腸内フローラがもたらす、太りづらい体質と長寿〜『みんなの家庭の医学』より

「少ししか食べてないのに、どうして太ってしまうんだろう?」

こんな風に思ったことはありませんか?
そんな悩みを抱える人がたくさんいる一方で、「いくら食べても太れない…」という人も、たまにいます。こうした「太りやすい体質」「太りづらい体質」の原因が、近年の研究によって明らかになりつつあるといいます。

その際に鍵となるものが「腸内フローラ」
フローラはラテン語で「花畑」という意味で、腸内の細菌の分布を表現した概念です。
この「腸内フローラ」について『みんなの家庭の医学』で紹介されていましたので、まとめておきます。

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太いやすい人と太りにくい人の違い

番組では、太りやすい体質だという看護師のRさんと、逆に太りにくいという専業主婦のSさんが登場し、実験に協力。2人の生活を観察していました。両者は共に53歳の女性です。

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みんなの家庭の医学より

太りやすいというRさんのBMI(肥満度を示す数値)は標準の範囲内ですが、2年前には今よりも13キロも太っていて、ジムに通ったりダイエット食を取り入れたりなどの努力を続けることで、ようやく現在の体重にしたのだといいます。

一方、太りにくいというSさんは、

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みんなの家庭の医学より

基本データはRさんとほぼ変わりませんが、本人によると
「お正月など運動不足になりやすい時は若干体重が増えるが、また日常生活が始まれば、特にダイエットなどをしなくても体重は落ちていく。」
とのことでした。

似ているようで違うこの二人に対して、三日間まったく同じものを食べてもらい、体重に差がでるかどうかの実験が行われました。
特別な運動などは行わず、食べ物以外は普段の生活をそのまま続けてもらうスタイルです。

まず、太りやすいRさんを見てみると、普段の朝食は低カロリーを心がけたシリアルなどで387kcalほどですが、今回の決められた食事では……

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みんなの家庭の医学より

豚汁や魚などをしっかり摂る内容で547kcalとなっているため、いつもよりも160kcalも多く取らなければならないことに。
と言っても、太りづらいSさんも普段はパン食を中心に380kcalほどであるとのことなので、ここも同じ条件です。

看護師として勤務するRさんと、専業主婦として家事をするSさん。
消費するカロリーはRさんの方が多そうですが、体重はどのように変化するのでしょうか。

4日後、体重を計測してみると……

太りやすいRさん・・・プラス900g
太りづらいSさん・・・マイナス100g

なんと、わずか3日で差し引き1kgもの差が出ています!

この結果を受けて、慶応大学医学部腎臓内分泌代謝内科の伊藤裕医師は

「太りやすいかどうかを見分ける時に、その人の毎日の生活の中である生活習慣に注目することで見分けることができる」

と指摘しました。

その生活習慣が、「トイレ」だといいます。

3日間の観察で、太りにくいSさんは食後すぐにトイレに向かい、大きい方の用を足していました。一方、太りやすいRさんは食後も一向にトイレに向かわないどころか、3日間1度も大きい方を催すことがありませんでした。

太りにくいSさん
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太りやすいRさん
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みんなの家庭の医学より

Rさんは40年来の便秘持ちで、Sさんの方は便秘になったことが一度もないそうです。

この違いを見ると、「便秘で便が溜まっている分だけ太ってしまった」という風に考えてしまいがちですが、便だけで1kgも増えるわけはないのだそうで、そういった単純な原因による増加ではないといいます。

伊藤医師によると、便秘の人には、太りやすい身体になってしまう“ある問題”が腸内に潜んでいる可能性があるとのこと。
その“ある問題”を可視化するのが、今回のテーマである「腸内フローラ」なのです。

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腸内フローラ

便秘は、腸内細菌のバランスが崩れると起こります。
この腸内細菌のバランスの崩れが肥満と関係しているのでは、ということで、いま非常に注目されているといいます。当サイトでも糞便移植など、腸内細菌について取り上げた記事がいくつかあります。

腸内細菌というのは、腸の中で生きて活動している細菌です。
腸内に常時100兆個もの菌が棲息していて、そのままでは人間が消化できない栄養分を分解して吸収できるようにしてくれるような働きや、ビタミンやタンパク質の合成をするといった働きをもっています。
腸内細菌は、その働きから、主に3種類に分類することができます。

