帝王切開でなく)経膣分娩できる可能性が高くなるそうです。(痛みがないと緊張が少ないため産道が柔らかくなり、赤ちゃんが下りて来やすくなるそうです。)
・お産が始まってから無痛分娩にするかどうかを決めることも可能
番組内で取材されていた女性もそうでしたが、当初の予定では麻酔を使わないで出産するつもりで臨み、その時になって「どうしても痛みが激しくて耐えられない」となった場合などに、その場の判断で無痛分娩に切り替えるということも可能です。
・急に帝王切開することになった場合にもメリット
緊急に帝王切開に踏み切るような事態になった場合、麻酔を注入するルートがあらかじめ確保されている無痛分娩だと、より迅速に対応できるという利点もあるといいます。
・産後の体力の回復が早い
・赤ちゃんへの血流が下がることがある
本文中でご紹介した通り、麻酔薬が胎盤を通じて赤ちゃんに悪影響を与えることはないというのが医学界の通説です。
しかし、麻酔によって母体の血圧が低下し、赤ちゃんへの血流が減ることはあので、分娩中に血圧を監視し、異常があったらすぐに対処する必要があります。
・いきみにくくなる
麻酔によって母親の足の感覚が鈍くなり、いきみにくくなることがあるそうで、出産時間も1時間ほど長くなる傾向があるそうです。
管を入れる腰部のかゆみや発熱なども報告されています。
・頭痛が起きることも
出産後には100~200人に1人の割合で頭痛が起きるそうです。また自力で尿が出しにくくなり、カテーテルが必要になる人もいるそうですが、これらはだいたい2、3日で治るそうです。
・子宮収縮剤を使用することも
無痛分娩は陣痛が弱くなりがちで、「子宮収縮薬を増量する。すると痛みが増すので麻酔を追加し、陣痛が弱くなるので子宮収縮剤を増量する…」というようないたちごっこになる場合もあるそうです。
・日本国内では不十分な体制で無痛分娩を実施している施設もある
米国で約1千例の産科麻酔の経験を持つ大阪大の大瀧千代講師(麻酔集中治療医学)によると、
「(無痛分娩は)海外でかなり普及して安全も確立しているが、日本では体制の整わないまま導入されている。産科医が分娩全てを行う診療所では、明らかなオーバーワーク状態であり、特に緊急時には産科医と麻酔科医、小児科医と最低でも3人の医師が必要で、産科医一人では危機的状態に陥る」
と指摘しています。
やはり、医療機関選びが大事になるようです。
参考:
NIKKEI STYLE
DIAMOND online
産経ニュース
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まとめ
体制がしっかりと整っていれば、無痛分娩は高い安全性が確保されていることがわかりました。
命にかかわることでもありますから、遠慮せずに気になることは全て相談し、安心して出産できる医療機関を選ぶようにしましょう。