・善玉菌
ビフィズス菌や乳酸菌など。食物からのエネルギー吸収をコントロールし、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)を促す作用がある。

・悪玉菌
大腸菌など。食物を腐敗させ、時にはがんの原因となるなど、人に害を与える事が多い。

・その他の菌(日和見菌)
そのときの環境によって善玉にも悪玉にもなる、その他大勢の菌。

これら3つのグループを合わせて、1000種類以上の腸内細菌が腸の中に広がっているのですが、その分布する様子を可視化したものが「腸内フローラ」なのです。
無数の菌がひしめき合って共存しているさまが花畑(=フローラ)のようだ、ということでこう名付けられました。

健康な人の腸内フローラは

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みんなの家庭の医学より

善玉菌(青)が悪玉菌(赤)より多いですね。
理想の比率は

善玉2:悪玉1:その他7

という割合だそうです。

一方、このバランスが崩れて善玉菌が減少すると……

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みんなの家庭の医学より

腸の蠕動運動が悪化し、便秘になってしまうのだそうです。

蠕動運動
消化管などの臓器の収縮運動のことで、内容物を移動させる役割をしている。主に食道から直腸までの運動をいう。蠕動運動は自律神経の働きによって行われているため、意識的に調整することはできないが、食物や水分をとる、運動をするなどの刺激を与えることによって活発になる。

gooヘルスケアより

さらに、善玉菌によって抑制されていたエネルギー吸収が抑えられず、体中の細胞内に過剰に蓄えられてしまうことに。これが太りやすい体を作っているのではないかと、考えられているのです。

太りやすいRさんも腸内細菌のバランスが崩れていたために便秘になり、同時に、太りやすい体質になっていた可能性がある、ということだったのですね。

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腸内細菌のバランスが崩れると

100兆個の腸内細菌は、全部あわせると重さが約1kgもあるといいます(ちなみに大便から水分を除くと半分近くは腸内細菌の死骸なんだそうです)。

このように大量に存在している腸内細菌のバランスは、どうして崩れてしまうのでしょうか。

その2大原因が「加齢」と「高脂肪食」だといいます。

赤ちゃんの腸内細菌はほとんどが善玉菌。しかし、加齢とともに腸の細胞の入れ替わりのサイクルが鈍くなり、腸内の環境が悪化することで悪玉菌が住みやすい環境になってしまい、バランスがおかしくなるのだそうです。
また、「高脂肪食」は悪玉菌が好むエサなので、これも引き金になる可能性があるとのこと。

全身の機能に関わっている腸内細菌

腸内細菌のバランス悪化は、肥満以外にもさまざまな病に繋がる可能性が。

そのひとつに「花粉症」があります。

全身の免疫細胞の約60%が腸に集中しています。ものを食べると腸内細菌の動きが活発になり、これによって免疫細胞が活性化する、という仕組みになっています。
しかし腸内環境が悪くなると免疫力のコントロールに不具合が出てきてしまい、過剰に免疫活動を行ったりすることで、花粉症やぜんそく、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患のリスクが高まるのだそうです。

他にもがんや動脈硬化、パーキンソン病、自己免疫疾患、そしてうつ病など、腸内細菌のバランスの崩れが様々な病のリスクを高めてしまうことが近年明らかになってきているといいます。

便移植

このように、腸内細菌のバランスが人間の健康にとって重要であることを逆手に取り、健康を促進する治療も生まれてきています。
その1つが「便移植」です。
なんと、他人の便を腸内に移植することにより腸内環境を正常化させようとする治療法なのです。
健康な人の便を100gほど採ってこれを100ccほどの水にときます。それを胃カメラのチューブで十二指腸まで持って行って流し込んだり、またはおしりから入れたりして行うという、ちょっと勇気のいる治療法です。

便移植
健康な他人の便を移植することで、腸内細菌のバランスが正常化し、症状が改善する可能性が高まると考えたことから生まれた新しい治療法。「ふん便微生物移植」ともと呼ばれ、欧米を中心に研究されてきた。
(中略)
2013年にはオランダの研究チームが院内感染の下痢の原因のクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)の患者の中でも特に治療が難しい再発患者を治験対象として、従来の抗菌薬治療と便微生物移植の対比治験を行ったところ、抗菌薬での治癒率が20〜30%程度に対し、便微生物移植では80〜90%であったことから、注目を浴びた。
現在、この療法で効果が科学的に証明されているのはクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)だけであるが、他の疾患に対しても画期的治療法になる可能性がある。

Wikipediaより

ちなみに、この便移植療法は体質まで変えてしまうことが報告されています。アメリカでは、クロストリジウム・ディフィシル感染症の治療で肥満気味の娘さんから便移植治療を受けたやせ型体質の女性が、移植治療後から急に太り始めたという話がありますし、マウスの実験では大人しい性格のマウスに活発な性格のマウスの腸内細菌を移植したところ、急に性格が活発になったという事例もあります。
うつ病や糖尿病など、様々な分野へ応用する研究が活発になってきているそうです。

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腸内細菌バランスの改善方法

発酵食品を食べたり食物繊維を摂ったりする、というのは一般的な方法ですが、番組では「百寿者」にスポットライトを当てて、改善方法を提示していました。

「百寿者」とは、百歳を超えても健康を維持している元気な高齢者のこと。
百寿者が健康で長生きできる理由の1つに理想的な腸内フローラがあるのではと、世界中の研究者たちが見ているのだそうです。

番組では、特に腸内細菌のバランスが良かった百寿者の生活を追跡し、その健康のエッセンスを抽出していました。

茨城県石岡市に住むMさんは現在107歳。明治40年生まれで湯川秀樹や井上靖と同い年です。そんなMさんの腸内フローラ解析の検査結果を見てみると、なんと番組に先に登場した太りづらいSさんよりも善玉菌の割合が高く、太りやすいRさんと比べると約1.6倍もの善玉菌の割合値が検出されたのです。

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みんなの家庭の医学より

このような腸内環境ですから、やはり昔から太りづらい体質だったそうです。
107歳になった今でも週に1回ステーキを食べているのに、BMIも正常値だといいます。

そんなMさんの日常生活を追う中で、習慣として紹介されていたのが「昼寝」でした。昼食後に毎日1時間、昼寝をしているのだそうです。
また、趣味の刺繍も紹介されており、70代になって刺繍に目覚めたMさんの腕前は今や個展を開くほどになっているそうです。そうして手先を使っていることも健康の秘訣の1つであるようですね。

こういった習慣を紹介した上で、伊藤医師が「腸内細菌のバランスを良くする3つの方法」を指摘していました。

1つ目は「食事で多くの品目をとること」
腸内細菌にはいろんな種類のものがいて、それぞれに助けあっていることが重要だといいます。Mさんのように様々なものを好き嫌いせずに食べることは、正しい腸内細菌バランスを維持するのに不可欠だといいます。腸内環境にいいからといって発酵食品や食物繊維ばかりを食べていてもいけないのですね。
ちなみに、一般的に推奨されている1日の摂取品目数は30品目だそうですが、Mさんの食事を見てみると36品目となっていました。

2つ目は「食後安静にすること」
食後は消化のために血流が腸に集中します。すると腸の動きは良くなり、腸内細菌も活性化。食物から栄養をとり始めます。つまり、Mさんの昼寝の時間は腸内細菌にとってはランチタイムなのです。
この時間を安静にすることで腸に血流が集まり、腸内細菌が元気に育つと考えられるのです。

3つ目は「脳と手先を使う作業をすること」
刺繍は構図を考えながら手先を細やかに使いこなす複雑な作業。
伊藤医師によると、脳と腸は神経が密に結びついているので、脳からの刺激が腸内細菌に影響して、同時に腸内細菌が出す物質が脳を活性化するという良いサイクルが回っているのだといいます。

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まとめ

「腸内フローラ」を詳しく知っていくと、食事でも生活習慣でも、なんでもバランスが大切であるということをあらためて思い知らされました。
バランスの取れた生活が美しい腸内フローラを保って「太りづらい体」をつくり、それが長寿にもつながるのです。


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